#5勇者
やっぱりアル目線の方が書きやすい!
俺はどうしてこんな所にいるんだろう。頭が回らない、寝起きの感覚に似ている。
「君は死んだからここに来たんだよ」
12歳くらいだろうか、白いワンピースを着た肩にかかるほどの銀髪の少女が俺の疑問に答えるように言った。こいつは一体何を言っているんだ。俺が死んだ、信じられるはずもない。現にこうして生きているんだから。
「歳上をからかうなよ。俺はこうして生きてるじゃないか」
少女の目の高さまで腰を落とし呆れたように口にする。そして、冴えてきた頭でふと自分のいる場所を確認しようとする。
「お前は誰だ!なんでこんな所にいる!俺はなんでここにいる…!!」
俺はようやく自分の置かれている状況の異常さに気づき、恐怖を感じた。何もない、見渡す限り何も無い。木も川も山も、土も空も大地も、何も無い。唯一あるとすれば、無とでも言えようか。
「いっぺんに聞かないでよ、困っちゃうじゃない」
少女は楽しそうに、ふざけた調子で言う。
「…悪い。ならまず、ここがどこなのか教えてくれ。」少女の言葉に冷静さを取り戻し、一つずつ質問する。
「ここは神域、私の世界」
むかつくドヤ顔だ。
「シンイキ?」
聞きなれない単語だ。
「そう、神の住む世界」
「神の世界って、じゃあお前は自分が神様だとでも言うつもりか」
「そう、私は神様。君たちが祈ったり、誓ったりしてる人」
私は神様ですと言われて、素直に信じるやつはいないだろう。しかし、この空間はそれを真実だと思わせるには十分だった。冷静になるうちに、ここに来る前のことが思い出される。
「そうか、俺は…」
ドラグレクスに見つかり、俺達は逃げることを最優先に戦った。3人で逃げるてもすぐに追いつかれると判断し、俺はドランとじゃじゃ馬姫を逃がし、囮となった。そして…そこからの記憶がない。
「俺は…死んだ…のか」
これからだった。冒険者として名をあげ、勇者として依頼をこなし、大金を手に入れる。貧しい故郷を救い、死んだ両親に代わって妹を幸せにする。それだけで良かった。偶然王族と知り合い、うまく利用すれば勇者と呼ばれる日は近いと思っていた。それが最初の依頼でこのざまだ、笑えねぇ。
本当に 何の意味もない人生だったなぁ
「だったら、まだ続けてみる?」
神様とやらの言葉に俺は我に返る。こいつ、心でも読めるのだろうか。できるんだろう、神様だし。それにしても今、何といった?
「タダと言うわけにはいかないけど、私のお願いを一つ聞いてくれるなら生き返らせてあげる」
「なんだってやってやる、まだやり残したことがあるんだ、こんなところで死ぬわけにはいかない」
「わかった、約束だよ」
銀髪の少女はにこっと笑うと俺の左手をとり薬指をぎゅっと握った。するとパッと光が瞬き、少女が手を離すとそこには宝石が一つ埋め込まれた指輪がはめられていた。
「それは君と私を繋ぐもの。外したら死体に戻るから気をつけてね」
指輪に触れようとした手が止まり、ツーっと冷や汗が頬を伝う。
「さて、君は生き返ったあとまた君を殺した魔物に襲われることになるわけだけど」
そうだ、生き返ったからと言っても安全ではない。そういえば2人は、アリスとドランは無事だろうか。
「無事だよ、この世界は現実世界と時間の流れが違うの。だから君を殺した魔物もまだ君のそばにいるはずだよ」
それ、俺が大丈夫じゃないよね。本当に目の前だよね。生き返った瞬間ここに逆戻りだよね。
「大丈夫!君のつけてる指輪には私の力が宿ってるの、きっと君の助けになる。そんじょそこらの魔物なんて目じゃないよ!」
少女はウインクしながら言ってくる。
「指輪は君の本質を見抜き、君に合った力を与える」
「本質?」
「例えば、勇敢な人なら戦士向きの、頭のいい人なら魔法よりの力が宿るといった感じだね」
俺に勇敢なんて言葉は似合わない。俺の戦い方はどちらかといえば頭を使っている、きっと魔法よりだ。
「本当に使えるんだよな?全然効かなかったりしない?」
「そんなに疑わないでよ。ちょっと前に生き返らせた人は魔王を倒したんだよ。心配しないで」
「…その人の名前は?」
「えーと、確かアレックスだったかなぁ」
まさか伝説になった人の名前が出てくるとは思わなかった。勇者アレクは一度死んでいて、神様に生き返らせてもらったということだろうか。そしてこの流れ、まさか…
「…ところで、お願いってなんなんだ?」
「まだ言ってなかったっけ、君には魔王を倒して欲しいんだ!」
聞いてねぇよ。
「なんでもしてくれるんでしょ?」
「うっ…」
少女はからかうような表情で俺を見てくる。
「そろそろ時間だね。ちなみに魔王を倒そうとする意思がなかったら指輪は自動的に消滅するからね、頑張って!」
だんだんと体が透けていく。ふざけんな。ちくしょう、やるしかねえのか。覚えてろよ…。あれ、そういえば
「お前名前は?」
「私の?ないよそんなの、誰かが呼んでくれることもないし。なんなら君がつけてみる?」
どこか悲しげな目をしている気がした。この空間には何も無い 、こんなにも感情豊かな少女だ、寂しいのかもしれない。雪のように綺麗な銀髪が揺れるのが目につく。
「じゃあ、お前は今日からユキだ。嫌ならいい」
「ユキ、ユキか。うん、嫌じゃない。君の名前は?」
ユキは心底嬉しそうにニヤついている、本当に嬉しいんだな。
「俺はアル。いつか勇者になる男だよ」
「またね、アル。素敵な人生を」
視界が光に包まれる。小さく手を振るユキは、見た目通りのちっぽけな女の子にしか見えなかった。
アルはひねくれてるけど結構いい人として書きたいです!