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想定外の価値

何ヶ月ぶりやねん(反省)

しかしながらこの先スローペースになる可能性は否めない(大汗)

とりあえず一章だけでも終わらせねば(滝汗)

まずは文字数を増やすか?(更なる遅滞の予感)




とりあえず直近の流れの確認を()


シャルランテ、従姉妹に会って一悶着

舞踏会が始まる(怪しい奴発見!)

シャルランテの従姉妹、舞踏会を抜け出した先で信頼していた執事に腹パンされる

イマココ

 

 宴もたけなわ。

 真暗闇に煌々と灯りが照る。


 招待客も大体が頬に赤みがさし、衛兵達の気も緩み始める頃合いである。

 最初の頃より心無し聞こえてくる声が大きくなってきている事からそれが伺えた。


 アンネマリーがミストを連れて何処かへ行ってからそこそこ時間が経っているが、未だに戻ってきていないところを見るに、計画はうまく進んでいるのだろう。


 シャルランテへの挨拶も一通り終わり、彼女は今は自分を口説きにくる男達の対応で手一杯となっていた。


 信じられるか、灯りに飛びつく蛾のように群がる男達の中には、もう四十過ぎくらいのオヤジまでいるんだぜ。

 いくら大国の一人娘、婿入りすれば絶大な権力を手に入れられるとは言え、歳を考えろよと言いたい。

 どんだけ幼女趣味、いや好色なのか。


 しかしそう言う輩に限って常識知らずというか、はっきり言ってウザ面倒臭いのだ。止めに入ろうとすれば更に厄介な事になるのは間違いない。


 権力欲と色欲が下手に入り混じった奴は、混ぜるなキケンと書かれた洗剤を混ぜてしまった時の様に面倒臭い。

 これは地球にいた頃の経験則だ。

 まぁ欲望に忠実であるというのは厄介ではあるものの、逆に付け入る隙が出来るのだが。


 具体的には美人局とかな。

 他にも色々あるが、それを此処でやるというのはどれも難しい。


 なので俺は少し離れた場所から静観、放っておくことにした。


 地球から持ち込んだ数少ない品の一つ、腕時計をちらりと見遣る。

 時計の短針は十と十一の狭間をゆっくりと動いており、そろそろ十一時に差し掛かる頃だった。


「そろそろかね」

「え?あぁ、そうですね」

「ん……ん?」


 独り言のつもりで吐いた言葉に思わず返事が来て、慌てて沈みかけた思考を現実へと引き戻すと、俺の目の前には莉緒が居た。


「あ……えっと」


 言い澱む俺を見て、莉緒は自分が早合点した事に気付き、頰を赤に染めた。


「あ、いえ、その、そろそろダンスが始まるという事を言っているのかなって」

「あぁ……」


 話しながら莉緒が見た方向に俺も視線を合わせると、いそいそと楽器を構え始める男女の姿が在った。

 何処かの楽団なのだろうか、礼服に身を包んだ彼らが持つ楽器には、地球で見たことがあるものもあれば、初めて見るような形状のものも有る。


 指揮者らしき壮年の男が指揮棒を振ると、彼らはそれに合わせて各々音を紡ぎ出してゆく。

 それぞれが粒立って聞こえる音たちが、指揮者の動きの元で一つとなり、緩やかなメロディーを生み出した。


 清廉かつ優雅なようで、どこか懐かしい音楽に、一人、また一人と手を取り合ってゆったりと踊り始めていく。


「何だか、こういうの見ると……異世界なんだって思いますね」

「そうですね……」


 しみじみと呟くような莉緒の言葉に軽く同意をしてから、少し笑う俺。

 毎日の訓練で魔導という非日常な物を使っているのにも関わらず、ダンスパーティーで異世界を実感するのも可笑しなものだと思ったからだ。


「毎日魔導を使っているのに、そっちには異世界って感じないんですね」

「あっ……言われて見ればそうですね。慣れ、なのかな」

「かもしれませんね」


 そんな会話をしながら、俺はちらりとシャルランテの方を見た。

 小さな主人は今もなお、群がるハエ供に手間取っているようなので、相手をし終えるまでまだまだ掛かるだろう。

 俺は口元に笑みを湛えた。


「どうです、宜しければ一曲。踊ってくれませんか、マドモアゼル」


 大仰な身振りで戯けて莉緒にそう言うと、彼女は少し驚いた顔をしてから、花が綻ぶように笑った。

 そして、俺の差し出した掌にそっと手を乗せる。


「はい。……喜んで」


 一曲だけ。

 一曲だけ、今は踊ろう。


 俺は笑みを深めて、歩み出した。




 曲はよくわからんがクラシックに近い旋律。


 俺は執事の嗜みとして。

 莉緒は地球にいた頃から出来たのか、俺たちは互いにつつがなくステップを踏んで踊っていた。


「そう言えば、ハシュウさんは踊れるんですね?」


 ゆったりと回りながら、莉緒はそう言う。

 俺は莉緒に合わせて動きながら返事をした。


「ええ、まあ。一人前の執事は踊りも一人前だとかで、私の教育役のメリンダ女史が教えてくれたのです」

「そうだったんですか。でも、上手ですね」

「ふふ、メリンダ女史は厳しいので随分としごかれましたよ。ですが、莉緒さんには敵いませんね。どこでダンスを?」


 莉緒は一拍おいて、口を開いた。


「実は、ラファエロさんに」

「えぇ!?」


 マジか!?あのジジイ、踊れるのかよ!?


 俺の脳裏に、ムキムキの上半身を晒したラファエロが、高笑いを上げながらステップを踏む姿がぎる。


 やべぇ、クソ面白い。


「ふふ、意外ですけど、本当ですよ?」


 目を丸くした俺を見て、莉緒が少し吹き出す。


「それは……随分と、想像し難いですね」

「それは確かに。教えて貰っておいて何ですけど、今でも夢じゃないかって思いますし」

「夢だとしたら悪夢ですけどね」

「ふふ、言い過ぎですよ」

「おっと、これは失敬」


 軽く肩を竦める。


 異世界に来てから、幾度となく莉緒達とは会話をする場面もあったが、あまり二人きりになったことは無かった。


 俺は奇妙な充足感に満たされながら、ステップを踏む。

 願わくば、この時間がもっと長く続けば良いのに。


 あぁ……クソ。どうやら、無理そうだが。


「?ハシュウさん?」


 この世界に来て呪詛を取り込んだ事により、強化された聴覚が、会場の扉の外から漏れ出たくぐもった断末魔を拾い上げる。

 莉緒に気付かれ無いように《黒刻ゾブラ》を発動すると、微かに漂う血臭が鼻についた。


 次々とくぐもった声が聞こえるが、大きな声は一度も聞こえ無い。

 どの様な方法でそれを成しているのかは謎だが、どんどん消えていく衛兵達の気配から見るに、相当な手練れだろう。


 全くの想定外。厄介だな、クソが。

 俺は眉を顰めた。


「何者かが、忍び込んで来たようですね」

「え?」


 莉緒がそう言った瞬間、バン、と扉が外から開かれた。


 あいつだ。


 俺はその姿を見て納得した。

 扉を開けた奴は、目こそ大きく見開かれていたものの、さっきまで狐のような細めをした男だった。

 それは身に纏う不快な殺気からすぐに分かった。


 殺気を矢鱈に放っていた男だ、今ここで何か()()を起こそうとしてもおかしくは無い。

 何かしようとするのは大歓迎だ。その分クソジジイが困るから。


 だが、

(問題は誰が目的か、だ)


 男はぎょろりとした目で周囲を見渡した。

 何かに焼かれたような焼け跡が肌に残っていたが、煙を出しながら再生していく。


(あれは、魔導か?いや……?)


 異様な男の様子に周囲は騒ついていたが、開いた扉から気紛れで外に出た一人の貴族が叫んだ事で、状況が動いた。


「ひぃっ!衛兵が、衛兵がこ、殺されている!!」


 それと同時に、男の眼がシャルランテを捉えた。そして、僅かに釣り上がる口端。


(──狙いはシャルランテか!!)


 動き出す男。

 その動きは、雷精の力を使った時のミストの動きにも、勝るとも劣らない。


「──チィッ!!」


 俺も《黒刻》を使って動き出す。

 男とシャルランテを結ぶ対角線上へ、体を割り込ませる形。


 初動で出遅れた俺だが、俺の方が奴よりシャルランテに近い為、このまま行けば間に合うだろう。


 流れる視界の中、即座に国王ジジイを守る体制に入る騎士ラファエロ達、人が集まったせいで動けない勇者こうき達、反応が遅れた莉緒が映る。


「其処を退けッ!!」


 闘牛が如く突っ込んでくる男が振るった短剣を、護衛用に持ち込んだ儀礼剣を鞘ごと引き抜いて受け止める。


「生憎と、執事兼護衛なのでそれは無理だな!」

「チィィ!!」


 二本目の短剣を此方に突き刺そうとしてくる男の腹に、蹴りを入れてそのまま吹き飛ばす。

 手応えがやけに軽い、後ろに飛んだのか。


 豪華な料理が並んだテーブルを壊しながら着地した男に、一拍おいて、騎士達がつめ寄ろうとする。


「殿下、私の後ろに」

「は、はい!」


 その間に俺はシャルランテを庇いながら、ちらりと玉座に目を向ける。

 ラファエロはまだ動かない。敵の数がまだ把握出来ていないからか。


 バルハタザールが、

「何をしている!早く討ち取れ!」

 と号令を上げ、それに騎士達が応える。


「邪魔を、するナァァァァッッ!!!」


 騎士に囲まれた男が、咆哮を上げて先ほど以上の凄まじいスピードで動いた。


「うぐぁっ」


 体勢を低くした男は前方に居た騎士の一人の鎧の隙間から短剣を突き刺し、怯んだ隙に間をすり抜けようとする。

 それを許さない他の騎士達が、剣を振り落としたが、その斬撃は突如男の背から盛り上がった突起によって全て弾かれた。


「なっ!?」

「コイツ、人族じゃないぞッ!!」


 男の背から、服を突き破って鱗に覆われた翅の様なものが生える。

 てらてらと光を反射し光るその翅の付け根から、猿の腕を幾重にも束ねたような怪腕が飛び出して、騎士達を跳ね飛ばした。


「あれは──悪魔!?」


「RRRRRRR!!!」


 男の顔が割れ、捲れ上がり、その中から異形が顔を出す。

 闘牛の瞳に、梟の様な頭部、食蟻獣アリクイに似た口吻。


 男──異形の悪魔はそのまま四足歩行にも似た動きで、避け損ねた不運な貴族や招待客を蹴散らしながら此方に迫ってくる。


「dォケェeeェェeェッッ!!」


 猿の何本もの腕を合わせた巨大な複合腕とも呼ぶべき腕が、俺を薙ぎ払わんと迫る。


「ハシュウさん!危ない!!」

「ハシュウ!!」


 だが同時に俺は気づく、この攻撃は、()()()()()()()()()()()()()


 即ち、この攻撃は俺の後ろにいるシャルランテには何ら影響を及ぼさない。

 シャルランテを殺す事が目的なら、俺ごとシャルランテを巻き込む攻撃をすれば良い。

 だが、それをしないのは何故だ?


 間合いが遠いから?

 いや違う、それなら更に近づけばいいだけだ。


 二人ごとまとめて殺すには威力が足りないから?そんな事は無い、オランウータンの様に隆々とした猿の腕が今も続々と背中から生えてきている。


 何も考えていない?

 あり得るかもしれない。しかしコイツは一貫して「退け」としか言っていない。何も考えない短絡的な奴なら、大体「死ね」だとか叫ぶのが普通だ。

 悪魔に人間の「普通」を適用していいかは分からないが。



 ──俺は推測する。


 コイツの狙いはシャルランテの命ではなく、その身柄だと。

 それは、推測というより直感に近いのかもしれない。


 何が目的で?何の理由で?

 疑問は無数の泡の様に、浮かびあがってはすぐに弾けていく。


(だが)


 もし、この悪魔がシャルランテを殺す事が目的でないとしたら。

 口端が上がった。


(試してみる価値はある)


 そして、そちらの方が面白そうだ。







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