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ゴリラの献身、クズの改心③

ふぅ




ハーメルが宝珠を持ってこちらに近づいてくる。

国王は髭をしごいて満足そうにしていた。


オイオイオイ、ちょっと待てや。

勇者の才能がどうとかより、もっと大事な事があるだろうが。


「……申し訳ありませんが、発言いいでしょうか」


見かけだけ申し訳無さそうに言う俺。

クソ、我慢だ我慢。

国王に媚を売らなきゃならないことにハラワタが煮え返りそうになるが、必死で堪える。


クソが、この際異世界だって事は認めるさ。

俺の目の前ではまだガルハリィドとか言う奴が出した光球が浮いている。

俺はどうにもそれをマジックと断じることができなかった。なぜならその光球には、偽物と決めつけることのできないリアリティがあったからだ。

そして、不思議なことに俺はその光球を構成する何か……連中の言う、魔力らしきものを感じていた。


魔法見せられたし、まず大体こんなデカい建築物だったら有名なはずなのに、俺は知らない。

聖シエラエール王国とかも聞いた事がないが、ドッキリにしては手が混みすぎている。

まずこれは現実といっていいだろう。


けどよ、異世界なのはいいとしよう。

だが俺が一番聞きたいのは元の世界…地球に戻れるかどうかだ。


俺はゴリをきちんと葬ってやらねばならない。

そしてこれが俺にとっての最も重要なタスクだ。

ならばそれを遂行するために全力を尽くさなければ。


ちらり、と隣の勇者共を確認する。

顔までは見ていないが、服装が学校の制服らしきものであるからして学生なのだろう。

国王の言葉にまるで疑念を抱いていない。

やっぱりまだガキか。


「何だ、申してみよ」


国王が偉そうに言った。

俺は笑みを崩さなかったが、額に青筋が浮かんだ。


「発言をお許しいただき有難うございます。……それで、私達は目標を達成したとして、元の世界に帰ることはできるのでしょうか?」


「ふむ?何だ、言っておらんかったか。ハーメル」


「はっ」


俺を連れて来た女神官の方をちらりと見た国王は、ハーメルに向けて手を振った。

それに深々と頭を下げた大司教ハーメルは、こちらに振り向いて言った。


「残念だが……元の世界には戻れない。勇者がこの世界に来て、帰ったという話は一度も聞いた事が無いし、歴代勇者の墓はこのシエラエール大聖殿に全て安置されている」


「なっ……!?」


その言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

そんな…マジかよ。嘘だろ?オイ?


んな……ゴリは、あのまま放置って事かよ。

他の勇者共はこの話を知っていたのだろうか、俺ほど驚いている奴はいない。

召喚された時に聞かされていたのか?


クソが!あの女神官クソアマ、栄養が全部尻にいってんじゃねぇのか!?

一番大事な事は先に言いやがれ!


俺が動揺を露わにしていると、その様子を見ていた国王は焦れたのか、指図して来た。


「ふむ、そんな事より勇者達よ。宝珠に早く触れるが良い」


国王ジジイが言う。


「……ぁ"?」


思わず小さく声が漏れた。

すぐに周りを見渡すが、聞こえていた奴は誰もいないようだった。


ホッとするのもつかの間、胸の中からタールのように黒く、マグマのように熱い感情が溢れてくる。

俺は、既に自分のタガが外れていることを自覚した。


そんな事より、だとコラ?

クソ、コイツ……マジで、殺す。

瞼の奥が怒りでチカチカとする。


「……っ」


溢れ出そうになる殺気を全力で堪える。

歪む顔を見られないように俺は俯く。

表情で殺意を悟られないように、必死で表情筋の形を笑みの形にキープした。


コイツは、コイツだけは……俺が、最も惨たらしい方法で、殺してやる。

俺のリマインダー、国王に嫌がらせするという項目が原点回帰し、国王を殺すという目的が一気に浮上する。


勝手に拉致しておいて、それだけでもハラワタ煮えくり返ってるていうのに、その上それか。

俺の、今生きている理由を侮辱したのだ、このクソジジイは。

俺が生きていられるのは、あの時ゴリが俺を庇ったからだ。


熱くなるとか、そういう一過性のキレ方じゃない、腹の奥底で冷たく、それでいて灼熱の熱さを持って殺意を研ぎ続けるタイプのキレ方だ。


…あぁ、こんなにキレたのは五年振りだな。

一周回って冷静になり、怒りで赤く染まった視界がクリアになる。


……落ち着け俺。深呼吸だ。

ここでキレても仕方ねぇ。

いつもの俺はこんな時どうしてた?

何を考えていた?


無様に喚くのは最も俺が嫌っていた事の筈だ。


俺ならクールに、そして最高にクソッたれに。

悪逆無道を体現、お前らに悪夢をプレゼントしてやるよ。


脳ミソを冷やせば、段々と普段の調子が戻って来る。

いいね、この感じ、この感じだ。

遥か高みから全てを見下ろして嘲る感覚。


口の端を目元まで吊り上げるようにしてにんまりと笑った俺は、伏せた顔に再び柔和な表情を貼り付けた。


何も言わなくなった俺の態度を恭順と受け取ったのか、宝珠を持ったハーメルがこちらに近づいて来た。


「さぁ、触れるがいい」


隣の奴が立ち上がる気配がした。

俺は柔和な表情のまま、ゆっくりとそれに続いた。


隣の奴らーーつまり他の勇者は、俺以外に四人いて、その内訳は男一人に対して女三人だ。


まず水晶玉に触れようとしたのはその一人の男だった。

髪色はやや茶髪の、整った顔立ちの青年。

服装は学生服で、おそらく高校生くらいの年齢だろう。


「名前を言え」


高城こうしろ光輝こうきです」


高城が水晶玉に触れると、水晶玉はぼんやりと靄がかかって白色に光った。


「おめでとう、聖剣の勇者だ」


おぉ…と、周囲からどよめきの声が上がり、続いて盛大な拍手が送られる。

どうやら聖剣の勇者とやらの人気は高いらしい。


「次」


原崎莉緒はらさきりおよ」


艶やかな黒髪をポニーテールにした女…おい、アイツこの前ヒョロガリがナンパ邪魔して来た時の女じゃねぇか!?

黒いセーラー服かは除く足が眩しい。

てか、よく見たら高城とか言う奴も見たわ。

莉緒の彼氏だっけか?


「おめでとう、賢者の勇者だ」


水晶玉は赤く光る。

高城の時と同様に、周囲から拍手が上がった。


「次はアタシの番だね!アタシは真島凛ましまりんだよ!」


威勢のいい茶髪のショートカットの女。

中々の美人で、ゴリが好きそうなタイプだ。

こいつも莉緒と同じセーラー服を着ていた。

色は白だったが。


「おめでとう、武聖の勇者だ」


「やったー!体を使う系がよかったんだよね!」


黄色い光を発する水晶玉を見て、凛が無邪気に喜ぶ。普段なら可愛らしいかもしれねぇけど、この状況下では馬鹿にしか見えねぇな。

周囲の奴らーー特に武官と思しき奴らは、凛を羨ましそうに見ていた。まあ、羨ましいだろうな。

武術の頂点らしいし。


「次」


「せ、セリカ・三崎・ブランシュです」


金髪碧眼、髪を下の方でゆるく二つに結んだ女が出て来た。名前からしておそらくハーフ、ゆるふわって言葉がしっくりくるタイプだな。

ちなみに巨乳。

揉みたい。

てかこいつも同じ制服か。こいつらもしかして同じ学校か?


「おめでとう、聖人の勇者だ。…神官としては感慨深いものがあるな」


お、ハーメルが定型文以外の言葉を発した。

あー、てことは消去法で俺は聖騎士の勇者か、ダルいな。まず国王に従って勇者やらなきゃいけない時点で癪に触るぜ。クソつまんねぇな。

勇者なるなら聖剣の勇者がやりたかったわ。

聖剣で国王を刺し殺すの楽しそうだったんだけどな。


「次。…聖騎士の勇者だとは思うが、一応勇者が現れた時の規則なのでな。宝珠に触れてくれ」


「はい。橋生と申します」


「それだけか?」


「えぇ」


フルネーム教える義理なんてないぞ。

ここが異世界だっつーなら、地球で言われていたように名前で呪われる可能性もあるからな。


そして俺は宝珠に触れる。

あー、何だっけ、聖騎士の勇者って守りが最強だったか?それより国王を暗殺できるような才能が欲しかったわ。


俺が触れると、宝珠はぼんやりと青く光ってーーーーーそしてそれが間違いだとでも言うようにして、宝珠は一瞬黒く染まって、その光を失った。


「……!?」


周囲がどよめく。

それは当然高城の時のような賞賛からくるものでは無く、困惑やら何やらが入り混じったものだ。


「静粛に!静粛に!」


やや焦りが混じった声でハーメルが怒鳴る。

しかしそれはさらに周囲の奴らが騒ぐのを助長するだけだった。


俺はそんな周囲の反応などどうでも良かった。


「何だ、これ…?」


なぜなら俺は宝珠に触れた瞬間、自らの内側に流れる力の奔流のようなものを感じていたからだ。

渇いた血と錆をどろどろに溶かしたものが、血管を巡るような感じ。


「ーーー静かに」


国王が手を振った。

すると辺りは最初から誰も話していなかったかのように、一斉に静かになる。

うへぇ、やっぱり金じゃん。

独裁者みたいだな。


「ハシュウ、と言ったか。お主ーー勇者ではないのか?」


クソジジイがそう言う。

アホか、俺が知るわけないだろうが。意識失って目を覚ましたら自分が勇者だって自覚してる奴がいたらむしろ怖いわ。


「いや、待てよ……?」


殺人鬼を殺した時の記憶がリフレインする。

あのクソッタレは俺を勇者以外剪定とか言って切り掛かってきた。

さらにその俺を庇ってゴリが死んだ時には勇者が死亡したとか抜かしてやがったな。


………アレ?もしかして、勇者は俺じゃなくて、ゴリか?


つまりここにいる俺は、勇者でも何でも無く、唯巻き込まれただけの一般人てことか?


それなら宝珠が光らなかったことにも納得できる。可能性は高いだろう。


ひゃは、それにしてもゴリが勇者とか似合わなさすぎるだろ。アイツは昔から喧嘩でも防御が得意だったし、騎士って所には違和感ねぇけどよ。

…俺も、殺人鬼から守られてここにいるわけだし。

でも聖騎士よりは暗黒騎士って感じだろ。

聖騎士は乳首だしてポージングとかしないしな。

やべ、思い出したら笑えてきた。


「ハシュウよ、どうなのだ?」


ジジイが黙っている俺に再び聞く。

黙ってろ、クソが。

クソ、折角の楽しい回想が台無しじゃねぇか。

勇者だどうだとさっきから鬱陶しいんだよカスが。

あぁ、確かに俺は巻き込まれただけの一般市民だろうよ。


「……えぇ、どうやら私は勇者召喚に巻き込まれた一般人のようですね」


けどよ。


俺はアイツに生かされた。

あいつの命を貰って、今ここにいんだよ。

あいつ(ゴリは、俺だ。


あぁ、そうだ。

その表現が俺は一番しっくりと来た。


アイツは俺だ(・・・・・・)


今ならゴリの体から飛び出て来た光が何故俺に入り込んで来たのか、わかる。


あいつが俺ならいまごろブチ切れてるだろう。

勝手に拉致られて、もう帰れなくて、そんで勇者やれとか意味わかんねぇよ、ってな。

俺は馬鹿じゃねぇから取り敢えず大人しくしてるけど。


そうだ。やられっぱなしは性に合わねぇ。俺達はいつもやられたら億倍やり返してきた。だから多分俺は……俺とゴリは、きっと、この世界にやり返すためにここへ来たんだ。


違いねぇ、とゴリが頷いた気がした。


いいねぇ、楽しくなってきたぞ。

ひゃは、この世界を滅茶苦茶に、グチャグチャにしてやるよ。


俺は、宝珠に触れた時から、胸の奥から黒いエネルギーが溢れてくるのを感じていた。だがそれは不思議と、むかむかとする嫌なものじゃなくて、心地よいものだった。

俺は生まれつきソレを持っていたように、その使い方を知っていた。


これは……きっと、ゴリが俺に託したものだ。

俺はゴリと一緒にいる…そんな気がしていた。


はは、お前の力貰い受けたぜ。

けどよ、無駄にはしねぇ……まずは、お前の代わりに。


国王やハーメル、その他の官僚どもが何か叫んでいるのを聞き流して、俺は悟られないように、けれど確かに、口の端を歪めた。


俺が、コイツらをブチ殺してやるよ。








改心?えぇ、もちろん良い方向ではなく悪い方向に改心しましたとも、うん。


プロローグはあと一話続きます。

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