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叫べ、哀れな贄達よ

気付いたら1週間余裕で過ぎてた……

ま、まぁ俺にしては早いほうだよね!

 

 迫る怪腕。

 俺は《黒刻》の呪いを更に腕に流し込み、腕力を強化する。


(さて、真っ向勝負といきますかァ!!)


「おおッ!!」


 動く。

 視界の端で、ラファエロが剣を振り上げた。


 鞘ごと剣を叩き付ける。

 濁流の様に蠢く悪魔の腕を、僅かに押し留める。


「RRRRRRRuaッ!!?」


 そして次の瞬間に、絶叫を上げたのは悪魔の方だった。

 その複合腕は半ばから断ち切られている。


 床に落ちる腕の先には、深々と刻まれた斬撃の痕。


(やると思ってたぜぇ……ラファエロ!!)


「ハシュウ!後ろに飛べェい!」


 びりびりと空気が震えるような大声を上げながら、玉座の近くに居たラファエロが手に持つ剣を振り上げた。


「RRRRRRR!!!!」


 ラファエロの飛ぶ斬撃。

 それが再び空を裂き、悪魔のもう片方の複合腕を半ばほどから切り落とした。


「ッ!?ぉぉ!」


(あっぶねぇ!)


 ラファエロの指示に従い倒れこむ様に身を屈めた俺は、頭の数センチ上を斬撃が通った事に冷や汗を垂らしながら、そのまま後ろへ下がる。


「ぬゥぁぁァああアッ!!!」

「GRRRrrR rRRrA a A!!」


 ラファエロの放つ幾重にも重ね放たれた剣戟に、悪魔はなす術もなく切り裂かれていく。


(ひゃは、まじでバケモンだな……ここまで一方的とは)


 全身から血を噴き出す悪魔と対照的に、ラファエロは息一つ乱していない。

 流石は“大将軍ハル・セリハス”、悪魔を物ともしない。分かってはいたが、改めてその化け物具合を確認する。


(けどよ……そのままソイツをやらせる訳にはいかないんだよなァ!)


「Dooookeeeeeeeaaa!!」


 血煙を上げながら、傷だらけの──しかしそれも元に治りつつある──悪魔は再び動き出す。

 目前に迫る異形、背後には守るべきシャルランテ、俺は奴の攻撃を止めなくてはならない。

 側から見れば、勇者でもない俺は絶体絶命の状況に見えるだろう。


 だが──


(ひゃは、ここだ──《我が意に従え(アカハト・アシュハト)》ッ!!)


 ──全く問題無い。


 その号令と共に、庭に隠れていた者達が飛び出す。

 そして、()()()()は散開し、五人の内三人がラファエロに、一人が姿を消し、最後の一人は──俺に飛びかかった。


「なッ!?──ぅ、ぐぅッ!!」

「ハシュウ!?」

「キチキチキチキチキチキチ」


 突然右後ろから叩き付けられた手斧に、咄嗟に反応した俺は何とか剣で防ぐが、ガードの上から蹴り付けられ吹き飛ばされる──()()()()()


(ひゃは!きたきたきたぁ!)


 悲鳴を上げるシャルランテに見向きをせず、そのまま奇声を上げながら俺との距離を詰めてくるのは、首無しの魔人。

 筋骨隆々とした上半身を惜しげもなく晒し、使い込まれた二本の手斧を掲げるのはーーいつぞや、餓鬼街にて俺に殺されたゴロツキ君一号である。

 彼は俺の呪いによって、死して尚動く俺の奴隷となっていた。


 土気色に染まった肌、強引にちぎり飛ばされたような首の断面から《蠱毒の壺(ペガリト・シュハ)》によって産み出された毒蟲達が時折うぞうぞと蠢く姿を見せる姿は、初めて見た人間がソレを悪魔の手先と判断するに十分相応しい。


「ちぃッ!新手か!」


 玉座近くの騎士やラファエロの元にも俺の下僕であるゴロツキ君二号、三号、四号が攻撃を仕掛ける。


 弾け飛んだ後頭部から蚯蚓の様な蟲を溢れさせ、眼窩から飛び出た百足がカチカチを顎門を震わす剣使いの二号に、頭の上半分が綺麗に無くなっている魔導使いの三号。

 正直瞬殺してしまったので、元の戦闘スタイルが分からず、止む無く全身を改造して毒蟲達を鎧の様に纏わせた四号。


 どれもこれも肉体の限界を超えた動きを可能とする、恐ろしい悪魔おれの手先だ。


 俺は残念なことに、少し前に仕方無くゴロツキ五人を殺してしまったことがあった。

 こいつらはその時に出た死体ゴミをリサイクルして出来たものだ。


 第一階梯呪詛《我が意に従え(アカハト・アシュハト)》により肉体の限界を超えた動きを可能にし、《蠱毒の壺(ペガリト・シュハ)》によって産まれた、俺の命令を聞く蟲達に死体を操作させる事である程度の自律行動を可能とする。


 俺はこれらを、“毒蟲死体ゾンビワーム”と呼ぶことにした。結構お気に入りだ。


「キチ……SoォハKUヲ切リサク(ツムジカゼ)──《飄刃ワールウィンド》」


 三号が長い舌──体表に無数の目玉を持つ緑色の蛞蝓ナメクジ──をべろりと動かせながら魔導を放つ。


「温いわッ!!」


 奇しくもラファエロの攻撃と似た、飛ぶ斬撃を一刀の下に相殺したラファエロは、一番近くにいたゴロツキ君達の中でも最弱の二号に迫るが、そこを殆ど蟲の集合体と化している四号が間に入り、その攻撃を両腕を重ねて防ぐ。


 当然切り落とされるが、同時に飛び散った蟲の体液が飛び散る。

 同時に、四号を斬ったラファエロの剣が、じゅうっと音を立てた。


「ぬぅッ!酸か!厄介な!」


 見るからに危なそうな色をした液体をラファエロが躱すと、蟲の体液は床に落ちて嫌な音と共に床を溶かした。


 四号はもう毒蟲の群れそのものと言っても過言では無いので、欠損した身体をすぐに新たな毒蟲達で補填し、再びラファエロに襲い掛かる。


 そして、これらの攻防は僅かな瞬間であったが、その時間は闘牛の眼を持つ悪魔にとって十分な時間だった。


「RRRRmmmnnミ、コォoォオO O Oオ!!」

「いゃぁッ!」

「しまったッ!!」

「姫ェッ!!」


 俺とラファエロが叫ぶ。

 悪魔は新たに肋から生やした昆虫の脚でシャルランテを掴むと、鱗に覆われた翅を震わせて飛ぼうとする。


(よっしゃビンゴォ!)


 悪魔がシャルランテを攻撃する事なく、攫おうとしたのを見て、俺は心中で喝采の声を上げる。

 予想通りヤツはシャルランテを殺そうとしているのではなく、何らかの目的があるようだ。


「させるかっ!!」

「させないよ!」


 そこにようやく動いた光輝と凛が入り、悪魔の動きを妨害しようとする。

 だが、それをさせるわけにはいかねぇんだよな。


(《我が意に従え(アカハト・アシュハト)》)


 ゴロツキ君一号の攻撃を必死で捌いている振りをしながら、俺はその辺で悲鳴を上げている貴族共に呪いをかける。


(行け!)


 びくん、と震えて虚ろな表情を浮かべた貴族達は、俺の命令に従い、奇声を発しながら光輝達に襲い掛かる。


「何を!?」

「何何何!?」


 突然何人もの貴族達にしがみつかまれ、動けなくなる光輝と凛。

 先程まで味方側だった奴らが邪魔をしてくる事への戸惑いと、思った以上に強い力で拘束された事で、咄嗟に振り払う事が出来ない。

 いいぞ、そのまま押し潰せ。


「お前達、何をしている!早うシャルランテを助けぬか!」


 バルハタザールが喚く。

 だが、そちらの方にも俺に支配された貴族達が向かう。


「ちいいいっ!」


 執拗にラファエロを狙う貴族達。

 元の身分が身分だけに、操られているのがわかっていても手荒な真似は出来ないだろう。

 そもそもこの人が密集している部屋でラファエロは全力を出せない。

 出したらこの部屋にいる奴全員木っ端微塵だからな。それじゃ本末転倒だ。


 ちなみに全力を出せないと言う意味では莉緒も同じだ。彼女が得意とするのは広範囲に影響を及ぼす魔導。邪魔な肉壁によって、その真価は発揮されない。


 そしてセリカは、そもそも戦闘向きではない。


 というか、二人共シャルランテを助けに行こうとしていたが、周りの俺が操っていない奴等が自分を助けろと迫りその動きを止めていた。

 グッジョブ、しかし客観的に見るとお前らクソすぎだろ。


「くそおおおっ!」

(行っけえ!!)


 勇者、騎士、執事おれ

 三者三様、全員が手詰まりの状況。


 当然、飛び立つ悪魔を空中で遮る者など無く。


「いやぁッ!ハシュウ!ハシュウ!」

「姫様ッ!」


 悪魔は飛び立った。


 悪い、ちょっと誘拐されといてくれ。

 俺はそんな事を考えながら即座にシャルランテを《悪血の残滓(フラハティ・ラーカス)》で呪う。今頃俺の胸には飛び立つ鷹の刺青が浮かび上がっているだろう。


 これでシャルランテがどこへ連れて行かれようと追跡できる。


 ついでに《我が意に従え(アカハト・アシュハト)》で悪魔を呪おうとするが弾かれた。


(チッ、支配できればベストだったんだがな……そう上手くはいかねぇか)


 悪魔がシャルランテを今殺そうとしなかったからといっても、後で落ち着いた所でムシャムシャ食う気かもしれない。

 故に、ここからは迅速に動かなくてはならない。


「キチチチチチチチチ」

「くっ、そッ!」


 竜巻のように回転する双斧を避け、剣を振るも受けられる。


「そこを、退けェッ!!」


 その瞬間に、胴を渾身の力で蹴り飛ばす。

 俺の蹴りに合わせて、衝撃を殺すように毒蟲死体ゾンビワーム一号は後ろに跳んだ。


「ラファエロさん、私が追います!」

「むぅッ!」


 ラファエロに向かって叫ぶ。

 ラファエロは素早く状況を判断すると、鋭い眼光をこちらに向けて頷いた。


「団長!増援です!」


 毒蟲死体達を抑えていた騎士の一人が叫んだ。

 扉の方を見れば、外の警護をしていた騎士達が駆けつけてくる。

 その中にはアルディーンやポーラの姿も有る。


 クソが、めんどくせぇ!


(《蠱毒の壺(ペガリト・シュハ)》ァ!!)


 アイツらが合流すれば瞬く間に戦局が変わってしまう。

 今辛うじて騎士達が劣勢なのは、数が足りないからだ。


 まだ正気を保っている貴族達の護衛、狂った貴族達の捕縛、毒蟲死体の相手、国王の護衛。やる事が多過ぎる。

 いかに魔導騎士が精鋭と言えど、手は二つしかない。

 その手数を、増やすわけには行かない。


(やれッ!!)


 ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。


 不快な、悍ましさすら感じる叫び声が上がった。


 魂を呪によって磨り潰される音だ。その断末魔だ。


 周囲から上がる異様な怨嗟の声に、思わず増援の騎士達は立ち止まる。

 何故なら、その音の源は彼等のすぐ側にあったから。


 ゆらりと、悪魔に殺された無数の兵士の死体が立ち上がった。

 そして、喉が裂けんばかりに絶叫した。その口腔から深海魚の様なめしいの生き物がその身を晒し、更に威嚇する様に叫ぶ。

 膨れ上がる死体のシルエット。

 肌の下を這いずり回るおぞましき蟲ども。


 簡易“毒蟲死体ゾンビワーム”の一丁上がり、だ。


「クソが!総員、抜剣ッ!!」


 アルディーンが剣を抜き、声を上げる。


「死者を弄ぶとは、屑悪魔があああぁぁぁッ!!!」


 ポーラが激昂すると共に、扉の外でも戦いが始まった。


「行けぃ!ハシュウ!」


 それを見たラファエロは叫んだ。


「儂らもすぐく!殺れとは言わん、時間を稼げ!」

「はいッ!」


 《悪血の残滓(フラハティ・ラーカス)》が辿るべき道を示す。

 俺は走り出した。



区切りのいいところで切ったので短いです(とか言っといて区切りの良さそうなところで燃え尽きただけ汗)


なんかいいサブタイ思いつかない…

誰か良さそうなの教えて…

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