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嘲笑う梟

*この話は少しアレな描写があります。苦手な方はブラウザバックをするか、飛ばし読みをして下さい。


個人的には結構マイルドな表現にしたつもりなんですが、危なそうだったら表現を変えるつもりです



2018.7/18

「半獣族」を“ビースター”から“ケルクム”へと変更しました

 □□□




 その日は、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。


 聖シエラエール王国より南東へ少し下ったところにある隣国、ラージーン王国。

 南方特有の気候を生かした食物の栽培で有名なその国は、神話の頃より綿々と続いてきた聖シエラエール王国から見れば新興国ではあるが、建国五百年以上を誇る大国である。


 毎年建国記念日に首都アルケインで行われる建国祭では、十数年ほど前に五百回目を迎え、また聖シエラエール王国からの友好の証としてバルハタザール三世の妹、つまり王妹であるヤシアーン・シエラエールが、ラージーン王国の王弟であるケアル・ラージーン公爵へと嫁いだ事が話題となり、人々を大いに賑わせた。


 蕪雑な造りではあるが、街の至る所にラーヴァーニと呼ばれる花飾りが飾られ、息を吸い込めば情緒溢れる花の香りが鼻腔をくすぐる。


 そんなラージーン王国が首都、アルケイン。

  その華やかさと溢れんばかりの活気は、聖都と呼ばれる聖シエラエール王国の王都にも負けずとも劣らない都市である。

 街を行く人々は皆南方特有の褐色の肌と、目鼻立ちのくっきりとした顔立ちで、その殆どが穏やかな性格をしている。また、他国の人間への目立った偏見も無い事から、過ごしやすいとしてこの国で余暇を楽しむ他国の貴族も多かった。


 だが、何処を見ても人々の活気と喧騒、生の営みの熱気を感じることのできるこの都市にも、例外は存在する。

 アルケイン第五区画、と呼ばれるその区域には、これでもかと言わんばかりの豪邸が立ち並んではいるものの、静謐な空気を漂わせていた。


 ここは殆どが王に仕える官僚達、つまり領地を持たない貴族達の住居として利用されている。

 立ち並ぶ豪邸の数々も、その殆どが白を基調とした建造物で、どことなく格調高い雰囲気を匂わせた。ラージーン王国の民ならばその大勢が知っている、いわゆる貴族住区クシァトリャーニだ。


 ここを基本的に人が通る事は無く、この区を往来するのは、朝晩と貴族が王城へ出勤、又は帰宅する際に家紋入りの馬車を行き来させる時くらいである。


 しかしそんな地に、珍しく馬の蹄と馬車の車輪が石畳を弾く音が響いた。

 時刻はまだ昼間。貴族の多くが城へと出払っており、貴族住区に残っている貴族の数は多くない。普段ならばこの時間帯に馬車が通るなどあり得ないだろう。


 音の主を探せば、貴族住区の目抜き通りを走る幌馬車があった。


 馬車には乗っている者の身分を示す家紋が無く、またこの国の馬車ならば必ずあると言っていいほどの、馬車を製作した工房の焼き印が無い事から、他国の馬車である事がわかる。

 御者は帽子を目深に被り、その顔立ちまではわからないものの、肌の色が白い事から少なくともラージーン王国より北方ーー直近でも聖シエラエール王国の人間である事が誰何すいかされた。


 馬車はカラコロと音を立てながら、大通りをゆっくりと進んで行く。


 馬車が行く先、この通りを抜けた先には、立ち並ぶ豪邸の中でも一際目を引くような、贅の限りを尽くした建物があった。


 鉛色の鬱々とした空の下、馬車が発する軽快な音だけが、軽やかに弾んでいた。





 貴族住区の中でも華美さでは随一を誇る邸宅の一室。

 三回建ての最上階、バルコニーに面した部屋ーーーこの家の主人であるキータ・アイシュワリヤ侯爵の寝室。


 その室内は空気が重く、せ返るような甘ったるい香りと汗の入り混じる臭い、そしてどこか嫌悪を感じる生臭い匂いが充満していた。


 部屋の至る所にラーヴァーニが飾られており、また、至る所で香が焚かれている。

 その香は恐らく、ラーヴァーニによく使われるプルメラと呼ばれる白と黄色の花から作られたものだろう。プルメラから作られた香は微弱ながら催淫効果があり、ラージーン王国の貴族達が夜の営みによく使う物だ。しかし長時間吸うと中毒症状を起こし、最悪死に至る危険性がある事から、ラージーン王国では正式には禁制、使用御法度の代物でもある。


 その香が焚きしめられた部屋の中央には、巨大なキングサイズの天蓋付きベッド。

 細やかな刺繍で繕われた天蓋の奥を覗くと、そこには絡み合うようにして蠢く肌色の肉塊があった。


 肉塊の蠕動に合わせ、ぎしぎしとベッドが軋み、そこから歪んだ、悲痛な叫び声とも取れる嬌声が漏れる。

 飢えた犬のような呼吸音が、部屋を満たす。


 その肉塊は、二人の人間で出来ていた。


 一方は、普通の人間よりも耳が長い女。首に付けられた首輪から、奴隷へと堕ちた長耳族ラルヘルである事がわかる。

 ヒトの中でも随一と称えられた美しさも、白磁に例えられるその肌も、今は醜く汚されていた。

 その瞳には既に光は無く、虚ろに天井を写すのみ。頰を流れ落ちた一筋の涙は、もう一人の人間によって舐め取られた。

 もはやその姿は、規則的に声を上げて絶望の旋律を奏でる、生ける屍でしか無い。


 もう一方は、人間と呼ぶのもおぞましい姿をしていた。

 ブクブクと肥え太ったその肢体に、濃い体毛。吹き出物でぐちゃぐちゃになったような肌の顔に、厚く腫れぼったい垂れ下がる瞼から覗く、異様な興奮を宿した小さな眼。

 長耳族の女奴隷を、芋虫の如き指でまさぐり、蛞蝓なめくじのような舌で舐め回す度に、潰れた鼻から豚のような息が漏れた。


 山間部に棲み、蛮族と蔑まれる猪鬼族オルクや、猿鬼族ガブリンの中でも、その男以上に醜い者はいないだろう。

 その男こそ、この館の主。

 キータ・アイシュワリヤ侯爵であった。


 キータが一頻ひとしき長耳族ラルヘルもてあそび、一息吐いた辺りで、部屋のドアがノックされた。


「旦那様、ダーナで御座います」


 扉の方からキータの執事の声がすると、その体格に似合わない、やけに甲高い声でキータは言った。


「入れ」

「失礼致します」


 扉が開き、そこより燕尾服に身を包んだ初老の男が入って来た。キータの執事を務める彼の名を、ダーナ・ケーヴァラと言った。

 ダーナは様々な臭いが入り混じりった、悪臭とも呼べる匂いがする部屋に入っても眉一つ動かさなかった。


「旦那様、お客様が来ております」

「誰だ?」


 キータはダーナと会話をしながら、横に寝ていた放心状態の長耳族ラルヘルの女の頭を、髪を掴んで持ち上げて自らの股間に当てがった。

 女は苦痛そうにくぐもった声を上げたが、キータが女の頭を更に力を込めて固定すると、大人しくなった。


「“嘲笑あざわらう梟”の御方です。御届け物があるとか」

「ぶひゃぁ!そうか!」


 ダーナの言葉に、キータはそれまでとは打って変わって顔に喜びを滲ませる。醜い顔は、さらに醜悪に歪められたが、この場にそれを言う愚か者は居ない。


「あの女がケアルに嫁いだお陰で、王族の力が強まり最近は中々取り寄せるのに苦労したが、ようやくか!ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!」


「この頃はコレにも飽きて来たのだ」と言ってキータが視線を下にやる。

 長耳族の女は息が出来ないのか、必死でキータから離れようとするが、キータはそれを許さない。

 ろくに運動もしていないキータの腕力などたかが知れているが、弱った非力な長耳族ラルヘルにはそれで十分だったようで、次第に女の抵抗が大きくなっていくが、キータの腕が外れることは無い。


「噛むなよ?ぐふふふ」


 これは命令だ、と続けて、キータは豚の如く下品に笑った。


 キータが言っている「あの女」というのは、聖シエラエール王国現国王、バルハタザール三世の妹のヤシアーンの事だ。

 ヤシアーンがラージーン王国の王弟であるケアル公に嫁いだ事で、今まで均衡を保っていた王族と貴族とのパワーバランスは大きく王族へと傾いた。

 ヤシアーンが王族に嫁いだという事は、バックにあの太古より続く大国シエラエールがついたという事に等しいのだから、当然の結果である。


 しかしそれで困るのは今までやりたい放題やって来た貴族達だ。勿論、キータもその中の一員。むしろ筆頭格だ。

 今までは黙認されていた事も、ヤシアーンが王家に入ってからは取締りの目が厳しくなり、出来る事はどんどんと減っていった。


 特にキータが影響を受けたのは、国王の人身売買禁止令だ。無論そこには、奴隷売買も含まれる。

 その内容は、奴隷を市場で売り買いするのでは無く、市場に流さず王家で一括管理する、と言うものだった。

 アイシュワリヤ侯爵家は代々続く奴隷売買で成り上がって来た家系であり、国王の提示したその法律はアイシュワリヤ侯爵家の金庫に眠る数多の金貨を吐き出させた。

 突然過ぎるその発令に、膨大な市場を保持していたアイシュワリヤ家も大打撃を受け、事業の規模を縮小せざるを得なくなった。その落差たるや凄まじく、キータの全盛期の頃と比べて、儲けは百分の一まで落ち込んだほどだ。


 そのような事もあって王家憎し、ヤシアーン憎しであったキータだが、十三年前にヤシアーンが出産による体調悪化で命を落とした事で、多少は溜飲を下げていた。

 しかしヤシアーンが出産した事で、生まれた子によって聖シエラエール王国との繋がりが未だ絶たれてはいない事だけは不満であったが。


 そして、キータは最近とある組織と契約を結ぶ事になった。

 それが裏ギルド“嘲笑う梟”だ。


(数日前に向こうが此方に接触して来た時は、笑いが止まらなかったわ。ぶひゃひゃひゃひゃ)


 “嘲笑う梟”はその拠点を聖都に置く、人身売買から暗殺まで何でもやる犯罪組織だ。

 何でも、“嘲笑う梟”をアイシュワリヤ侯爵家の専属御用達にして欲しいと言ってきた。専属御用達とは、こちらの依頼を何でもこなす代わりに、こちらが依頼する組織をそこだけに決める契約を結ぶ、と言う事だ。

 本来の御用達ならば、高い位の人間に御用達であると喧伝して貰うことで組織の名声を高めるのだが、裏ギルドなので、当然大っぴらにする事は無い。


 人身売買禁止令が出たせいで懇意にしていた奴隷商人と疎遠になっていたアイシュワリヤ家にとって、その申し出は渡に船だった訳だ。なぜなら裏ギルドを使えば、そう簡単に足を掴まれる事も無く、奴隷を集める事ができるからだ。

 当然非合法ではあるが、キータにとってはそんな事はどうでもいい。大事なのは金が集まる事なのだ。金さえあれば何をしたとしても許されると、キータは考えていた。


(ぐふぅ、元はと言えば王が悪いのだ。このワタシから富を奪おうとするから、裏ギルドなどという物が紛れ込む。聖シエラエール王国の力を取り込んだつもりかもしれないが、その闇まで引き入れてしまったことは全く愚かとしか言いようが無い。馬鹿な王家め、恨むなら自分を恨むのだ。ぐひゃひゃ)


 “嘲笑う梟”との付き合いは浅いが、契約を結ぶに当たって此方は条件を出した。ダーナの言う「御届け物」とは恐らくその事であろう。


「ダーナ」

「はい、旦那様」

「ぐふぅ、一刻ほど待って貰うように言っておけ。ワタシは湯浴みを済ませてくる」

「御心のままに」

「ぶふぅ」


 右手を左胸に当てて頭を下げるダーナに、満足そうにキータは鼻を鳴らし、立ち上がった。


「あぁ、旦那様。そちらのモノはいかが致しましょうか?」


 扉を出ようとするキータの背後から、ダーナの声が掛かる。キータが振り向くと、ダーナはベッドの方を指した。


 そこには涎を垂らし、ピクリとも動かない長耳族の女奴隷がいた。その胸は、先程から一度も動いておらず、その瞳は瞳孔が開き切り黒く濁っていた。


 キータはニヤリと笑って、


「あぁ、犬の餌にでもするか、棄てておけ。ワタシと違って、代わりはいくらでもいるのだからな。ぐひゃひゃひゃ!」


 と言った。





 支度を整えたキータがダーナを伴って扉を開けると、応接間には四人の人間が居た。

 内一人だけが、用意されている仕立ての良いソファーに座って居た。他の三人はその人物の後ろに立ってキータを待っている。その三人の中には、御者の様な格好をしている者もいた。


「さて。お待たせしたかな?ぶふぅ」

「いえ。高名なアイシュワリヤ侯爵に拝謁叶った事、このマハ。光栄の極みに御座います」


 キータが声を掛けると、ソファーに腰掛けていた男が立ち上がって右拳を左胸に当て、そして左手で右拳を包むような仕草を取った。

 これはラージーン王国の一般的な敬礼の動作だ。これに、キータは気を良くする。


「ぶふぅ、楽にして貰って構わぬ」

「ははっ!」


 男ーーマハは頭を下げ、キータがソファーに座った後に座る。


 そこで改めて、キータは目の前のマハという男を見回した。

 マハは頭部を目とその周りを除いて全て覆うような頭巾を被っており、服装はゆったりとした生地の、独特な意匠の物だった。

 キータがマハを男としたのはその声が低く、体格ががっしりとしているからだ。ゆったりとした服のせいで分かりづらいが、マハが立ち上がった時はキータより頭三つ分ほど背が高かった。


 そして、何よりマハという男を形容するのはその目だ。極限まで見開かれたような大きな眼は血走っており、今にも暴れ出しそうな猛牛の瞳にも見えた。


「……ぶふぅ、まずは自己紹介と行こうか。ワタシはキータ・アイシュワリヤ侯爵だ」

わたくしは闇ギルド、“嘲笑う梟”を治めております、マハと申します。この度は専属御用達の件で参上つかまつりました」


 濁っているような、人を不安にさせるような声で、マハが丁寧に答える。

 その瞳には何の感情も宿しておらず、瞬き一つない。キータは理由はわからないが、ゾッとするような寒気を感じた。


「う、うむ。して、届け物というのは……?」

「あぁ、それならこちらに。……おい、連れてこい」


 マハが後ろを向き、立っていた御者の様な格好の男に声を掛けると、その男は隣に立っていた二人の人間をマハの方へと押しやった。

 その二人はマハや、御者の男と比べても背が低く、あどけなさを残す顔立ちをしていた。


 明らかに十歳かそこらの少女だ。

 二人の少女は、キータを見てその整った顔を恐怖に歪めた。怯えからくる震えだろうか、その首に付けられた無骨な首輪がカタカタと震えた。

 彼女達の頭の上には、へたりと萎れた獣の耳があった。


「おぉ……おお!素晴らしい、素晴らしいぞ!想像以上だ!ぶふぅ!!」

半獣族ケルクムで御座います。勿論二人共、処女で御座いますよ」

「おぉ…おぉ……ぐふふ、それは素晴らしい」


 キータは二人の半獣族の少女をめ付ける。

 生まれて初めて晒される、欲の混じった悪意に、少女達は己の行く先を想像して身を震わせた。


「調教はしておらんようだな」


 キータはいやらしい顔で言った。

 ざらついた舌が、醜く歪んだ唇を舐める。


「ははっ!申し訳ございません」

「いや……良い。この方が長く楽しめる。全くマハ殿……良い仕事をするな、ぐぶふふふ」

「有り難き幸せに御座います……して、契約の方は?」

「ぶふぅ、この仕事振りならばむしろ此方からお願いしたいくらいだ」

「ははっ!有り難う御座います」


 契約するにあたり、キータがマハに与えた条件とは、一週間以内に己が満足できるような奴隷を見つけてくる事。

 そして、マハが連れて来た奴隷はキータのお眼鏡に叶った。

 目の前の少女達はどこからどう見ても何処いずこからかかどわかされたようにしか見えなかったが、キータにとってはそのような事はどうでも良かった。


「では契約成立という事で……よろしいですか?」

「うむ」


 マハが懐から二枚の羊皮紙でできた契約書を取り出す。

 差し出されたそれをダーナが受け取って確認し、キータに手渡す。

 キータはちらりと紙面を確認した後、二枚共に羽根ペンでそれにサインをし、小さなナイフで軽く指を切り、滲んだ血を押し付けた。


 本来ならば契約書には家紋入りの印を押すのが常識だったが、相手は裏組織。こういう時は血判で契約書を作成するのが慣例だった。


 キータがマハに二枚の羊皮紙を渡すと、マハをそれを確認して、小さく頷いた。


「では、これで契約完了という事で……此方が控えになります」

「うむ。ダーナ」

「は」


 マハが差し出した契約書を、キータは顎をしゃくってダーナに受け取らせた。

 その視線は先程からずっと、二人の哀れな少女へと向けられている。口の端から涎が垂れ、肉に埋もれて無くなった顎を通り抜けた。


「旦那様、例の件は」

「ふひ?あ、あぁ……分かっておる」


 ダーナの助言によってほんの少し理性を取り戻したキータは、知らぬ間に流れていた涎を袖で拭い、マハに向き直った。

 尊大に胸を張り、太い指で顎を撫でるが、今更威厳を出そうとしても無駄である。己の主人の醜態に、流石のダーナも苦笑した。


「ぶふぅ……さて、マハ殿よ。早速だが一つ、依頼を頼みたい」

「依頼、ですか?」

「うむ」


 鷹揚に頷いたキータがダーナに合図をすると、事前に用意してあったのか、ダーナは大きな袋を取り出してテーブルの上に置いた。


「前金でラージーン金貨三百枚。依頼を達成すれば後七百枚を追加しよう」

「なんと」


 マハの後ろに立つ御者が息を飲んだ。

 合計で金貨千枚。

 それはこの国の貴族ですら数年は遊んで暮らせる金額だ。平民の一年過ごすのに必要な金が金貨六十枚前後である事から、その金額の凄まじさがわかる。


 だが裏を返せばその依頼には金貨千枚分の価値がある、もしくは危険性を伴うという事だ。

 犯罪組織の長ならば、その事に気がつかないはずがない。もしかしたら安全面を考えて断られるかもしれない、とキータは思った。


 しかしマハは、顔色を一切変えずに即答した。


「わかりました。受けさせていただきましょう」

「おぉ、受けてくれるか」


 キータは、瞬き一つせず平坦な口調で返答したマハにやや不気味な物を抱いたが、それ以上にマハが頼もしく見えた。


「勿論ですとも……して、その依頼とは?」


 マハの質問に、キータは勿体振るように咳払いをする。

 そして、何かを企むような表情で、ゆっくりと言った。


「ある娘を、攫ってきてほしいのだ」




余談ですが、「キータ・アイシュワリヤ 」を直訳すると「這う虫・権力者」、

「ダーナ・ケーヴァラ」を直訳すると「与える事・ただそれだけ」となります。

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