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金星統合軍・機甲歩兵・訓練小隊  作者: 川越トーマ
4/21

格闘訓練

「訓練を開始する」

「敬礼!」

 午前中の訓練が開始された。

 全員、軍服ではなく白とグレーのトレーニングウェア姿だった。トレーニングウェアといっても単なるジャージではない。体温調節機能や衝撃吸収機能を持つ優れモノだ。宇宙服の下に着込むことも多い。

 ところで、軍人というのは、いざというときのために延々と訓練に励むのが仕事だ。

 ましてや俺たちは訓練小隊という研修生のような扱いの存在だ。

 ニュー・トロントについた日の翌朝から打ち合わせも事務仕事もなく、俺たちは訓練を開始した。まるで運動部の合宿だ。

 昨日は宿舎に案内された後、ロンやダンとろくに会話を交わすこともなく、部屋にこもって爆睡した。

 同じ家でシャワーもトイレも共同だが、部屋は別々なのでプライバシーは保たれていた。

 四人部屋の『キャンプ』の部屋よりも生活レベルは向上しそうだ。

 周囲に視線を転じると、ドーナツ型の宇宙都市ニュー・トロントの内側上半分は、陽の光を透過する素材で作られ天井全体が白く輝いていた。

 俺は白い巨大なチューブに閉じ込められたような気分になった。金星の浮遊都市に比べると『空』がとても狭い。

 おまけに金星の浮遊都市は地面が平坦だったが、ここは『地面』が細長く、遠くの『地面』はせりあがって見えた。ドーナツ部分を回転させて遠心力による人工重力を得ているためだ。

 慣れるまではだいぶ違和感を感じるだろう。

 地上に建物はなく、見渡す限り耕作地だった。

 年老いた住民が数名、野良着姿で何かの苗の植え付け作業を行っているのが遠くに見えた。

 俺たちが立っていたのは地下への階段があるちょっとした広場で、すぐ横は耕作地の一部を潰して作った間口一〇メートル、奥行二〇メートルほどのグラウンドになっていた。

「ウォーミングアップのためランニングを行う。一列縦隊でついて来い」

「サー・イエス・サー!」

 ハサウェイ少尉は耕作地の中央に設けられた幅五メートルほどの舗装路を軽快な足取りで走り始めた。かなりのスピードだ。俺たちも慌てて後を追った。遅れる者はいなかった。

「若い人は元気でいいねえ」

 風に乗って耕作地で作業している老婆のつぶやきが聞こえてきた。

 視線を巡らせると手を振る小さな子供もいた。

 俺たちは一周約二キロの耕作地中央の舗装路をものの数分で走り切った。

 しかし、ハサウェイ少尉に止まる気配はなかった。俺たちは二週目に突入した。

 他の奴らの様子を窺うとダンの顔が鬼のような形相になっていた。あの巨体でこのスピードの長距離走はきついだろう。

 長身でスマートなロンとユリは、息を弾ませながらも、まだ表情に余裕があった。

 ケイに関しては表情そのものが乏しいので苦しいのか、苦しくないのか、さっぱりわからなかった。

 そして、俺は正直なところ、とても苦しかった。

「少尉…質問しても…よろしいでしょうか」

「なんだ」

 息を切らしている俺とは違ってハサウェイ少尉の声は平静を保っていた。長く豊かな髪が風になびいていた。

「何周ほど走るのでしょうか」

「知りたいのか?」

「はい」

「教えてやらん」

「えっ」

 俺は絶句した。キャンプ中も理不尽なことは多かったが、配属された後もそれが続くのかと思い、暗い気分になった。

「戦闘はいつ終わるか誰にも分らん、ペース配分もできん、これも訓練のうちだと思え」

 ハサウェイ少尉はチラリと俺の方を振り返ると、悪魔のような笑顔を見せた。

 結局、二周目が終わった時点で俺のスピードはガクンと落ちて、集団からみるみる離されていった。

 足が言うことを聞かなかった。心臓が激しく脈打ち頭も痛い。

 俺は走ったり歩いたりを繰り返した。集団から完全に置いて行かれたのは俺一人だけだった。

 ダンは相当遅れながらも集団になんとか食らいついていた。

 地面が弧を描いている関係で小隊の奴らはすぐに見えなくなった。多分相当遅れたのだろう。

 俺が皆に追いついたときにはハサウェイ少尉はクールダウンのストレッチをしていた。

 ロンとユリ、そしてケイは膝や腰に手をあてて必死で呼吸を整えていた。

 ダンは汗を滴らせ激しく肩で息をしていた。

 そして、かなり遅れて到着した俺を物凄い目つきで睨んだ。

「遅いぞテツ! 罰として腕立て五〇回、全員でだ」

《しまった》

 この辺りの扱いは『キャンプ』と全く同じだった。連帯責任だ。他の奴らにいきなり迷惑をかけてしまった。ユリが声を出さず口の形だけで俺を罵った。

「申し訳ありません!」

 俺は大声で皆に謝罪するとクールダウンをすることなく、その場で腕立て伏せを開始した。


 連帯責任の腕立て伏せに続き、舗装路の一角でスクワット、腹筋、背筋等のサーキット・トレーニングが行われた。

「次、回し蹴り五〇回、気合入れろ!」

「はい!」

 筋トレのあとは延々と突き蹴りの練習だった。この日の午前中の訓練は格闘技一色だった。

「半年仕込まれただけあって、まあまあ形にはなっているな。よし、プロテクターを着用!」

「はい!」

 俺たちはグラウンド脇に置かれた簡易倉庫に走り、低反発素材でできたプロテクターを胴体部分に着用した。

 そして、透明な素材でできたヘルメットと指の出るグローブを抱え、ハサウェイ少尉の前に整列した。

 格闘訓練でプロテクターと言われればヘルメットとグローブもセットだと、俺たちは『キャンプ』で仕込まれていた。

「筋トレや突き蹴りの練習は飽きただろう。スパーリングをやるからありがたく思え」

「はい!」

 そう答えたものの全くありがたくなかった。俺はこの手の訓練が一番嫌いだった。

 嬉しそうな顔をしているのはダンだけだ。余程自信があるのだろう。

「組み合わせを発表する。オレとユリ、ロンとケイ、そして、ダンとテツだ」

 恐る恐るダンの方を見ると、ダンは獲物を前にした肉食獣の表情になっていた。

「では、最初にダンとテツ、前に。他の奴らは後ろに下がれ」

 きっと食肉処理場にひかれる牛は、こんな気分になるのだろう。俺はノロノロとヘルメットとグローブを着用した。

「使用する技は突き蹴りに限らない。何でもありだ」

 投げ技や関節技もOKということだ。しかし、そんなことを言われても俺には全く有利には働かない。俺は突き蹴りだけでなく格闘技全般が苦手なのだ。

 ハサウェイ少尉が俺とダンの間にレフェリーのように立った。

 そして、俺たちがきちんとヘルメットやグローブを着用しているかを確認した。

 すぐに確認は終わった。

「はじめ!」

 ダンが獣のような咆哮を上げた。

 俺はやけ気味に中段の回し蹴りを放った。

 ダンは俺の蹴りを受けるでもかわすでもなく、間合いを詰めて前蹴りを放った。

 プロテクター越しに凄まじい衝撃が襲い、俺は後方に弾き飛ばされた。

「!」

 ダンは俺が体勢を立て直す前に更に間合いを詰めて打ちおろし気味のフックを放った。

 俺はガードしたが、ダンの太い腕は俺をガードごと突き崩した。

 気がつくとダンの腕が俺の首に絡んでいた。

 ひょっとすると、そもそもの狙いがこれだったのかもしれない。

「ぶちのめしてやる」

 俺はダンの不気味な低い声を聴いた。そして後方に投げ飛ばされた。

 俺はとっさに首に力をこめて頭部を守った。

 背中を衝撃が襲い、逃げる間もなくダンの巨体が俺に馬乗りになった。

 とてつもなく重く、手も足も出なかった。

 ダンはそのまま俺に殴りかかろうと右拳を振り上げた。

「勝負あり」

 俺はいいところが全くないまま、ハサウェイ少尉に助け出された。


 俺は高性能のプロテクターに心から感謝した。

 あれだけの攻撃を受けても怪我一つしなかった。

 悔しい気持ちに襲われながら、俺はグラウンドの隅、ダンから離れた場所におとなしく座ってケイとロンの対戦を見ていた。

 ロンは小柄なケイを相手にきれいなヒット・アンド・アウェイを繰り返し、優勢に試合を運んでいたが、明らかに相手を倒そうという気迫に欠けていた。

 そんなロンを見透かしたかのように、ケイは顔面をガードしながら接近してきたロンの膝に執拗にローキックを繰り返した。あいにくその場所には防具はなかった。

 顔に似合わずえげつない。ロンは苦痛に顔を歪めた。

 そして何度目かの攻防の後、とうとうロンの膝が崩れた。

 その瞬間を見逃さず、ケイは左右の連打でロンのヘルメットを叩き、さらにロンの腕を掴んで肘の関節を極めた。

「勝負あり」

 ハサウェイ少尉の判定後、ロンは足を引きずるようにこちらに来ると、俺の横に座った。

「いやあ、えらい目に遭ったよ」

 ロンは苦笑していた。

「ロンはフェミニストだな」

 俺はさわやかな笑顔を見せているロンに苦い顔のまま声をかけた。

「いやいや実力だよ」

 ロンは笑顔を納めると言葉を継いだ。

「ケイは強いよ。もう少し身体が大きかったら手も足も出なかったろうさ」

「そうか」

 明日は我が身だ。俺はロンの言葉を心に刻んだ。

「お願いします!」

 グラウンドでは次のスパーリングが行われようとしていた。

 ユリが両手のグローブを胸の前でぶつけながら自らの闘志を掻き立てていた。

 長身のユリがハサウェイ少尉に近づくと、頭一つ分くらいの身長差があった。

「合図はしない。好きに始めていいぞ」

 ハサウェイ少尉は両足を軽く肩幅に開き、身体の力を抜いた自然体で立っていた。

「そりゃどうも!」

 ユリの右拳がうなりをあげてハサウェイ少尉の顔面に襲い掛かった。

 ハサウェイ少尉の身体が沈み突きをかわすと、何かが炸裂するような音が周囲に響き渡った。

 ユリは右ストレートを放った体勢のまま動きを止めていた。

 ハサウェイ少尉はユリから目を離さずにゆっくりと後ずさった。

「何だ。どうした?」

「中段突きかな」

 突きを放った瞬間はわからなかったが、その後の様子を見るとそうとしか考えられなかった。

 俺とロンが困惑しながら二人の様子を見ていると、ユリががっくりと膝をついた。

「よし、それまで」

 ハサウェイ少尉は自ら宣言すると、心配そうにユリに近寄った。

「大丈夫か?」

 ユリは声を出さずに、青い顔で小さくうなづいていた。

「けっ、だらしねえ」

 ダンが周囲に聞こえるような大きな声でつぶやいた。

「隊長、身体がなまって仕方ないでしょう!」

 傲慢な物言いのダンに、ハサウェイ少尉は凄惨な笑みを浮かべた。

「ほお、では貴様が相手をしてくれるのか?」

「望むところです」

 ダンが立ち上がって、ハサウェイ少尉の前に進み出た。

 身長は頭一つ分、体重は恐らく二倍くらい差があるだろう。

「好きに始めていいぞ」

 ハサウェイ少尉はユリの時と同じように静かに言った。緊張も気負いも感じられない。

「では」

 ダンは重心を後ろに落とし、拳を開いて小さく構えた。

 自分から殴りかかるつもりはないらしい。

「意外に慎重だな、ダンは」

 俺の横でロンがつぶやいた。

 そう言えば俺との対戦の時も先には動かなかった。

 傲慢で自信家なのに意外な一面がある。

 ハサウェイ少尉はダンの様子を見ると小さな歩幅でゆっくりと間合いを詰め始めた。

 間合いが徐々に詰まった。

 それでもダンは動かなかった。

 ハサウェイ少尉の身体が沈み、派手な破裂音が響いた。

 今回ははっきりわかった。何の変哲もない正拳中段突きだ。

 ハサウェイ少尉の右拳がダンのみぞおちのあたりに正確に決まっていた。

 ダンは一瞬ぐらついたものの、懐深く入り込んだハサウェイ少尉の肩を掴んだ。

 俺の時のように掴んで投げるつもりらしい。

 しかし、ハサウェイ少尉はさらに姿勢を低くすると、自分をつかんだダンの手を外し、ダンの掌を両手でつかんで、くるりと一回転した。

「えっ?」

 理解不能な光景だった。

 まるで重力がなくなったかのようにダンの巨体が彼の手首を中心に大きく一回転した。

 ハサウェイ少尉はダンの背中が地面にたたきつけられても両手でつかんだ掌を離さなかった。

 そのままダンの肩を踏みつけ、ダンの手首をひねりあげた。

 ダンの顔が苦痛に歪み悶絶した。

「ギブアップってことでいいか?」

「ギ、ギブアップ」

 ダンの悔しそうな敗北宣言を確認するとハサウェイ少尉は満足そうな笑みを浮かべた。



「畜生! 必ずリベンジしてやる。おかしな技を使いやがって!」

 白とグレーのトレーニングウェア姿のダンが俺の隣で六人掛けの木製テーブルを叩くと、スプーンと皿が悲鳴を上げ、スープに波紋が広がった。

 ハサウェイ少尉に先に食事をするように命じられ、俺たち五人はニュー・トロントに一か所しかない食堂『馬のしっぽ亭』にいた。

 『馬のしっぽ亭』は二〇人も入れば満員になりそうな小ぶりの店で俺たち以外に客はいなかった。

 内装にはむき出しの木材がふんだんに使用され、その木材のあちこちに調理油がしみ込んだような古びた食堂だった。

「サラダをお持ちしました」

 そばかすの目立つポニーテールの若いウェイトレスが、すっかりおびえながら俺たちの前にポテトサラダの皿を並べた。

 そう言えば、朝食の時にはこの子はいなかったなと俺はぼんやりと思った。

「いやあ、ごめんね。怖がらせちゃって」

 ロンがさわやかな笑顔を彼女に送ってフォローしていた。

 ダンのせいで俺たち全員が危ない集団に見えてしまうのを心配したのだろう。

「いえ」

 茶色い髪のウェイトレスは、次の料理を運ぶためにそそくさと戻っていった。

 それにしても、午前中の訓練で傲岸不遜なダンが赤子のようにあしらわれたのは痛快だった。

 あんなにきれいに人間が宙を舞うのを俺は今まで見たことがなかった。

 ダンが俺を投げたような、力で持ち上げる投げ方ではないし、柔道のように重心を崩して投げるのとも印象が違った。一体どういう技なのだろう。 

「ユリ、プロテクターは役に立たなかったの?」

 俺の斜め向かいに座っていた小柄で色白のケイが自分の隣に座っている長身のユリに話しかけていた。

 一撃で戦闘不能に陥ったユリは普段の毒舌が影を潜め、おとなしく元気がなかった。

「プロテクターの中で何かが爆発したみたいだった。みぞおちを直接殴られた時のように息ができなくなった」

 ユリはあまり思い出したくないとでもいうように目を閉じ頭を押さえていた。

「多分、空手か、中国拳法の類」

 ケイがぼそりとつぶやいた。

 俺は格闘技には詳しくないが、ものの本によると東洋の打撃系格闘技の中には衝撃を障害物の向こう側に通す技法があるらしい。

 プロテクターが役に立たないのであれば俺はハサウェイ少尉とは対戦したくないと真剣に思った。ダンと対戦したほうがまだマシだ。

 ダンの前蹴りは人間に蹴られたとは思えない衝撃だったが、プロテクターは正常に機能し痛くはなかった。

「メインの肉料理です」

 ウェイトレスが鶏肉のソテーを配っていった。

 ダンが静かになったのでウェイトレスは少し落ち着きを取り戻していた。

「にしても、あの攻撃によく耐えたよな。ま、最終的には投げられたわけだけど」

 鶏肉のソテーをナイフでカットしながらユリがダンに話を向けた。

 確かにダンはユリが一撃でKOされた攻撃に耐え、ハサウェイ少尉をつかまえて投げようとしていた。

「ふん」

 ダンは何も言い返さずに皿に山盛りにされたロールパンを口の中に詰め込んでいた。

 何か考え込んでいるようでもあった。

「ただのきれいなおねえさんじゃなかったってわけだね」

 そんなロンのセリフに反応して俺が列の端に視線を向けると、丁度ハサウェイ少尉が店に入ってくるところだった。

「起立!」

 反射的に俺は号令をかけた。

 他の四人にも緊張が走った。椅子をガタガタ言わせて慌てて立ち上がろうとした。

「食事中なので、そのままでいい」

「着席!」

 席に戻ったが全員背筋が伸びた。

 ハサウェイ少尉は俺たちと同じテーブルの俺の正面に腰を下ろした。

「気にするな。食事を続けてくれ」

「はい!」

 気にするなと言われても、とてつもない緊張感だ。消化に悪い。

「隊長さん、サラダです」

「おう、ありがとな」

 ハサウェイ少尉はウェイトレスに笑顔で応じた。

 ポニーテールのウェイトレスは嬉しそうに笑顔を返した。

 その様子を見ながら、このウェイトレスはハサウェイ少尉がどれくらい危険な人なのか、わかっているのだろうかと思った。

 ハサウェイ少尉がサラダに手を付けるのを確認して、ようやく俺たちは食事を再開した。

「午後は射撃訓練だ。一三〇〇(ひとさんまるまる)時に訓練小隊本部に集合。宇宙服に着替えて外に出る」

「はい!」 

 俺たちは、肉をほおばったり、ロールパンを詰め込んだりしながらも威勢よく答えた。

 行儀が悪いような気もするが致し方ない。

「オーダー、現在時刻」

 俺のつぶやきに応じて額につけた情報端末が現在時刻を空間投影した。

 テーブルの上のロールパンに手を伸ばす俺の目の前にデジタル表示の透きとおった時計が浮かび上がった。

 一二四〇(ひとふたよんまる)時だった。あまり時間がない。

 目の前がうるさいが時刻は表示したままにした。

「みんな、ちゃんと飯は食えよな」

 ハサウェイ少尉は、そう言いながら、あっという間に肉を平らげた。

 だいぶ後から食べ始めたのに俺たちを軽く抜き去るスピードだった。

 にこやかに、とても美味しそうに食べている彼女は魅力的だったが、見とれている場合ではなかった。

 少なくとも俺たちは上官よりも先に食事を終え、訓練小隊本部で上官を出迎える必要がある。

 訓練小隊本部は宇宙港横の無重量エリアに設けられており、『馬のしっぽ亭』のある地下居住区からエレベーターでドーナツ型の中心部まで上昇する必要があった。

 時間にして一〇分はかかる。初対面の時のように罵倒されるのは御免だった。

「ごちそうさまです!」

 俺は食後のコーヒーを慌てて飲み干すと席を立った。

 ほとんど同時に他の奴らも席を立った。

「あわただしい限りだな」

 ハサウェイ少尉は少し不満そうな表情をした。

 だからと言って俺にはどうすればいいのかわからなかった。

 キャンプで叩き込まれた行動をとるまでだ。

「失礼します!」

 一二四五ひとふたよんごう時、俺たち五人は『馬のしっぽ亭』を後にした。

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