散歩
注意。この小説は勢いで仕上げました。多数の誤字脱字が見られることと思われます。
今、僕は犬のモカと一緒にいつもの散歩コースに来ている。ここは、舗装こそされているが、車もほとんど通ることすらないような田舎だ。景色はいいものの誇れるところなんてそれぐらいしかなく、テレビのチャンネルもあんまり無いし、遊ぶようなものもほとんどない。ゲーム機やスマートフォンも買ってもらえないし。
だから僕は、暇を持て余した時に、散歩をすることにしているんだ。毎日の散歩はもちろんのこと、暇さえあれば一日にニ、三回することもままある。今から話すことはそんな僕の日常の一ページだ。君の時間を少し借りるよ。
「え、ちょっと待って......!」
ここは僕がいつも行く散歩道。ちょうど折り返し地点で、そろそろ引き返そうかなって思っていた時だ。
急にモカが走り出したのだ。僕も咄嗟のことでリードを放してしまい、慌てて追いかける。
からんからんとリードの金属部分がコンクリートにぶつかり音を出す。そのままずるずるとモカに引きずられていく。僕とモカの間の距離はどんどん広がっていく。
「ほんと待って!やばいもう無理......」
ダメだ。追いつけない。クラスでも最底辺の方に位置する僕の足じゃ犬の足になんて勝てるわけがない。
自分でも情けないくらいなのだが、まあいつも通りちょっと走っただけで体力の限界を迎え、僕はへなへなと地面に座り込んだ。
とにかく肺が酸素をほしがっている。口で息をするも、脇腹はジンジンと僕に痛みを訴え、ただでさえ疲れている僕に追い打ちを仕掛けてくる。
「くそう......痛い......」
だけど、今モカを見失うわけにはいかない。相変わらず苦痛を与えてくる脇腹の痛みを少しでも緩和できればと思い、片腕で押さえながらフラフラと立ち上がる。
実際僕は、まだモカを見失ってはいなかった。距離はかなり遠く、モカは豆粒ぐらいの大きさになっていたが、それでもまだ、見失ってはいなかった。
それだけが救いだ。
僕は走り出した。ゆっくりとだけど追いつくように。追いつけるように。しっかりと。
と、突然後ろから強い風が吹いた。一瞬だけだったけどとびきり強い風だ。それはまるで僕の背中を押すようで。この冬に入りかけようとしているこんな季節の中、なぜだろう。そう感じているだけかもしれないが、とても暖かかった。
それにしてもなぜモカはこんなにも走っているのだろうか。基本的にモカはおとなしい種類の犬で、その種類の説明通り、走ったり吠えたりすることもほとんどない。
そのはずなのに。今日のモカはなぜか僕すら置いて走り出した。
......どうしてだ?
僕は周りを見渡す。特にモカが怯えるような存在なんてない。
ドウシテダ?
だんだんとモカとの距離が近づいてきた。相変わらず脇腹にはボディブローでもかまされたかのような、体に直接響いてくる激痛が僕の体を痛めつける。だけど、諦めずに歩いていたら距離が埋まってきた。
まあそれでも、まだだいぶ距離はあるのだけど。
モカの動きが止まったんだ。こっちに首を向けて僕を待っている。
歩いているうちに一人の男性とすれ違った。表情が暗く、何かぶつぶつとつぶやいていて、身にまとっている服はなかなかに汚れている。そしてすれ違った時にはこう、鼻を突くような、匂いに色があったのならば黄色をイメージさせるような、そんな臭いがした。後は腐臭と雨の匂い。
「うへえ......」
臭いを嗅いでからすぐに息を止め、足を速め、さっさと渡ろうとしたのだが、どうやら対処が間に合わなかったらしい。
全く、ひどい臭いだ。まだ臭う。
......え。
まさかすれ違っただけで匂いがついたのか?
どうやら本当らしい。
認めたくなんてなかったが、先ほどの酷い臭いはどうやら完全に体にこびりついてしまったようだ。雨のような鉄棒のような金物のような血のような。そういうニオイが体に引っ付いて離れなくなってしまったのだ。
「ええ......」
今、ただでさえ息をするのがきついっていうのに、さらに僕を苦しませようというのか。でも、きっと我慢するしかないんだよなあ。
はあ......きつい。
「モカぁ......」
そして、僕はやっとモカの場所にたどり着いた。そばの電柱には花束が添えられている。
正直、僕の体はだいぶ前から悲鳴を上げていて、きつくてきつくてたまらなかったけど、なんとか着くことはできた。モカは悪びれもなくしっぽを振りながら僕に近づいてくる。
「はは、分かったよ。ジャーキーだね」
僕はジャーキーを取り出そうとポケットの中へ手を突っ込む。
「あ、あれ。どこかで落としたかなあ」
無い。
僕は今までたどってきた道を振り返ってみる。
舗装されたとはいえ、そのあとは整備もされていない道路には雑草がこれでもかというほどに生えているのだが、特に変わったところは見当たらない。点々と落ちている血も変わったところに入るんだろうけど別にそこまで珍しいことでもない。
「あ」
あった。胸ポケットの裏側に棒のような感触が。つまりジャーキーの感触。
「よーしちょっと待ってな」
欲しがるモカをなだめて焦らして、僕はジャーキーの袋を取り出す。
「じゃじゃーん......ってあれ?」
それはジャーキーなんかじゃなかった。ただただ赤く染まっただけの、
肋骨。
「え?」
僕はすべてを思い出した。
そうだ。僕はその日、いつも通りに散歩へ出かけていたんだ。で、事故にあった。
一瞬だった。急にスリップしたらしいトラックが僕に向きを変え、近づいてきて、僕の体を潰して、壊して、ぐちゃぐちゃにした。
......そういえばモカは大丈夫だったんだろうか。
あの時も確かリードを放してしまったから、もしかしたら助かっているかもしれないな。
うん、それならよかった。
僕は今もモカと一緒に散歩をしている。僕が事故にあってからお母さんたちはモカに構う気もなくなったのか完全無視を決め込んでいる。
全く、お母さんもお父さんもなんでモカを無視するんだよ。餌すらやらずに。
そんな感じだから僕は一緒に散歩をしてやるのだ。昔みたいに。
他の物はつかもうとするとすり抜けてしまうんだけど、モカのリードだけはすり抜けなかった。
思いの力ってやつかな。きっとそうだ。
「モカ。今日は村を一周してみよっか」
ワン。
モカが一声吠えた。
あとがき
最後の無理やり展開はごめんなさい。