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悪魔は産声を上げたようです

本日二話

□□□




さて、国王共を抹殺するという使命を得た俺だが。


現在は国王のいた広間を出て、無駄に長い回廊を歩かされていた。


目の前には俺を連れて来たケツ女神官。

後方には何故かこの国の王女が、数名の衛兵を伴ってついて来ていた。


あれれ?何でこんな事になったんだっけ?

俺はつい二十分前の出来事を思い出す。



あー確か国王が何か言い始めて………




☆☆☆





「貴様、勇者では無いのか!ならば用は無い、今すぐ此処から失せい!」


態度を豹変させる国王。

何だコイツ。

勝手に拉致しといてそれか?

やっぱり頭沸いてるわコイツ。


「衛兵、コヤツを放り出せ!」


「「「「はっ!」」」」


短槍を持ち、軍服らしき意匠の物を来た四人の兵士達が俺の腕を取る。

何だコイツら。

はは、腕の持ち方がなってねぇぞ?

顔が若い事から、おそらくは下っ端の新兵だろう。

この程度なら五秒あれば手を振りほどいて一人首の骨折って殺し、さらにもう一人を制圧して、そんで一人を人質にとって逃げられる。

まあ新兵とはいえ流石にある程度の訓練を積んでいるだろうし、四人を確殺するのは難しいけど、逃げるくらいなら余裕だな。


「待ってください!」


流石にそれを見かねたのか、勇者の一人ーー高城が国王に意見した。


「何かね?聖剣の勇者コウキよ」


うわ、あのセリフ地球だったらイタい奴確定だよ。

高城もそれを感じているのか若干顔を赤くした。


「あ、あの…」


「その人を、どうするつもりですか!?」


言葉に詰まった高城の代わりに莉緒が言った。ヒュウ、マジ頼りになるねー。


凛とセリカは莉緒の言葉に頷いていた。

いや頷いてるだけかよ。なんか言えよ。


「ふむ、どうするつもり、とは?」


「放り出すなんて、酷いです!」


莉緒はハッキリと言う。

余りにもハッキリとし過ぎて、高城が顔を青くしている。

確かに度胸あるな、あの独裁者みたいな振る舞いをする国王を見てあの態度を取れる奴はそうそういないだろうし。


「……ふむ、どうやら語弊があったようだな。そこのハシュウとやらには、当面暮らすには十分な金を与えて、街へ送り出すつもりでそう言ったのだ」


ホッホ、と笑う国王。


「本当ですか?」


「本当だとも。まさかこの余が嘘をつくとでも?」


いや絶対ついてるだろコイツ。

目が笑ってねぇよ。

コレ絶対俺のこと殺そうとか思ってるだろ。

勇者じゃないってだけで殺そうとするんだろうな、このクソジジイは。


「……わかりました、信じます」


「うむ」


いやわかっちゃうのかよ。そこはわかっちゃダメなところなのよ。

まあこうなることは想定済み、予想の範疇の内だけどな。


「連れて行け」


国王がそう言うと、俺は引きずられるようにして扉へと連れていかれた。

オイオイ、普通街へ送り出す奴がこんな持ち方するかね?



「………お待ち下さい、お父様」



扉が開き、連れ出される寸前で突然、それまで黙っていた王女シャルランテが立ち上がって言った。

おぉ、これは予想外だぞ。


「何だ?我が最愛の娘、シャルランテよ」


国王は表情を一変させ、デレッとした顔でシャルランテの方へ向き直る。


「…彼もまた異世界から来た英雄です。勇者ではないとはいえ、強大な魔力を持っているはず。…ここで手放すのは早計かと思われます」


透き通るような白銀の髪を揺らし、シャルランテはその紫の瞳をまたたかせた。


おぉ、まさか王女から庇われるとはな。

中学生くらいの歳のクソガキだと思っていたが、父親と違いなかなか人格ができているみたいだな。つか、クソジジイの年齢は相当いってるのに娘があんな若いって、何歳の時に産ませたんだよ、ウケる。


「ふぅぅむ……まぁ、シャルランテがそう言うのなら手元に置いておくこともやぶさかではない。……衛兵よ!」


国王は衛兵に声を掛け、衛兵達は俺の腕から手を離した。

ふー危ねぇ危ねぇ。あの王女が止めなきゃ命が危なかったぞ。

まあ、衛兵の命だけど。


「シャルランテや、彼奴の処遇についてはどうしたい?」


オイオイオイ、何でてめぇが俺の処遇を決められるんだよ、殺すぞ。


「つきましてはお父様、兵士にするよりは執事などの使用人にすればよいかと。彼には最も近い所で王族を守る盾になってもらいましょう」


わーお、この王女もやはりクソガキか。

クソジジイのクソ遺伝子は綺麗に引き継がれたいたみたいだな。


「おお!魔王を倒す為に遠出して勇者達が居らぬ時に、我らの護衛をさせるというのだな?流石はシャルランテ!頭が冴えてある!流石は余の娘、神託の巫女よ!」


さも妙案みたいに言ってるけど、俺だったら絶対守ってやんねぇからな。

むしろ殺す側だぞ俺。

何で無条件で守って貰えると思ってんだコイツら。


「お褒めに預かり感謝いたします、お父様。…では私は彼を仕事場へ連れて行きますね」


「うむ……うむ?別にシャルランテが連れて行かなくても」


「私が、連れて行きますわ」


今度は少し強めに言うシャルランテ。

娘ラブなジジイは溺愛する娘に強く言うことが出来ないのか、渋々とそれを許可した。


「では、行きましょうか。ハシュウさん」


「……はぁ、わかりました」




☆☆☆



そして今に至る、と。


王女は近くで見ると結構綺麗な顔をしていて、これで性格がクソじゃなければ成長が楽しみだったんだがなぁ。


「ハシュウさん」


他の勇者達は国王が話があるだの歓待するだの言って、何処かへ連れて行かれてた。

つーか、見てる限りだと莉緒と高城、多分付き合ってねぇんだよなぁ。なんつーか、勘だけど。

けど俺の勘は良く当たる。

ヒョロガリの彼女の巨乳ブスも勘で当てたし。


「ハシュウさん!」


「はい?」


やべ、物思いに耽って無視したみたいになっちまった。振り向くと頰を少し膨らませた王女シャルランテがいた。


「もう、ちゃんと話を聞いてください」


「はは、すいません。物思いに耽ってしまって。それで、なんの話でしたか?」


にこやかに笑う。

あ、頬っぺた赤くなった。

王女チョロいな。


「ちゃんと話は聞いてください…先程は、無礼な事を言ってしまってすみませんでした、という話ですよ」


「ああ、そんな話でしたっけ?」


全然記憶にねぇぞ。

ずっと回想してたからな。


「父はかなり傲慢な性格でして…気に入らなければすぐ処刑、処刑と煩い人なのです。ああでも言わなければ、ハシュウさんを処刑しようといていたはずです。だからと言って、あんな無礼な事を言っていいということにはなりません…なので、謝らせて下さい」


勢いよく頭を下げるシャルランテ。

おぉ?オイオイ、この王女クソかと思ったけど、もしかしてマトモなのか?

意外な発見だな。


「はは、構いませんよ。むしろ王女殿下が私などに頭を下げて、大丈夫なのですか?」


だから頭を上げて下さい、と優しく言う俺。

その言葉に従って、ゆっくりと頭を上げたシャルランテはふふ、と笑って言った。


「大丈夫です、私がお願いすれば彼らは何も言わないでいてくれますから」


うんうん、と頷く衛兵と女神官。

へぇ、中々人望厚いじゃねぇか。

微笑むシャルランテは中々可愛い。

あーぁ、善良な俺としては胸が痛むぜ。


けど悪いな。

俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。

この国を滅茶苦茶にする第一歩。

大まかではあるがそれを俺は既に頭の中で描いていた。


俺は内を流れる力の濁流に意識を向けた。

例えるならばそれは黒い川、氾濫するような勢いの大河。

そこから俺はその川の水を掬うようなイメージで、力を汲みあげる。


ーーー使うぜ、ゴリ。


俺は誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。


「《我が意に従えアカハト・アシュハト》」


それは呪いの言葉。

対象を己の意のままに操る呪術。


俺には解る。

これは、希望とか正義とかから来る、そういう勇者達が扱うような祈りの力ではない。

むしろ反対、絶望、怨嗟、あらゆる負の怨念が重なって生まれた祈りの力。


呪詛カース』。


それがこの世界で俺が得た新たな力だ。


呪詛の対象は前を行くケツ女神官。

悪いな、犯すより殺すの方が先に来るみたいだ。


その肌に、黒い蛇のようなタトゥーが蠢く。

そして、浸透するようにして消えていった。



「……っあ、がっ…」


突然、女神官は手足がピンと伸びきり、そして脱力した。

それは呪詛の成功の合図を示す。

相手の完全支配が成功したということだ。


体感ではゲームをしている感じだな。

命令コマンドを打ち込んで動かすというより、ゲームコントローラーで操作するイメージ。


「?どうしたのですか?」


違和感を覚え、女神官にシャルランテが話しかける。


「……ぁ、ぎぃ、ぎぎ……」


あ、やべ、操作ミスった。

口を動かして話させようとしたのに、間違えて白目剥かせちまった。

まあいいや、このままやっちまおう。

そっちの方が面白そうだし。


「ぉぉぉおぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


奇声を発する女神官。

すぐ様衛兵達がシャルランテの前に出て、シャルランテを守る陣形に移る。


「あああああ!!!!」


しかし女神官はその体躯に似合わない速さで衛兵の一人に接近。


「ああああああああああ!!!!」


「ひいぃっ」


ゴギャリ、とその衛兵の首を捻り折った。


「うわぁぁ!」


「クソ、姫様を守れ!」


「うぉおお!」


残る衛兵三人が気合の言葉を吐き、短槍で女神官に攻撃を仕掛ける。


俺はそれを距離を置いて見ていた。

背中に庇うようにしてシャルランテを立たせており、シャルランテからすれば庇われていると思うだろう。

今目の前で起きている女神官の暴走、その原因が俺とも知らず。


女神官が奇声を発する度にビクッとするのが可愛らしい。

ひゃは、楽しいね。


「あああああ!!!!」


「クソぉ!」


殺した衛兵の槍を奪い取った女神官は、その身が傷つくことも構わずに、力任せに槍を振るう。

その膂力は男性のソレをゆうに超えており、槍と槍で迫合せりあいをしていた衛兵を軽々と吹き飛ばした。


「これは…!?」


「王女殿下、衛兵が抑えている内に早くお逃げください」


「そんな、できません!」


「駄目です!彼らが今、命を賭けて戦っているのは、貴方の為なのですよ!」


迫真の演技。

流石は元カノに演技派男優と言われた俺。

何の男優かは言わないけど。


女神官は俺が操作しているとはいえ、その俺から見ても中々キモいことになっていた。

白目に口は舌を出して開き、裂ける寸前まで口角を吊り上げている。

俺が操作することによって脳のリミッターを外し、常人とは思えないほどの力を発揮しているわけだが、肉体の限界が近いのか、全身の皮膚が裂けて血が滴っていた。


「ぉぉおぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


やべ、この雄叫び楽しいな。

女神官は声帯が断裂するくらいに叫び、空間がびりびりと震える。


「くっ、逃げますよ!」


俺は王女の手を取って廊下を駆け出した。

当然並列思考で女神官も動かす。

視界をリンクさせ、その情報を俺の脳へと伝達させる。


「あああ!!!!」


女神官の目の前には三人の衛兵。最も近くにいた奴に向かって全力で突進。

相手が槍を突き出して来るのも構わず、振り回した槍の穂先でその衛兵の頭を飛ばす。


「あああああ!!!!」


腹に突き刺さった槍を抜き、投擲。

それに怯む衛兵を横目に、攻撃を仕掛けてきた衛兵に向かって口の中で噛み砕いた歯をプロレスの毒霧のようにして吐き出し、一時的に視界を封じる。


「ぐぅっ」


「ああああああああああ!!!!」


怯んだ隙に心臓に槍を撃ち込む。

それだけでその衛兵は痙攣し、動かなくなった。


「う、うぉおお!」


最後の一人になった衛兵は、裂帛の気合いとともに槍を突き出す。

難なく躱した女神官は、突き出された槍を強引に掴み取り、さらに手に持つ槍で衛兵を突き刺そうとする。


それを見た衛兵は即座に槍から手を離し、突き出される槍の穂先を腰のサーベルを抜いて切り落とした。


おぉ、やるな。

俺は王女の手を引いて絶賛走り中ゆえ、女神官の操作はやや雑とはいえ、冷静に切り抜けられるとは思ってもいなかった。


「王女殿下、大丈夫ですか?」


「はっ、はっ…はい、大丈夫、です」


蝶よ花よと育てられたであろうシャルランテは、少し息を切らしながら頷いた。


「衛兵がどこにいるか分かります?」


「はぁ、はぁ…あの突き当たりを、左に曲がれば、衛兵の詰所があるはずです…!」


俺は王女の指差す方を見る。

うわ、突き当たり遠すぎるだろ。

だから無駄にデカいっていったじゃん。

逃げるのにも一苦労だな、クソ面白い。


「…わかりました。お辛いとは思いますが、もう少しの辛抱です…!」


「はい…!」


再び走り出す。

走りながら、俺は操作する女神官の方へと意識を傾ける。


「ぉぉおぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


本日三度目、声帯を犠牲にした咆哮。


「ちぃぃ!」


人間とは不思議なもので、突然大きな音がすれば分かっていても一瞬萎縮してしまう。

その隙をついて攻撃してくる女神官の槍を、ギリギリのところでサーベルの腹で受け流す衛兵。


「負けられない…負けられないんだ!俺には妻と娘がいる!ここで死ぬわけにはいかないんだァァァ!!」


「あああああ!!!!」


怒号と共に女神官と切り結ぶ衛兵。

着実に、その堅実な剣術は女神官の身体を切り裂いていた。


……まずいな、こりゃ。

衛兵が思ったより粘るせいで、そろそろ廊下の突き当たりに着きそうだ。

まだ三、四百メートルほど距離はあるものの、このまま走ればそれほど時間はかかるまい。


よし、こうなりゃあの手で行くか。

俺は女神官の声帯を操作し始めた。


「あああああ!!!!」


「はぁああ!!」


槍を反らし、衛兵は女神官の懐へ入った。


「死ねええ!!」


サーベルを振り、女神官の首を切り落とそうとする。

その瞬間。


「たす…け、て。操られてるの…!」


女神官が涙を流して、掠れた声で言った。


「……ッ!」


僅かに逡巡する衛兵。

だがそれは、女神官のーー否、俺の演技に過ぎなかった。


「なーんちゃってえええ」


極限まで吊り上げた口角は裂け、その姿はまさに口裂け女。

衛兵は絶望の表情を浮かべ、何かを呟いた。


「ミーシャ、カレン…」


そして女神官は貫手を衛兵の心臓部分へと撃ち込み、指の骨が折れるのも気にせずその心臓を貫いた。


「ぉぉおぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!あああああ!!!!」


落ちていた新しい槍とサーベルを拾った女神官は、それらを口で噛んで固定し、ブリッジをして四足で走り始めた。

そしてその速度は、俺達の走る速さより断然速い。


ひゃはは、マジでホラーじゃん、ウケる。

曲がり角まであと百メートルと少し、曲がり角につくよりも前に、あのホラー女神官は俺達に追いつくだろう。

そして、そこが俺の見せ場でもある。


カサカサとゴキブリのように走る女神官に脳内で爆笑しながら、手を引くシャルランテに切迫した声で叫ぶ。


「不味いです、王女殿下!曲がり角に着くよりも先に、あの者に追いつかれます!」


既に女神官は王女の三十メートルほど後ろまで来ていた。


振り返ってそれを確認したシャルランテは、息の切れた声で言った。


「わかり、ました!ここで、迎撃します!」


オイオイ、マジかよ。

いいねぇ、そういうの結構俺好きなんだよ。


「そんな!?」


ノリノリで演技する俺。

やべぇ、クソ楽しいぞ。

自作自演ってこんな感じなんだな。


「ハシュウさんは、詠唱する時間を稼いでくれませんか!?私が、高火力の魔導シエラでやります!」


なるほどねぇ、シャルランテはそこそこの魔法を使えるみたいだな。

クク、計画からは逸れるが、どれくらいやれるか見たくなって来たな。


「わかりました、三十秒だけ時間を稼ぎます!」


「それだけあれば十分です!一気に決めます……!!」


ホラー女神官に向き直り、魔導の詠唱に入るシャルランテ。


それを見た俺は笑いながら、軽く屈伸をした。


「さーて、一人二役組手でもしますかねぇ…」


楽しくなって来た。

あかん、もう少しだけ続くんじゃーい


9/6 呪詛『我が意に従え』を「オーダー」から「アカハト・アシュハト」に変更しました

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