ゴリラの献身、クズの改心①
長かった…が、ようやく異世界に行けそうだぜ!
ヤバい、残酷描写があるって言ってなかったので追記
結構グロいかもしれません
肉屋で店主が肉を叩くような音。
その十倍くらいエグい音がして、殺人鬼が勢いよく吐血した。
「うげっ、汚ねぇ!」
オイオイ、こっちまで飛んで来たぞ。
飛び散る血をギリギリで躱した俺は、腹いせに鉄パイプで殺人鬼を殴りつけた。
汚ねぇ物飛ばしてんじゃねぇ!俺は清潔派なんだよ!
「ハシュー、バックするからどいとけよー」
「……おう」
運転席のゴリから能天気な声がかかり、少し落ち着く俺。
ゴリに落ち着かされるとは、俺もゴリラ化して来てんのかね?
バック音と共に車が後ろにゆっくりと進む。
それと同時にシャッターと車でサンドイッチされていた殺人鬼が崩れ落ちるようにして倒れた。
鉈を持った右腕がピクピクと痙攣している。
アレって死後硬直ってやつか?それとも生きてる?
うーん、わからん。
仕方ない、もっかい轢いとくか。
「おーい、ゴリー。駄目押しでもっかい轢いてくんねえ?」
「マジ?鬼だねぇー」
そう言っても拒否しないのがゴリラ。
間違えた、ゴリ。
バンは進行方向を変えて再び急発進、タイヤで殺人鬼の頭を踏み潰した。
熟れきった柿が地面に落ちて潰れるような音がして、血と脳漿が廃工場の地面にきったねぇシミをつけた。
「うわ、グロぉ」
殺人鬼を轢殺した後、再びバックさせたバンから降りて来たゴリが舌を巻く。
何でダブルパイセップスしてんだよ、クソ面白ぇな。
「コレ、どうするかな」
「うーん、富士の樹海に運んで捨てる?」
「お前サスペンスとかの見過ぎだろ……つってもコイツ、滅茶苦茶人殺してんだよなぁー」
殺人鬼の右手は未だピクピクと動いていた。
やっぱりさっきのは死後硬直か。
「警察とかも動くだろうしよー…殺したの正当防衛でイケるか?」
サラリーマンの頭の上半分はグシャグシャになっていてもう誰の顔かもわからないくらいだ。
やべぇな、ちょいやり過ぎたかもしれん。
「どうする?埋めとく?」
ゴリが殺人鬼の血を踏んだのか、靴の裏を見てうへぇと言いながら呟いた。
「だからサスペンスの見過ぎだっつの…取り敢えずコイツの免許証とかねぇかな?家族とかいたら強請れそうだし」
「さすがハシュ、転んでもタダでは起きないワルだねぇ」
「馬鹿、まず転んでないっつの。どうせ俺らまだ未成年だしよ、正当防衛とか言いはっときゃ大丈夫だろ。……弁護士にもツテがあるしな」
「あーアレだろ、ヤクザのケツ持ってるアレ」
「そーそー、軽く拉致ってよ、弱み握ってることも教えてあげたら快く協力してくれるってよ」
駄弁りながら地面に転がっている肉塊へと近づいていく。
うつ伏せに倒れているその死体を、二人掛かりで仰向けにひっくり返し、俺はスーツの胸元を漁った。
うへぇ、何が楽しくて男の胸元を弄らなきゃいけねぇんだよ、気持ち悪い。
こんな状況じゃなきゃ絶対にやんねぇな。
そんなことを考えながらスーツの内ポケットに手をやると、スマホがあったので取り出す。
「あ?…ちっ、電源切れてんじゃん」
「ズボンのポケットに免許証あったぞ」
殺人鬼の股間をゴソゴソやってたゴリが言った。
コイツゲイなの?って思ってたけどポケット漁ってたのな。
「マジ?」
「マジマジ」
ゴリに手渡された免許証を見る。
えー何何?名前は赤沢健二?誰だよ、知らねぇな。
「コイツ知ってる?」
「いや、知らね」
「だよなぁー」
「ってことは怨みとかじゃなくてマジの無差別殺人ってことかね?」
「……かもな」
俺がそう言った瞬間、突然死体がビクン、と痙攣した。
「ーーゃ」
殺人鬼の声が聞こえた。
「「!!?」」
おいおい、まだ生きてんのかよ!?
「ーーーゃ」
殺人鬼の頭部、鼻から下だけになったその口が開き、そしてカタカタと嗤うようにして音を鳴らす。
「……ゃ、ゆ……しゃ、ゆう…ゃ、ゆうしゃ、ゆうしゃ勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者ァッ!!!!」
うわキメぇ!!
薬でも決めてんのかコイツ!!
ガバッと起き上がる殺人鬼。
遠心力に任せて鉈を振ろうとする。
それを見て俺たちは即座に後ろに飛ぼうとした。
が、ヤツの方が早い。
さらに言えば、ゴリより俺の方が一瞬出遅れた。
「勇者以外、剪定ッ!!」
「くそ、がッ!!」
狙いはやっぱり俺なのかよ!!
驚くほどの速さで、目の前に勢い良く迫る凶刃。
やべ、躱せねぇ!これ、死んーーーーー
「ハシュ!!」
「っ、あ?」
ドン、と何かが俺にぶつかったような衝撃。
俺はそのまま横に吹き飛ばされる。
「〜〜!痛ってぇ!」
ゴロゴロと転がり、勢いを殺した俺は、即座に起き上がった。
そこで俺は、血の池に沈むドレッドヘアの金髪を見つける。
「ーーあ?お、おい、ゴリ?」
血で赤く染まるゴリの背中、その首元に深々の殺人鬼の鉈が食い込んでいた。
「……勇、者?勇者、死亡?」
鉈を引き抜いた殺人鬼が首を傾げて何か呟いている。
テメェ、勇者だ何だって、何言ってやがる。
……ゴリが、死んでいるだと?
死ぬわけねぇだろ、俺の、橋生輪道の、相棒だぞ?
ただ、ちょっと今は寝てるだけだ。
首に鉈が当たったショックで気絶してるだけだ。
だからよ、俺がゴリの代わりにーーーーー
「テメェを、ブチ殺す!!!」
俺は側に丁度転がっていた鉄パイプを再び握る。
「うおおおお!!」
都合がいいことに殺人鬼は動いていない。
頭が下半分しかないのに人間って動けるんだな。
だが、もう次は油断しねぇ。
完全に、殺してやるよ!!
大きく振りかぶった一撃目が殺人鬼の頭部を捉える。
「オラァ!!」
そのまま振り抜いた俺は、鉄パイプで滅多打ちにする。
「死ね、死ね、死ね、死ねえええ!!」
顔の原型すらも残さないほど、粉々に砕く。
やがて、殺人鬼の右手から鉈が零れ落ちた。
俺はその鉈をひったくるようにして奪い取り、さらに鉈で殺人鬼をミンチに変えていく。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!!
「ーーーっはっ、はっ、はっ、…ふぅぅ」
息が切れてきた頃、殺人鬼はピクリとも動かなくなっていた。
俺の手から、ドス黒く染まった返り血がポタリと落ちる。
「ーーーゴリ!」
目の前の肉塊を呆然と見ていた俺は、血の雫が地面に当たって弾ける音でハッと我に返り、急いでゴリの側に駆け寄る。
「おい、ゴリ、起きろって!今何時だと思ったんだよ!?もう俺が殺人鬼ブチ殺したからよぉ!起きろって、なぁ!」
だが、ゴリからの返事は無い。
その冷えた体に触れた瞬間、急速に俺の体も冷たく凍ったように感じた。
コイツはもう動かない、そんな直感めいた何かが脳裏をよぎった。
おいおい、嘘だろ。あのゴリラが?
どんなヤバい時だって、アホみたいに笑って切り抜けてきたアイツが?
「もしかしてーーー死んでんのかよ」
手が震える。
ゴリは、死にそうだった俺を庇って、死んだ。
俺を庇って、殺人鬼によって殺された。
いや、違う。
コイツはーーー俺が、殺したんだ。
「……っクソがあああああああああぁぁぁぁぁァァァァッッッッ!!!!!」
こみ上げる何かをどうすればいいのか分からなくて、俺は叫んだ。
叫べば、この胸の気持ちの悪い何かが、声と一緒に飛び出てくるような気がした。
「ーーーぁ?」
気付けば、俺の周りが光っている。
目を凝らせば自分を中心として何かの魔方陣の様な模様が浮かび上がっていた。
そして、俺も。
いや、これは……ゴリが光っている?
ゴリの体から、その光が浮かび上がる。
光は何かの欠片のような形をしており、無数のそれが俺とゴリの周りをぐるぐると回った後ーーー欠片達は集まってーーーやがて、一つの球を形成した。
揺れるその光の球は、ゴリの魂にも見えた。
「何だよ、コレ……」
その光の球は僅かに震えた後、スッと俺の胸に入ってきた。
「ぅお!?」
俺は驚いたものの、嫌な感じは全くしなかった。
むしろ、長年連れ添ったダチのような、懐かしい感覚がした。
「おいおい、……もしかして、お前なのか?」
震える声で、俺がそう言ったのとほぼ時を同じくして、周囲の光が強くなりーーーそこで、俺の意識は途絶えた。
次回かもう一話くらいでプロローグが終わる、予定でっす
ブクマありがとうございます!いつの間にかブクマがついてて、びっくりすると共に滅茶苦茶嬉しかったです!
感想、批評なども、どしどし受け付けております!更新が遅いですが、これからもよろしくお願いします!