ゴリラの献身、クズの改心②
やはは、つい筆がのりました
9/23 服に返り血が無くなっていることを描写
「ーーゃ様、勇者様、お目覚め下さい」
「ん、う…」
優しく小刻みに揺さぶられて、俺は意識が段々と浮上していくのを感じた。
目を覚ますと、そこは薄暗いあの廃工場ではなく、光が差し込む神殿の一室のような、石造りの部屋だった。
「………あぁ?」
眩い光に目を細める俺。
ここは、どこだ?
目を覚ます前の記憶が蘇ってくる。
俺はあの時、ゴリに庇われて、殺人鬼をブチ殺して、そうしたら周りが光って……
「ゴリは!?ゴリはどこだ!」
ゴリの死体がない。
俺を生かす為に死んだアイツを、せめてちゃんと葬ってやりたい。
クソが、誰かが持ち去ったのか!?
いや、まず俺だけが連れ去られたのか?
……ここは廃工場じゃねぇ、俺が連れ去られたという方が可能性が高えか。
クソ、冷静になれ俺。こんな所でテンパってても意味ねぇだろ。
そう思っていると、女のものと思しき声が背後から俺に掛けられた。
「あ、あの……勇者様?」
「あ"ぁ?」
「ひっ」
やべぇ、ついメンチ切っちまった。
勇者とか言われて気分を害したっていうのもある。
見回すと神官服を着たような女が数人いて、誰もがこちらを心配そうに見ていた。
こーゆーの何て言うんだ?巫女?修道女?それとも女神官?……まあ、女神官でいいか。
ち、ここが何処かわかんねぇ以上、大人しい振りをしとくか。
様付けで呼ばれるってことは取り敢えず手荒な真似はされないだろう。
…まずは好印象を与えておくべきか。
そう考えた俺は得意の柔和な笑みを展開し、話しかけてきた女の方に振り向いた。
「あぁ、申し訳ありません。知らない場所に突然放り出されてしまったもので……つい混乱してしまいました」
少し困ったように眉をはの字にするのがポイントだ。
俺が地面に座っていて女神官が立っている、この体勢からなら自然に上目遣いも使えるしな。
俺の返しに、女神官は頰を赤く染める。
ほらな。昔の元カノにもアンタは顔だけは最高よねって言われたくらいだから俺。
その後は……まァ、察してくれ。
「そ、そうですよね…!勇者様からすれば、突然呼び出されたようなものですものね…!ささ、こちらへどうぞ、この国の国王が広間にてお待ちです」
「はぁ…わかりました」
俺は取り敢えず先導する女神官の後に続くことにした。
だけど、勇者って言うのはマジでやめてくれ。
殺人鬼のことを思い出して殺意しか湧かねぇ…
こちとら目の前の奴ら全員ブチ殺したくなる衝動を必死で堪えてんだよ。
まず、ここどう見ても日本じゃねぇよな。
話してる言語は日本語だったけどよ…何か気持ち悪いな。
というか、今まで忘れていたが俺の服に付着していたはずの殺人鬼からの返り血がない。
一体全体、何がどうなっている?
石造りの部屋を出れば、海外のーー特にヨーロッパ圏で見るような教会に似た、又は神殿の中の様な造りの回廊。
「ささ、こちらです」
前を行く女神官のケツを見ながらついて行く。
……くそ、いいケツしてんな。
ぴっちりと生地が尻に纏わりついていて、なまじ脱いでいるよりもエロい。
くそ、拉致されたかもしんねぇっつーのにお気楽過ぎんだろ俺。これはマジでゴリラ化が進行してるかもだな。
回廊の造形が美しいだとか、神秘的、文化的だとかそういうのはこの際ぶっちゃけどうでもいい。
やたら高い天井には、神話と思われる絵画やら天使っぽい何かの装飾とかがあるが、そんなのを見るよりケツを見るべきだろ、男なら。
女はケツと脚、あと顔、最後に頭の良さ。
頭は良くても悪くてもいいが、馬鹿だけど賢くて従順なのが一番いい。
矛盾してんな、何言ってんだ俺。
女神官について行くだけで、クッソ長い廊下を歩かなくちゃいけない俺はぶっちゃけ暇だったので、そんな馬鹿な事ばかり考えていた。
暫く黙って歩いていると、曲がり角があった。
その角を曲がると、やたらデカい扉が見えた。
「…ぅお」
無駄にデケェな。金かけ過ぎ、見栄張り過ぎ、頭悪過ぎ。人が通るのにあんな縦長にデカい門とかいらねぇから。
そんな事を呆れながら考えていると、女神官がふふっと笑った。
あーこれ多分俺が感心してると思ってるやつだこれ。逆だっつの。まぁいいけどよ。
「勇者様、あの先に今代の召喚主であらせられます聖シエラエール王国第五十八代正統国王、バルハタザール三世陛下がおられます。既に他の勇者様方も揃われておりますよ」
こちらを振り向いて女神官が言う。
「そうですか、説明ありがとうございます」
俺は内心を悟られないように目を細めて、にこやかに微笑んだ。
このクソアマ、勇者って言うなっつってんだろうが。いや、口に出してはいってないけどよ…コイツは後で殺すか犯そう。
つかあらせられるとか尊敬語つかってんじゃねぇよ馬鹿。最高敬語かよアホ。国王って何だよ、そんな奴が拉致してんじゃねぇぞカスが。
大体こっちは拉致されてんだぞ?王だか皇帝だか知らんが誰が敬うかボケ。
……だが勇者様方って言ったな。
…俺の他にも拉致されて来た奴がいるのか?
まあ、まずは様子見、状況把握から始めるとするか…。
内心をおくびにも出さず、心の内だけで相手を罵倒し、そして思考を組み立てていく。
今後やるべき事は三つ出来た、一つ目はこの馬鹿女をバチ犯す。二つ目は俺を拉致しやがった国王バルハタザールとか言う奴をブチ殺す…は、今は無理そうだから取り敢えず嫌がらせする、だな。国王とか言うくらいだし、権力者だろうからな。ま、利用して権力を得るっつーのもアリかな。
最後は日本に戻る、だ。
ゴリを埋葬する、これだけは俺の最重要チャートだ。
心の中のリマインダーに刻み込む。
これは俺の習慣で、リマインダーに刻み込むイメージで物事を強く認識すると、絶対に俺は忘れない。
そうこうしている間に巨大扉に辿り着く。
扉が見えてから辿り着くまでの時間かかり過ぎだろ。やっぱこれ作らせた奴馬鹿だわ。
「最後の勇者様の、御入場です」
女神官が門のところに立っていた何人かの衛兵みたいなのにそう言う。
御入場って、結婚式かよ…。
それを聞いた衛兵は頷いて、扉と同じく無駄にデカい声で叫んだ。
「勇者様の、御成あああぁぁぁああありいいいぃぃいいい!!!!」
おなーりーって、大奥かよ。現実で言う奴初めて見たわ。
叫んだ衛兵とは別の衛兵達が、額に血管を浮かび上がらせながら門を開いていく。
しかもすんごい遅いスピードで。
だから言ったじゃん、無駄にデカいのは意味ないってさぁ。
ゆっくりと開いていく門を見ていると、女神官が囁いて来た。
「こちらです、勇者様。中へどうぞ御入り下さい」
「はぁ…」
だから勇者言うなっつってんだろケツ女が。
絶対に犯すからな。
門をくぐり、中へ入ると、まず目に入ったのはこれまた無駄にどデカい玉座だった。
天井まで背もたれが伸び、上部には天……神が描かれ、その下に天使、竜、そして光と、順々に装飾が施されている。
一番下の光は丁度椅子に座る人間の頭の上に来ており、おそらくだが王権神授を表しているのだろう。
そして、其処に座っている奴こそ、聖シエラエール王国第五十八代正統国王、バル…名前忘れたわ。でも此処まで言える俺はスゴいと思う、マジで。
ゴリならまず国名すら言えないからな。
やたらと長い髭を蓄えたその人物は、年こそ老いているものの、体格は大柄で太っており、その老獪さを感じさせるような貫禄があった。
うわ髭白いね、白髭かよ。そんなに髭反り上がってないけど。サンタみてぇだなオイ。
周りを見回すと、バル…バルさん…バルサミコ酢みてぇだな。もう国王でいいか、面倒くせぇ。国王の横に文官と武官っぽいのが一人ずつ侍っている。
さらに国王の隣にはこれまた豪奢な椅子があり、そこには華美なドレスを来た中学生くらいの女が座っていた。
当然、人はそれだけでは無く、衛兵、帯剣している武官っぽい奴、あと東大を出た奴らが被っているような帽子をつけた奴ら…多分文官がそれぞれ十人以上はいた。
俺の右手には、学生服を来た奴らも何人か見える。
多分こいつらが俺の他の勇者サマ方とやらだろう。
そいつらは全員膝をつき、そして拳を地面に当てていた。
「勇者様、まずは跪いて下さい。他の勇者様方の横、右隣がいいですね…そこに跪いて下さい、陛下からの御言葉を受け賜わります」
はぁ?何で俺がこんなクソジジイに跪かなきゃなんねぇんだよ、ふざけんな。
此奴は俺を拉致った黒幕なんだろうが。
しかし俺にやたらに視線が突き刺さって来るので、ここで無闇に抵抗しても場が悪くなるだけだと判断した俺は、渋々ーーといっても見かけは快くーー跪くことにした。
隣の奴を真似て跪く。
あーやっぱ国王殺そう。殺さなきゃやってられねぇわ、うん。チンコもぎとって金玉食わせてやる。そして足から輪切りにして焼いて食わせてやる。
俺が跪くと、国王は小さく頷いて厳かに喋り始めた。
「余が聖シエラエール王国第五十八代正統国王、バルハタザール三世である。…皆の者、面を上げるが良い」
あ、そうだそうだ、バルハタザールだ。うん、長いからハタ王って呼ぼう。アレ?これもしかして著作権引っ掛かる?
……やっぱ国王でいいや。
つか何様だコイツ、ブチ殺させろ。
周りの気配と同様に俺はゆっくりと顔を上げ、国王の顔を視界に捉える。
「此度の召喚、まことに大義である。召喚に応じてくれた五名の勇気ある英雄に、万雷の拍手を」
広間が拍手の音でたちまち満たされる。
何だよコイツ、独裁主義の金太郎一族みてぇだな。太郎は余計か。
「ーー止め。次に、此度の召喚主である余から、勇者達に感謝を述べよう」
軽く国王が手を振ると拍手は止まった。
やっぱ金ちゃんだってコレ。マジキモい。
ミサイル飛ばすぞクソジジイが。
つか感謝を述べるとか言っといて結局言わないやつじゃん、クソが。
テメェが俺を拉致ったことに対しての説明が聞きたいのに、感謝とか意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。
「此度は他でもない、魔王ゾブラム・キールの復活が、我が娘、シャルランテが神の啓示を受けたことによって判明した。そこで御主らには、魔王の討伐を頼みたいのだ」
国王の隣に座っていた中学生くらいの女が、立ち上がって軽く会釈した。
アイツが多分シャルランテとやらだろう。
つーか何だコレ?魔王?勇者?ゲームかよ。
意味がわからねぇぞ、このジジイは何を言ってる?てか此度って言い過ぎだろ。
俺が首を傾げていると、国王が俺に気付いたのか、俺に向かって喋り出した。
「おぉ、そちらの勇者には言っていなかったか。ここは、星界グランバース。お主らの言葉で言うと、異世界に当たる。お主は、勇者召喚の儀によって、異なる世界からこの世界へと、喚びだされたのだよ」
………は?意味がわからん。
ここは異世界で?地球とは違う星で?
俺はそこに次元か何かしらを超えて喚び出されたと?ハハ、このジジイはキチガイだったみたいだな。
「ふ、信じておらんようだな。ガルハリィド、見せてやりなさい」
俺の顔を見た国王は右隣の文官みたいな奴にそう言った。
「は、陛下。御心のままに」
そいつは右手を翳して、何か呪文のようなものを唱えた。
「其は光を灯す永久の灯火…『灯火』」
それと同時に、奴の手に光る玉のようなものが浮いた状態で現れた。
俺の横にいる奴が息を飲む音が聞こえた。
オイオイ、何の手品だ?
まさか、魔法とかなんて言わねぇよな…。
「これは、我々の世界で魔導と呼ばれる技術だ。諸君らの世界では……そう、魔法と呼ばれるものだ」
ハイ、予想的中ー。
何言ってんだコイツは。
けど、これは………。
「魔導、ですか…」
にわかには信じがたいその話。
だが目の前に浮遊する光の球を、見れば見るほどその言葉にはリアリティがあった。
「そうだ。勇者はこの魔導を使用する際に必要とする魔力が我々より総じて高い。そしてまた、我々には無い特別な才能を持っているのだ」
国王が手を叩く。
「入って参れ」
そう言うと、再び扉がゆっくりと開いて、そこから布で包んだ何かを持った偉そうな神官が入って来た。
「聖遺物の献上、大義であった。大司教ハーメルよ」
「ははっ」
恭しく傅いた大司教ハーメルとやらは、手に持っていた布を払い、その中にあった物を外気に触れさせた。
そこには黄金の台座で装飾された、神々しさを感じさせるような、巨大水晶玉があった。
「そして、これこそがその才能を判別する『審判の宝珠』よ」
ドヤ顔の国王。
ウザいからその顔やめろ。
「この宝珠は、勇者が触れるとその勇者に秘められた才能を色で識別することができるのだ……勇者には五つの種類があり、各々がその種類によって違う才能を持っておる」
水晶玉を撫でる国王。
「白は、聖剣の勇者。武術と、魔導に優れ、聖剣をあやつる。赤は、賢者の勇者。魔導を極め、絶大な魔力を誇る。黄色は、武聖の勇者。格闘技を極め、武術においては頂点に立つ。青色は、聖騎士の勇者。防御に秀で、その守りは正に全てを弾く鉄壁。そして最後に、緑色は、聖人の勇者。魔導の中でも回復の魔導に優れ、極めれば死者すら復活させることが出来る」
さて、と髭を撫でる国王。
「勇者達よ、宝珠に触れるが良い。そして、秘めたる才能を知れ」
長い…長いよ、早く改心しろよハシュ
9/3 ガルハリィドの魔導を『光球』から『灯火』へと変更しました。