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執事の一日を覗いてみましょう①

プロローグようやくおわった…


9/23 最初の戦闘描写を少し増やしました


時は巡る。


大聖殿に天高く屹立する時計塔、正式名称“天詠みの時計塔アルプーハ・スクリトォー”は俺がこの世界に現れた時から数えて三十二回目の時計の短針のサイクルを終え、今そのカウントの数を一つ増やそうとしていた。


そして、その時計塔の下。

そこに広がる大聖殿の中庭、絶えず木と木をを打つような音がするその広場に、俺はいた。


「よっ、とっ、はっ!」


「ッい!」


目の前を小柄な短髪の女ーー真島凛が通り抜け、そして前方に向かって抉りこむように掌底を放つ。

俺はその後方より凛の後を終わんとするように、手に持つ木剣を全力で振った。


「フン!!温ぃわァッ!!」


そして、凛と俺が攻撃を仕掛けた対象ーー筋骨隆々とした体躯を誇る男は低い声を雷のように轟かせて、凛の掌底を真っ向より左掌で相殺すると、右手の幅広の巨大な木剣を振り回した。

俺の斬撃はその大剣によって弾かれ、一際甲高い音を上げる。

さらに男は一歩踏み込み、俺と凛の両方を斬る軌道でその大剣を振った。


俺は一歩後ろへ退がり、凛は身を低く沈ませることでこれを回避する。


「せあっ!」


低い体勢のまま凛が男の脚を刈るように回し蹴りを放つ。


「ぬう!」


しかし男は脚を開き、自ら一歩踏み出すことで蹴りの威力を相殺、いや、むしろ打ち勝ち、凛の体勢を崩す。


「フンァッッ!!!」


そして上段から両手で握った大剣を振り下ろす。

その威力はいかに木剣といえど、生身の人間を殺すことなど容易く行えるほどのもの。

だが凛はゴロゴロと横に転がるようにして何とか避ける。


ナイス回避だ、男は剣を完全に振り下ろしており、即座にまた剣を振り上げることは難しいはず。

やるなら、今!!


タイミングを見計らっていた俺は、男に対応させる時間を与えないために現状最も出の速い攻撃ーー刺突を、全力で男の心臓目掛けて放つ。


「ふはは!甘いッッ!!」


だがその突きが男の胸に到達するより速く、奴は堅牢な筋肉で包まれた、丸太のようなその太脚で俺の木剣を握る手を蹴り上げた。


「ぐっ!?」


しっかりと握っていたため木剣を取り落としはしなかったものの、あり得ないほどの蹴撃の威力に木剣を握る腕ごと木剣を上へと跳ねあげられる。

体勢が泳ぐ俺、明確な隙をこの男が見逃す筈も無かった。


「ぬぅあああッッ!!!」


男は獰猛に叫び、大剣を横薙ぎに振り超速の一閃を放つ。

だが、その描かれる筈の斬閃の軌跡上に、凛もいる。


「嘘っ!?」

「っぉおおお!!?」


俺は即座に、自分の木剣が男を打つよりその男の振る大剣が先に俺…いや、凛に到達し、そして凛はこれを避けられないと判断。腕を引き戻して男と凛の間に飛び込み、木剣の腹でその剛撃を受ける。


だが男は構わず大剣を振り抜いた。

俺は受け止め切れずに、庇った凛ごと吹き飛ばされる。


「ッか、ご…!?」


こんのクソが、どんな筋力だッ!!

人間二人が、五メートルは吹き飛ばされたぞ!

ゴロゴロと転がり、広場の端まで来てようやく勢いが止まり、即座に起き上がる。


「ごめん、回避ミスった!」


「気にしないで下さい!」


同じく転がって起き上がった凛が声を飛ばしてくる。

俺はそれに返答する。

あぁクソ、敬語面倒くせぇ!!


「フハハ!魔導シエラもいくぞィッ!!」


クソ、マジかよ!?

男が抜刀術にも似た、後ろに大剣を引き絞る動作をする。


「其は剣線が紡ぐ理!“剣線スラッシュ”ゥァッ!!」


詠唱と同時に振られた大剣の剣先から、空気を切り裂く音と共に不可視の斬撃が飛んで来る。

目の前に何かが迫って来ていることを肌で感じ、男の振った斬撃からおおよその位置を把握して俺はそれを回避する。


「はぁぁぁ!!」


俺と同様に男の魔導を回避した凛が気合いを放ちながら、距離を詰め、裏拳を真上から振り下ろすようにして素早く打ち込む。


「軽い軽いィッ!!」


それを難なく左手で掴んだ男は、そのまま凛を俺の方は投げ飛ばして来る。

その速度は驚くほど速く、男の筋力の異常性を改めて認識する。


「うおお!?」


ヤバい、ここで回避するのは俺の作ったキャラ的にマズいが、受け止めきれるとも思えねぇぞ!?

そんな思考の迷いが身体の硬直に繋がり、一瞬だけ俺の動きが止まる。


ーーーあ、ヤベ


「ぐはっ」


そして俺は凛と激突して、吹き飛ばされた。


それとほぼ時を同じくして、時計塔から正午を示す鐘の音が鳴り響いた。




□□□




「ハッハッハァ!お前達も勇者とは言え、まだまだだのぉ!」


「……私は勇者じゃないんですがね」


背中をバシバシと痛いくらいに叩かれながら俺は愚痴るようにして呟いた。

時刻は午後三時。

間に昼休憩もあったが、かれこれ五時間以上は木刀を手に戦っていた事になる。


「フハハ!異世界から来た英雄に変わりはないわ!それに、お前のセンスは中々どうして、勇者共とも引けを取らんわぃ!姫様の御付きでなかったら、ウチに欲しいくらいじゃ!」


俺と会話している男ーー先程の男な訳だが、ソイツが豪快に笑った。


男は白髪の混じる短髪を後ろに撫で付け、白髭を生やしたダンディな壮年の風貌をしていたが、その眼光は鋭く、鍛え抜かれた巨軀と相まって、野生的な印象を受ける。


ーーこの壮年こそが、聖シエラエール王国が誇る魔導騎士団シエラセリヒターが団長、国王から“大将軍ハル・セリハス”の称号を与えられた、名実共にこの国最強の存在。

ラファエロ・セリハス・ハルバニストリア。

従軍してから、数々の伝説的な武功を立ち上げた、王国の生ける伝説。

その中には一人で戦争の敵兵全てを殺したという眉唾なものもあるが、俺ですら信じてしまいそうになるほど、この男は底が知れない。


以前この男に気づかれない様に遠くから呪詛《我が意に従えアカハト・アシュハト》等他幾つかの呪詛を掛けようとしたが、簡単に弾かれたことがあった。

というか本人は呪いを弾いた事さえ気づいていなかった。

《我が意に従え》は中々便利な呪詛だったが、ラファエロのお陰で、相手が強過ぎて自分と実力差があり過ぎる場合は呪いを掛けられないという事がわかったくらいだ。


この国を相手取って滅亡させることを決めた俺な訳だが、最後にネックとなるのがこの男の存在だろう。

初めて会ったのは王との謁見の時。

王の両隣にいた男達の内、武官のような服装をしていたのがラファエロだ。


ちなみに文官の方、ガルハリィドは宰相だった。


「…これほどまでに姫様に感謝したのは初めてですよ」


「ハッハッハッ、言うではないか!」


いやもうホントに。

こんな鬼ジジイに毎日朝から晩まで死ぬまでしごかれるなんて言う地獄を味合わなくて済むからな。


ラファエロの言う姫様とは当然、この国の王女シャルランテの事だ。


この国に魔王の尖兵、悪魔リゴラがその存在を初めて知らしめた日。

あの日、あの俺の誓いから、俺はシャルランテやバルハタザールによってシャルランテの御付きーーいわゆる執事となる事になった。


そして執事とはいえ、護衛も兼ねているので、勇者達と同じ様に訓練を受けているわけだ。

そのおかげで、勇者達とも結構仲良くなっている。


「では、私はこの後用事がありますので」


「うむ。儂は此奴らをもっとしごくとでもしようかの」


その一言で辺りからくぐもった悲鳴があがる。

俺が地面を見遣るとそこには莉緒、凛、セリカ、光輝が立ち上がれないほど疲れた様に突っ伏していた。


「ハシュー…タフすぎるよ……」


「凛の体力が無さすぎるんですよ」


あと伸ばし棒にすんな。ハシュウだかんな。


「なら私の体力はマイナスなのですよ……」


「私も……」


美人が疲れて倒れ伏してるのも結構いいかもなぁ。汗ばむうなじとか、結構俺好きなんだよな。


「…僕も体力マイナスです」


お前は黙ってろ。男に用はねぇ。

まあ言わないけどさ。

俺は取り敢えず励ます振りをした。


「光輝、気合いですよ」


「ハッハッハ、主らひ弱じゃのう。そんなんでは魔王どころか、儂にも勝てんぞ?」


「………ハハ……」


オイオイ、まずジジイに勝てるビジョンが浮かばねぇよ。

魔王くらいこのジジイ一人でたおせるんじゃねぇの?

俺は苦笑した後、ラファエロに一礼してその場を去る事にした。


「あ、ハシュウ。言い忘れていたが、力で勝るならば良いが、劣る時は攻撃を受け止めるのではなく反らす方が良い。先程もそうだったが、力頼みでは限界が来るぞ」


………あんたがそれを言うのか。クソ面白ぇな。


「……わかりました。肝に命じておきます」


「うむ。精進するが良い」


俺は今度こそ踵を返し、中庭から出て歩き始めた。


「……勇者を凌ぐスタミナと、センスの良さ……うむ、やはりウチに欲しいな」


ジジイの呟きなんて、俺は聞こえてないからな!

聞こえてたとしても、絶対行かねぇからな!


俺は心なしか歩く速度を上げた。


厨房に寄って、料理人から色とりどりの菓子やスコーン、ケーキなどが盛り付けられたハイティースタンドやら何やらを受け取り、台車に乗せてそれらを運ぶ。


そして俺は廊下に出る。


「………」


俺が召喚されてからニ週間が過ぎ、そろそろ慣れてきたとは思ったんだが、やっぱこの廊下デカすぎだろ…。

壁に刻まれた彫刻やら飾られている美術品など、見る人が見れば好奇心が尽きないこの大聖殿の回廊も、俺から見ればただ無駄にでかいだけ。


退屈からこみ上げる欠伸を噛み殺して、ただひたすらに足を前へ運ぶ。


途中ですれ違う神官共や、俺の仕事仲間とも言えるメイドやら使用人共に軽く会釈する。


そして歩く事数分。

ようやく俺は大聖殿の中でも上位にランクインするであろうデカさの扉の前に辿り着いた。


ここが俺の目的地。

俺の主人であるシャルランテの部屋である。


俺は扉を三回ノックする。

それと同時に口角を上げ、微笑みの形を作る。


「姫様、ハシュウで御座います」


とたとたとたという小さく扉へ駆け寄る様な音がして、扉が開いた。


「どうぞ」


シャルランテが、此方を見上げてそう言った。

紫苑色の瞳が、潤むように揺れる。

流れる水のような柔らかさの艶ある銀髪が、嬉しそうに跳ねた。

うーん、やっぱ将来有望だな。

あと五歳歳をとっていたら、本格的に狙っていたかもってレベルだ。


「姫様、何も姫様御自ら御出でにならなくてもよろしいのですよ」


「ハシュウ、それは違います。貴方は私を護ってくれる騎士なのですよ?礼節を尽くすのは当然のことです」


「私はあくまで執事なのですが……」


「私にとっては騎士です」


「そんな、恐れ多いですよ」


ふふふ、と笑うシャルランテに促され、俺は室内に入る。

部屋の内装は当然絢爛華麗、勇者達に与えられた部屋に劣らず、寧ろ華美さで言えばこちらが勝る。


何故俺が勇者の部屋の内装を知っているのかというと、掃除したことがあるからだ。


シャルランテの部屋は豪華ではあったが、所々にぬいぐるみなどが置かれており、年相応の愛らしさを感じることができた。


「今お茶を淹れますので、どこかにお座りになってお待ちください」


「いいえハシュウ。貴方にそんなことをさせるわけには…」


「姫様。これも執事の仕事なのです」


このニ週間、と言っても最初の三日を除いてずっとこの会話を繰り返している。

もはや俺とシャルランテにとってはお決まりの文句だ。

そのやりとりが可笑しくて、ついつい二人で小さく笑うところまでがルーティンワーク。


俺は台車に乗せていたティーセットを取り出した。

ちなみに此処へ来て最初の三日間で執事としての技能は完璧に覚えた。

俺の習得の速さに口うるさい教育係のババアも驚いていたくらいだ。

まあ俺にかかれば茶を淹れるなどということは朝飯前なのだ。

茶といっても紅茶だが。


俺は給湯器……というのかは知らんが、魔導の技術がなんちゃらこうちゃらでお湯をずっと温かくしておける道具を見遣り、その後シャルランテの方をちらりと見る。

シャルランテはぬいぐるみを抱き抱えてソファーに座っており、その姿は童話の一場面のようなファンシーさを放っていた。


微笑ましい光景に俺はふっと笑い、気を取り直した。

さて、紅茶を淹れますか。













ながくなりそうだったので分割しましたー

茶をしばく

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