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悪魔は亡国を、騎士は誓いを宣言するようです

最近色々とゴタゴタしておりまして…

時間がある時にちょくちょくと書いてはいるのですが、中々更新できずにいました。

遅くなってすいません。


あと呪詛“我が意に従え”の読みをオーダーからアカハト・アシュハトへ変更しました。



脳ミソの左脳と右脳、それぞれを別々に使うような感覚で動く。

自らの肉体と、女神官の肉体を意識的に動かして、描かれるのは滑稽な自作自演マッチポンプだ。


無造作に振り抜いた拳は芸術的な軌道を描いて奇跡的に女神官にクリーンヒットする。

側から見ればまるで俺が女神官がどこに動くかわかっているかのような、超達人的な動きに見えるだろう。

まぁ、女神官がどこに動くかはわかってる訳だが。


次、女神官が回し蹴り、俺はかがんで軸足にローキックをかまして転ばせる。


足をすくわれた女神官は倒れる勢いを利用してバク転し、すぐさま槍で突いてくる。

俺はかがんだ体勢から女神官が今の攻防で取り落としたーー取り落すように命令した訳だがーーサーベルを掴んで抜刀するように振り抜く。

するとサーベルは槍の柄に激突し、その刀身を軋ませながらも槍を弾き返した。


そのまま斬りこもうとする俺から、女神官は俺の頭部を狙うようにして槍を突き出すことで距離を取る。


この一連の動作で四秒くらい。

俺の背後で詠唱しているシャルランテが僅かに驚いた気配を感じる。

しかしそこに失望の色は無い。

むしろ、喜色が滲んでいる。


おそらく俺の動きが想定以上だったからだろう。

衛兵を瞬殺した化け物に、俺が時間を稼げるかどうかは彼女にとっても博打だったはず。

彼女は見事その賭けに勝った訳だ。

良かったな、良い方向へ転がって。

だが、本当はこれは博打なんかじゃない。

これは俺の、単なる意思表示みたいなもの。

勝ち負けなんてものは何処にも無く、もし強いて勝者を挙げるとするなら、それは俺だ。


じりじりと睨み合い、互いに付け入る隙を探すような演技をしながら、シャルランテによって淀みなくするすると紡がれる魔導シエラの詠唱句に耳を傾ける。


「ーーは鷲の如くく空を駆け、蛇の如く地を這う虹光ーー」


はは、随分と詩的なことで。


少しシャルランテの集中力というものを試してみたくなった俺は、わざと女神官に俺の虚を突いたように動かせて、彼女の元に凶刃が届く状況を作り出す。


「しまっーー」


焦る表情、小さな演技も忘れない。


俺の防御を抜けた女神官はシャルランテの目の前で、大きく槍を振りかぶった。


「ーー全ての殻を周り、光煌めく鉄鎚とーーー」


だが、シャルランテは詠唱句を詠むことを止めなかった。そして、その目には強い光が宿っており、不屈の精神がありありと浮かんでいた。


あぁ、いいね。

さっきのクソ国王や聖剣のガキとは違う、芯のある強さ。

もし、俺がこの国に仇なすことになった時、最も厄介となるのがこのシャルランテだろう。

合理的に見ればここで消しておくのがベストなのだろうが、俺はコイツが気に入っちまった。

殺すのは惜しいと、思っちまった。


「ーーっらァ!!」


衛兵の血を吸い妖しく煌めく白刃が、シャルランテの柔肌を食い破る一瞬前に、俺は女神官を全力で蹴り飛ばした。


そして、それとほぼ時を同じくして、シャルランテの手元に魔方陣の様な、幾何学的な文様が光を放ちながら現れる。


「ーー神弓万里に震えて轟け!“光輝なる矢ブライトネス・アーチ”!!」


バチバチと、空気が爆ぜる様な音と共に、目も眩むほどの光がシャルランテの手元に溢れる。

肌の産毛がチリチリと焼け、側に居るだけで手足が痺れるようだ。

なるほど、雷か。

眼前に浮かぶ莫大な熱量は、もはや自然災害、落雷のレベルまで来ているだろう。


アレが俺に放たれたとしたら、俺は凌ぎきることは出来るだろうか。

ひゃは………多分無理だな。けどまぁ、詠唱してる間になんとかできるとは思うが。


そして、シャルランテの魔導シエラーー“光輝なる矢ブライトネス・アーチ”は、その絶大なエネルギーで大気を焼き焦がしながら、女神官を貫いた。


おっと、最後に一声。


「ぉぉおぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


喀血と共に喉が引き裂かれたような断末魔を上げて、女神官は五メートルほど吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。


辺りに、人肉の焦げる匂いが充満する。

俺はその匂いに顔をしかめた。

豚や牛の肉が焦げる匂いはスゴく美味そうなのに、人肉の焦げる匂いはどうしてこんなにも不快なのか。


歪めた顔で未だぷすぷすと黒い煙を放つ女神官を一瞥した後、俺はこの悪臭の間接的な原因とも言えるシャルランテの方を振り返った。


シャルランテは、先ほどまでの気丈な態度とは打って変わって地面に座り込み、息を荒く吐きながら呆然としていた。

はは、躊躇無く魔法をブッ放したまではいいものの、今更になって人を殺したという罪に打ちのめされている…ってとこか?

まぁ、見た目からしてまだまだ精神未成熟のガキの様だし、覚悟を決め切れなかったのは仕方がないだろう。


そして、この状況はむしろ俺がシャルランテの心につけ込むことができるチャンスでもある。

傷ついた心を優しく慰めてやれば如何に王女と言えどもシャルランテはまだガキ、ころりと落ちるだろう。


実は俺の今回の目的は二つあり、その内の一つがシャルランテの信頼を得るというものだった。

女神官を身を張って退ける予定だったのだが、思っていた以上にシャルランテの実力が高く、こういう形になったわけだ。


そしてもう一方は、このクソったれな国に対して宣戦布告するというものだ。

もちろん俺がするわけでは無く、俺が動く隠れ蓑となるような架空の人物を作り出した上で、その人物に宣戦布告してもらう。


また、明確な敵が現れることによって益々俺はシャルランテとの繋がりを強くできるだろう。

人間というものは共通の敵の前では、どんな仲の悪い奴らでも仲が良くなることができるからな。


俺が意地の悪い笑みを浮かべていると、シャルランテはふらふらと女神官の死体の方へと歩いて行った。


「お、王女殿下!?危険です、まだ生きているかもしれませんよ!」


俺がそう言うも、返事は無く。

オイオイ、返事はちゃんとしろって習わなかったのかよ?

まぁ、あのジジイが親だから学んでないかもしれないが。


「メリル……なぜ……」


シャルランテは物言わぬただのオブジェとなった骸の前に膝をつき、女神官のものであろう名前を呟いた。

瞳からは一筋の涙が頰を滑り落ち、小さな嗚咽が聞こえた。


「王女殿下……」


そのケツとは仲が良かったのかね。

ケツ女がお前を襲ったのは完全に俺のせいなんだけどね。

美しき友情を踏み躙るようで心が痛むぜ。

が、悪いな、さらに弄ばさせてもらう。


心配そうな表情のまま、俺は内に溢れる力で次なる呪詛をその死体に打ち込んだ。


「《蠱毒の壺ペガリト・シュハ》」


そして女神官の衣服から僅かに覗く肌に百足ムカデサソリ、そして蜘蛛クモが絡み合ったようなタトゥーが一瞬浮かび上がり、瞬いて消える。

呪いが馴染んでいるのだ。



「ぁ、あ、あああぁぁぁぁああああああ!!!!」


既に死んでいる筈の女神官がのたうち回って絶叫する。

雷の魔導によって焼け爛れた肌から血と血漿が滲み出すのも構わず、体の内側にある何かを掻き出そうとするようにして胸を掻き毟る。

余りの力の強さに爪が剥がれ、さらにそこから血が浮かび上がる。


「な、何が……!」


驚くシャルランテを尻目に、俺は想像以上の呪詛の効果にほくそ笑んだ。

コレは使える。


第一階梯呪詛、《蠱毒の壺ペガリト・シュハ》。


この呪は魂を蝕み、糧として発動する。

生者の尊厳を踏み躙り、死者ですら咆哮せずにはいられない冒涜の悪意。


ギチギチギチギチギチギチギチギチギチ。


何かが一斉に歯軋りをしたような音。

それと共に、女神官の体の至る所から、内側の肉を喰い破って蜘蛛や百足、蠍や見たこともない生き物達が飛び出してきた。


そのどれもが禍々しい色合いをしており、恐ろしい殺傷能力を持つ毒蟲。

《蠱毒の壺》によって、女神官の魂を供物に、この世に受肉したのだ。


「ひぃっ」


転がるようにして距離を取るシャルランテ。

いい反応だな、あともう少しその場所にいたら蟲達が噛み付いていただろう。


「大丈夫ですか王女殿下!?」


側に駆け寄り、肩を抱く。


「あ、あぁ、あ……」


シャルランテはひどく動揺しているようだった。

まあ友達の死体からいきなり蟲が溢れて来たら驚くわな。


毒蟲達は次々と肉を喰い散らかして顔を出し、そしてひとかたまりに集まりだす。

この呪詛で生み出した蟲達はある程度の知能を持っており、俺の考えることや出す命令に従うようにできている。


つまり俺がこの蟲共を操作してるわけだが、自分で見ていてもコイツラがウゾウゾと蠢いているのを見ると気持ち悪くなる。

うへぇ、エグい。オイ、そこのやたらとデカくて緑色の百足、目玉をこれ見よがしに咀嚼するんじゃねぇよ。


やがて蟲達は女神官の死体の丁度心臓がある位置の真上で、一つの形をかたどり人間の頭蓋骨のような形状になった。


ギチギチギチギチと音を鳴らす蟲達は、その不協和音を重ねて、そして言語を奏で始める。


『ワ…ギィ、ギチギチ、ジィ…ワ、ワた………私は悪魔リゴラ。…悪意を体現する者』


魔王がいるっつーなら悪魔もいるだろ。

そんな安直な感じで悪魔と名乗り、ゴリの名前をもじった名前にした訳だが、中々どうして、響きが気に入った。

悪意を体現する者とか言っててダセェが、まあ俺の『呪詛カース』は悪意を根源とする力な訳で、あながち間違いでもない。


「あ、あくま…?」


『然り。勇者を召喚したらしいな、王女シャルランテ』


「!?何故…!?」


知っているのか、と言いそうになるのを直前で気付いたシャルランテは口を噤む。

そんな所で黙ったら召喚したって言ってるようなもんだぞ。


『…あまり魔王の情報網を舐めないことだ。どんな場所にだって目と耳はある』


それとなくスパイがいる的な発言をしてみる。

あと悪いのは魔王のせいってことにしておこう。

そっちの方が構図的に分かりやすいしな。


「…ッ!魔王、ゾブラム・キールの差し金ですか……!!」


蟲の頭蓋骨を睨みつけるシャルランテ。

その瞳には敵意と、女神官を殺された事への憎悪がありありと滲んでいた。


はは、いいぜ。

もっと恨め、もっと憎め、もっと怨め、もっと、もっと殺意を研げ。


絶望は絶望を呼び、それは俺に生を実感させてくれる。

不思議とシャルランテが睨み始めたあたりから、力がほんの少しだけ増したような気がする。

もしかしたら、負の感情は俺をパワーアップさせるのかもしれねぇな。


『………私はこの国を滅ぼすことを決めた。この国の民に、家畜に、奴隷に、貴族に、そしてお前達王族に、絶望を披露してやろう』


「そんなこと……絶対にさせません!」


吠えるシャルランテ。

俺は今にも飛び出しそうな彼女を抑えながら、蟲を動かす。


『その自信の根拠は何だ?勇者か?魔導か?それとも神の天罰か?』


「そうです!必ず勇者様達が、神様が私達を守ってくれます!!」


そこで蟲の頭蓋骨は、ギチギチと音を立てて、確かに嗤った。


『愚かな。勇者はまだ弱く、この私に魔導など効かず、神の天罰など恐るるにも足らぬ。神に仕えるこの神官が憑き殺されている時点で、貴様らが神に守られているなどという妄想は捨てるがいい』


シャルランテが女神官を見る。

女神官は既に魂を喰らい尽くされており、二度と生き返ることはない。

無残な姿となった彼女の姿を見て、シャルランテは歯を軋ませた。


「そんな…!」


『……死を前に、眠れぬ夜を過ごせ。貴様達には最も酷い結末を用意してやる』


そして、毒蟲はそこまで言ってから、ばらけて各々飛び散った。


『ーーさぁ、悲劇を始めよう。…せいぜい足掻いて、滑稽なピエロ役を演じてくれ』


蟲達はこちらにまで飛んで来る。

うお、自分で操作しているんだが、めっちゃ気持ち悪ぃな。


「王女殿下!」


俺はシャルランテと俺の方に飛んでくる蟲を避けようとして手を引く。


「だい、じょうぶです……」


弱々しく返事をするシャルランテ。

まだ中学生くらいなのに気丈だねぇ。

俺が中学生の頃はまだまだクソガキで、誰のものかわからない高級車に火を付けて遊んでたぞ。

その後ヤクザの車ってことが発覚して焦った事もあったな。


「あまり無理をなさらないで下さい」


俺は眉をひそめた表情で、回廊の溝やら何やらに消えていく蟲を見ながらそう言った。


「そう言うわけにはいきません…悪魔リゴラ…私が、必ず討滅しなければ」


「いけません」


「何故ですか!」


悲痛な声で、顔を歪めるシャルランテ。


「あの悪魔は、メリルを、メリルを殺したのです!昨日今日この世界に来た貴方に、この気持ちがわかりますか!?」


そう言って一拍置いて、自分が言ってはならぬことを言ったことに気付いたシャルランテはハッと顔を青褪めた。

オイオイ、衛兵のこと忘れてねぇか?ひでぇな。


「あ、あのすみーー」


「ーーわかりますよ」


俺は穏やかに言った。


「ーーえ?」


「……この世界に来る時、恐らく勇者となるはずだった私の親友は、私を庇って死んだのです」


あのサイコ殺人鬼は、勇者とか言っていたな。

つまりアイツも、勇者召喚に関わる何かだったってことだ。

他の勇者達に話を聞いて見ないことにはまだ確定はできないが、おそらくそうだろうと俺は思っている。

やべぇ、思い返すと殺意が湧いて来る。

憎悪が露見しないように、感情を表に出さないことに苦心しながら、俺は言葉を続けた。


「そんなーー」


発言に対する後悔、同情、憐憫、悲しみが入り混じったような顔をするシャルランテ。



お前が、そんな顔をするんじゃねぇよ。



あぁ、本当にこの国の奴らは俺をイラつかせる。

この悲しみは、痛みは、絶望は、全て俺のものだ。

誰にも、理解させてはやらない。

そんなことは、俺が許さない。


「ーーだから、殿下の気持ちはよく分かります。ですが今の殿下は、不安定で、今にも消えてしまいそうで、まともに見ていられません」


一息吐く。

そして片膝をつき、シャルランテの方を見上げた。

その光景はまるで、見る者に騎士が己の忠誠を捧げる一幕を思わせるようなものだった。


「なので、守らせて下さい。貴方を、全ての災厄から、私が護って見せます」


そしてその暁に、俺がお前を殺す。

目の前で、お前の友が、恋人が、家族が全て死んでも、お前だけは守る。


俺以外の奴に殺されるのは許さない。


そして、頼る相手が俺だけになった時、俺がお前を殺すのだ。


あぁ、その時お前はどんな顔をするんだろうな。




楽しみだ。

俺は今日一の微笑みで、そっと嗤った。





呪詛は第一から第八まで階梯があり、基本的に階梯の数が多くなるほど効果が増していきます。

第八を超える効果の呪詛もあります。


“我が意に従え”も第一階梯ですが、使用者と対象の力が余りにも離れすぎていた場合は呪詛は成立しません。


“蠱毒の壺”は相手の魂を勝手に消費してきて、おまえ壊獣?帝王の烈旋かよみたいな感じですが、生きている人の中でもある一定ラインを超える強さをもつ人には余り効きません。

死体の魂を使って蟲を作れるのは、死体にまだ魂が残っている間だけなので、死後時間が経ちすぎている死体には使えません。

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