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魔導のアレコレ

むう、もしかしたら後で直すかも

ちょっと短いです

□□□




朝。

俺は最近の生活サイクルにも慣れ、誰に起こされるとも無く目を覚ました。


「ふぁ〜〜ぁ」


欠伸をしながら大きく伸びると、ポキポキと音がする。


俺はベッドからのそのそと這い出た。基本的に俺の寝起きはいい方なんだが、眠いものはやはり眠い。最近は夜も出歩いている分、睡眠時間が短くなるのは如何ともし難い。


手際良く身支度を整え、目覚めの紅茶を淹れる。地球にいた頃はコーヒー派だったが、この世界に来てからはモーニングティーが基本だ。俺自身、既にコーヒーよりも紅茶の方が好きになって来ている。俺も異世界にかぶれて来たのかもしれねぇな。


好きこそものの上手なれとことわざでも言うが、どうやら俺は紅茶に関する才能は執事業の中でも飛び抜けていたようで、シャルランテを始めとする王族や執政官達の飲む紅茶の茶葉の選別まで任されている。ぶっちゃけどこそこの茶葉があぁだこうだと論じる事は出来ないが、まぁ味は分かるという訳だ。


ちなみに今日の紅茶は色は少し暗め、茶葉は少し小さめ。香りも良いんだが、それよりも深い味わいが特徴の紅茶だ。

少し濃い目に淹れたので、飲むとシャキッとする気がする。


さて、今日も執事業おもりを始めますか。




時が流れるのは思った以上に早いもので、気付けば掃除やら何やら、午前中の座学をすっ飛ばして実践授業へ。ちなみに今日はメリンダ婆さんが居なかったので掃除はチャチャッと済ませる事が出来た。あの婆さん三日に一度は大聖殿ここに来るからな。ちゃんと引退しとけよ…。


座学は座学でこの国の歴史やらこの世界の常識を学ぶ。歴史って言っても今の所政治体制とかだけど。高校かっつーんだ。


次はラファエロとの訓練という訳で、いつもの中庭兼訓練場へ向かう。この国の兵士達が使っている練兵場は他にもあるらしいが、勇者や俺といった異世界人達と合同でやる事は今の所無いようだ。その理由が俺達が兵士のレベルを大きく逸脱しているからか、それともまだレベルが届いて居ないのからなのかはわからんが。


まぁラファエロがあれだけ強いんだ、ラファエロの直属である魔導騎士団は恐らく今の勇者よりは強いだろう。いつもあの化け物(ラファエロとばかり模擬戦をしているから、自分がどれだけ強くなったか実感し難いぜ…。


やたらと長い廊下を曲がると、ばったりと凛に出会った。


「あ、ハシュー!」


「ハシュ言うな」


「あう」


駆け寄ってくる凛の脳天にチョップを入れる。やべぇ、つい素の口調が出ちまった。

そこそこ痛かったようで、凛は頭を抑えて少し涙目になった。


「うぅ…痛いよ!ハシュ!」


「これくらい避けられない凛が悪いんです。武聖の勇者なんですよね?」


「むぅー」


膨れる凛を他所に、視線を感じたのでそちらを見ると、廊下の柱に隠れるようにしてこちらを見ているセリカが居た。


「彼女は何してるんですかね…」


溜息混じりに凛に問い掛けると、凛はさも可笑しそうに言った。


「セリカはねー、ハシュの事警戒してるんだよ!キケンなオトコなんだってー!あはは!」


「何ですかそれ……」


戸惑いの表情を浮かべたまま、再びセリカの方を見ると、じーっとこちらを凝視するセリカと目が合う。

この女…猫被ってる俺の本性に気付いてんのかわからんが、もしかしたら危険かもな。場合によっては、消す事も視野に入れておくか。


そんな事を考えながらしばらく見つめ合っていると、威嚇された。猫か。


凛達と一緒に歩きながら雑談する。会話の大体が凛の話だが。大体莉緒のパンツがどうだったとかセリカのパンツが何色とか嬉しそうに語るなよ…中年オヤジか。

ちなみに凛がセリカの今日のパンツの色の話をしようとしていたらセリカに逆襲されていた。ぼっこぼこだった。武聖なのに大丈夫か…クソ面白かったが。


「で、何処にむかってるんですか?中庭は反対方向ですけど…?」


中庭へ向かおうとしたら、半ば強引に逆方向へと連れて行かれたので付いてきた訳だが。

抵抗しようと思えばできたが、彼女達の俺を引っ張ろうとする時の腕にあたる魅惑の感触に逆らえなかった。もちろんその感触がする器官の持ち主はセリカであって凛では無い。凛は絶壁だ。魅惑の感触がするどころか、あばらの感触がして痛い。てかセリカ、お前警戒してるんじゃなかったのか…大変心地ようございました。ありがとう。なんつって。


「リオの部屋だよー。多分コーキもそこにいるしねぇ」


「えーと…彼らの交際を私が邪魔する訳には…」


「違うのです。二人は幼馴染で光輝は莉緒の事が好きなのですが、光輝は中々告白しないチキン野郎なので、まだ付き合っていないのです」


ふんす、と胸を張るセリカ。おぉ、ぶるんぶるん動いてすげぇな。

俺はバレないように視界の端に捉えるやり方でチラ見した。


「中々キツい言葉ですね…」


「あはは、セリカは毒舌だから」


「凛が言うな、です」


取り留めの無い会話をしていると、莉緒の部屋の前まで付いた。早速凛が呼び鈴を鳴らす。呼び鈴は横に糸が垂れていて、それを引くと鈴の音が鳴る仕組みの物だ。


「たのもー!」


頼もうってお前、どこの時代劇だよ…水戸黄門の見過ぎだろ。

中で人の動く気配がして、ドアが開いた。


「頼もうって、何処の時代劇の人よ……って、ハシュウさん!?」


中から動きやすそうな服装をした、莉緒が出て来た。おう、同じ事考えてたみたいだな。

こちらを見て少し驚く莉緒の横から、光輝が顔を出した。


「あ、ハシュウさん、こんにちは」


「えぇ、こんにちは。すいません、凛に連れて来られまして…」


「ああ…」


少し不満気な顔をしていたが、俺が凛のせいだと言うと納得した顔をする光輝。

俺は不満気な顔するんだったらとっとと告白しろよ、とは思ったが、口には出さなかった。


「と、とりあえず中へ入って下さい」


そう莉緒に勧められて、俺は凛とセリカに背中を押されながら、部屋に入る。


凛に引っ張られるままにソファに座っていると、莉緒が紅茶を出してくれた。

おうおう、このソファ俺の部屋のより二段階も三段階も高級ですね。特に手触りと座り心地が最高です。クソ、羨ましくなんて無いんだからね!ジジイ殺す!


「お、この紅茶美味しいですね」


茶葉は朝に俺が選んだ奴だったが、中々美味い。

俺がそう言うと莉緒は照れたように指で自分の髪を梳いた。莉緒の髪型はいつの間にか、ポニーテールを解いたものに変わっていた。うん、やっぱ可愛いわこいつ。


「ありがとうございます、執事もしているハシュウさんにそう言って貰えると……嬉しいです」


「いえいえ」


俺は華麗に光輝の嫉妬混じりの視線を無視スルー

おい、凛とセリカ(そこ、ニヤニヤするんじゃない。




「そう言えば、凛とセリカは何の用なの?」


俺達が雑談に興じていると、ふと光輝が思い出したように凛に聞いた。

凛は出されたお菓子を頬張りながら言った。


「えっとねー、みんなラファエロさんの訓練行くんだし、折角なら全員揃って行きたいと思って!」


「え」


げっ。忘れてた。


その場に居た皆が動きを止める中、凛はにへらっと笑って言った。


「でももう十分の遅刻だね!」


「「「「それを早く言えええ!!」」」」


俺達は部屋を飛び出して走った。

が、健闘むなしく、中庭に着いたのはそれからさらに十分後の事だった。




中庭に着くと、そこには血管をピクピク言わせた巨躯の壮年が立って居た。言わずもがな、ラファエロだ。ラファエロは木の大剣を地面へ十センチほどめりこませ、腕組みをしたまま仁王立ちで俺達を迎えた。


やべぇ、威圧感がハンパねぇ。アメコミみたいに目が落ち窪んで陰になっているのが余計に怖い。

俺達は恐る恐る近寄った。


「ぬ、来たか…」


ラファエロが静かに目を開いた。オイ、目ぇ閉じてたのかよ。分かり辛いな。


「遅刻してすいません!」


莉緒を始めとして、俺達が遅刻した事を謝ると、ラファエロは快活に笑って言った。


「うむ、詫びる事ができるのはいい事じゃ。例え勇者と言えどもその行動の全てが許される訳ではないからの。しかし、時間に遅れるという事は時として命に関わることもある。それだけはしかと肝に命じておくがよい……まぁ、今回は儂の睡眠時間が増えただけじゃがのう」


何だかんだいい事を言っているが、亜音速でその大剣を振り回すのはやめて欲しいぜ。額に浮き出た血管と、遂には音速を超えた素振りーー衝撃波ソニックウェーブが出ていたーーが、次は許さないと言うラファエロの本音を物語っていた。


「ひ、ひええ、なのです」


結構マジでビビっているセリカ。

俺はそんなセリカの胸に夢中だった。マジでけぇ。めっちゃ揺れとる。




「さて、今日はそろそろ魔導についても訓練を始めたいと思うぞ」


気を取り直して、ラファエロは手に持つ大剣を肩に掛けながら声を張り上げた。

おぉ、待ってました。やっぱり人間一度は魔法を使ってみたいもんなぁ。

他の面々も同じ事を思っていたようで、特に凛は目を輝かせていた。


「……よし。まずは基礎的な知識から行くかの。はじめに、魔導とは己の中にある魔力を引き出し利用して現象を起こす技術の事じゃ。魔力は誰にでも宿っており、この自然界にも満ち溢れておる。しかし、それを扱えるかどうかは個人の適性にかかっておるのじゃ。」


「……」


魔力って何だよ、と思わないでもないが、それをいちいち言うとキリが無さそうだったので俺は黙っておくことにした。


「そして、魔導は属性というものに分けられる。それは火、風、土、水の四大属性に加え、光、闇の二大属性、最後に特殊な属性であることわり属性の、合わせて七つじゃ」


ここまではいいかの、と見回すラファエロ。

俺達が頷くと、ラファエロは再び話し始めた。


「基本的に魔導は一人につき一属性しか扱えぬ。とは言え、これは単純に魔導への適性が低い者が殆どだからじゃ。当然、魔導適性が高い者は、二属性、三属性と扱える者もおる」


ちらりと莉緒を見るラファエロ。莉緒は賢者の勇者だからな。当然適性は高いだろう。

そんなラファエロに凛が質問をした。


「はいはい!先生!」


「何じゃ、凛よ」


「適性ってどうやったらわかるの?あと、属性って、使いたい属性が使えるの?」


首を傾げる凛に、ラファエロは好々爺然とした笑みで返した。


「いい質問じゃ。まずは属性から話をしようかの。魔導の属性じゃが、使えるものは個人の素養に依存する。つまり、生まれた時から使える魔導の属性は決まっているのじゃ。お主達のような場合でも、な」


「へー」


「次に適性じゃの。適性の高い低いは、この国の者なら誰もが通る道ーーこの『適性板』で測れるのじゃ」


「すごーい!」


ラファエロが得意げに、どこからともなくぬっと国語辞典ほどの大きさと分厚さの板を取り出す。その板には幾何学的な模様が刻まれていた。おそらくアレも、シャルランテの部屋の給湯器と同じ様な魔道具だろう。

凛が手を叩いて喜ぶ。本当に高校生か?ガキかよ……まぁ、こいつがいるおかげでラファエロの説明がサクサク進むんだが。


「ここの、中央の円の模様の中に血を一滴垂らすと、そこから血の持ち主の適合属性でできた光球が飛び出してくると言うわけじゃな」


ラファエロが適性版の紋様を指差す。確かにそこには円状に模様が刻まれた部分があった。


「血、なのですか…」


セリカが心配そうな表情をした。恐らくは出血に伴う痛みについて心配しているのだろう。

ラファエロが笑う。


「安心せい。この円に指を押し当てれば自動で血がほんの少しだけ吸われるようにできておる。痛みは全く無いぞ」


「そ、そうなのです…?」


適性版の親切設計に、少し安心するセリカ。

ほんの少し前までは平和ボケした高校生だった訳で、痛みへの耐性の無さやら、傷への心配する気持ちは分からなくはないが、これから勇者として魔王と闘う勇者がそんなんで大丈夫なのかね。


「はいはい、まずは私がやる!」


「良いぞ」


早速凛が適性版に指を押し当てると、適性版は僅かに発光し、そして凛の指を押しのけるようにして、黄色のサッカーボールほどの大きさの光の球と、それよりも一回り小さい赤色の球を吐き出した。


「おぉー!」


「うむ、凛は土属性、火属性が適性属性のようじゃな。ちなみに放出される球の大きさで、その人間がどれほどその属性に素養があるのかわかる。凛は火よりも土が得意なようじゃな。それに、これほどの大きさならば、威力の高い魔導も使えるようになるじゃろう」


「やったね!」


喜ぶ凛が光球に触れようとすると、光球は霧のように消えていった。


「ありゃりゃ」


どうやら光球は触れると消える仕組みになっているようだ。原理はわからん。


「よし、次は僕がやるよ」


光輝が適性板に触れる。

すると、ゆっくりと、白色に発光するバランスボールほどの大きさの光球が出てきた。


「おぉ……流石は聖剣の勇者じゃの。光輝は適合属性が光のみではあるが、素養は高位神官ですら比べ物にならないようじゃのお」


「コーキ、一属性しかないの?ププッ」


「ま、負けた……けど、大きさでは勝ってるし!」


「何をー!」


「何やってんのよ凛…」


「やれやれ、なのです」


じゃれ合う二人を他所に、セリカも適性板に触れた。すると、光輝よりはやや小さめの白い光球と、凛のものより大きい青と緑の球が飛び出した。


「ほう、光に水に風……どれも癒しの効果を持つ魔導属性じゃの」


「ふっふっふ、三属性なのです」


光輝と凛の方を向いてブイピース。セリカの勝ち誇った表情を前に、二人は悔しそうな顔をした。

先程まで血を流す事に心配していたくせに、調子よく胸を張るセリカ。うん、何がとは言わないが本当にありがとう。

セリカを目の保養にしていると、莉緒が適性板に触れた。


「むぅっ」


それと同時にラファエロが声を漏らす。

適性板から、光輝の時と同じか、それをほんの少し下回る大きさの光球が飛び出す。その数、六つ。

赤、青、緑、黄、白、黒。六色の光が踊り、空間を幻想的に彩る。


「賢者の勇者……莉緒よ、文句無しの、六大属性全適性じゃ」


「えっと…どうも?」


「……すごぉ」


「さすがなのです」


唖然とする凛に、自分のことの様に自慢気なセリカ。

オイオイ、この後に、勇者でも無い俺がやるのか……気が滅入るな。


「ふむ、最後はお前か」


「期待はしないで下さいよ?」


「ふはは、吐かせ」


軽口を叩いて俺が適性板に触れると、そこからやや薄めの青い球が浮かび上がった。大きさは占い師がよく持っているような水晶玉ほどのサイズ。

『審判の宝珠』の時とは違って、反応はしてくれて良かった。


「水属性か。しっかし、ショボいのぉ」


「だから期待はしないで下さいって言ったんですよ」


俺は苦笑交じりに言った。

ついでに凛がショボいショボい言うので軽くデコピンをお見舞いしてやった。


「まぁいわ……うむ、六大属性は出尽くしたから、残る最後の一つ、理属性を見せてやろう」


「ことわり…?」


凛が首を傾げた。その隣にいるセリカと莉緒も、光輝も不思議そうだ。かく言う俺もそうだが。なんだよ、ことわりって。お断りってか?


「摂理という意味で、ことわりじゃ。この魔導は少し特別での。適性は関係ないのじゃ」


見ておれ、と言って、ラファエロは地面に突き立てていた木剣を抜いた。

そして、それを片手で握り上段から振り下ろす。


「フン!!」


剣が振られた後、ラファエロから十メートルほど離れた地面が、まるで巨大な獣によって刻まれた爪痕の様に、深々と抉られていた。


「極限まで何かを極めようとする者は、いずれこの世の摂理を超越し、新たな理を体現する。例えば儂が剣を振れば、その閃きは何処までも、何もかもを切り裂く。そういう風になっておる。そういう風に出来ておる。故に理。故に摂理。この魔導は、新たな理を体現した者に、世界がその理を認めたという証よ」


うん、何を言っているかはよくわからんがこのジジイが化け物だという事はよく分かった。

つまり何だ?このジジイは剣術を極め過ぎて、それが一つの魔導の属性として世界に認識されたって事か?はぁ、それどこのファンタジーだよ……いや、ここか。


「しっかし、勇者は才能があっていい……。いつか儂より強くなったらと思うと……滾るのぉ」


「は、はぁ……」


ラファエロはなぜか上機嫌そうだ。嬉しそうに上着をはだけさせ始める。


オイオイ、こんな所で何いきなり脱ぎ始めてんだよ………うん?何でそんなに筋肉が盛り上がって来てるの?ゴリのアサルトモードにそっくりなんだけど……ヤバい、何か嫌な予感がする。


「うむ、滾る、滾る、滾ってきたぞィァァァァ!!!」


ラファエロの目が光り始める。空気がびりびりと震え始めた。ラファエロの手に持つ木剣がびゅんびゅんと大気を切り裂き、次第に加速していく。


ほらやっぱりなぁ!嫌な予感的中だよ!


「模擬戦じゃぁぁぁぁ!!!お前達、かかってこいぃいいぃぃぃ!!!!」


辺りを縦横無尽に剣風の嵐が吹き荒ぶ。

クソ、魔導の訓練するんじゃなかったのかよ!!


「うおおおああ!!」



その日、俺達はヘトヘトになるまで戦い続けた。

明記してませんが、黒は闇属性です

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