ヒョロガリは顔面が可哀想なことになっている
すいません…
主人公クズが苦手な方は読まない方がいいです。
異世界に行くまでもうちょいかかります。
都会、コンクリートジャングル、人が密集しすぎたせいで感情が欠落したみたいな、そんな場所。
そこのクソ暑い熱帯夜をどう過ごすか考えながら、俺は熱帯魚みたいにゆらゆらと立っていた。
「はは、今日は諭吉二枚だけかよ?」
そう言って、俺の隣に立ってる、アロハシャツの下に黒いタンクトップを着た金髪ドレッドヘアが、目の前で縮こまっている奴の肩を殴る。
金髪ドレッドは軽く小突いたつもりなんだろうが、殴られた奴はヒョッロヒョロのガリガリなので、よろめく。
ワックスで必要以上に形を整えた髪型が顔面に最高に似合ってないそのヒョロガリは、最近の俺らの玩具だ。
「仕方ねぇから諭吉の代わりに今日は肩パン百発だなオイ!?」
金髪ドレッドがアロハシャツを脱ぎ、鍛え上げた筋肉を見せつけるようなポーズをする。
終いにはドラミングし始め、それと盛り上がった筋肉とが合わさってゴリラにしか見えない。
「おいおい、やめとけって」
俺はそれを見て笑いながら言う。
ぶっちゃけ感情は篭ってないし、このヒョロガリを庇ってるわけでもない。
取り敢えず言っておくだけだ。
そうすると後でもし問題になっても「俺は止めた」って言えるしな。
そしたら大体一番最初に俺が釈放される。経験上な。
「へへ、百発は疲れるから千発にしとくぜ」
「オイ、逆に増えてんぞ」
「あれ?百って千よりデカくなかったっけ?」
首をかしげる金髪ドレッド。
此奴はなんかすんげぇ馬鹿だけどすんげぇ馬鹿だから何となく仲良くしてる奴だ。
見てて面白い。
「ぅぅ」
金髪ドレッドがまたドラミングし始めたので爆笑していると、呻き声が聞こえた。
音がした方を見ると、ヒョロガリがしきりに殴られた肩を摩っていた。
「あ?どうしたの?肩いてぇの?」
俺はニコニコ笑ってヒョロガリに近寄る。
ぶっちゃけニコニコしてたらその辺の馬鹿女がピョコピョコ寄ってくるくらいには俺はイケメンだ。
柔和な笑顔を一時期目指してたからな。
ぶっちゃけ金髪ドレッドと一緒にいるから柔和な笑顔してても不良にしか見えないけど。
その俺の笑顔を見て、安心したのか、ヒョロガリは喋り出した。
「あ、あの!こんなこと、もう、やめて下さい…!」
「あ"?」
金髪ドレッドが凄む。
「ひぃ!?」
俺は逸る金髪ドレッドを抑えて、笑顔を崩さずに言った。
「君さあ、俺らに借金してたよね?後三十万払ってくれないとさ、俺らも困るんだわ。一日に一割利子ついてくっからさ、今日の利子分だけでもあと一万。払ってくれる?」
「そ、そんな…借金なんて!ぼ、僕は借金なんてしてない!」
そこで俺はようやく笑顔をやめて、左手を持ち上げた。
その左手にはギプスがガチガチに固められている。
「お前、馬鹿か?手術代の三十万だろうが。てめぇが俺の骨折ったくせに金払えねぇとか抜かすから、取り敢えず立て替えて待ってやってんだ」
「か、かるく肩を押しただけじゃないか…!」
震えるヒョロガリの顔が歪む。
それを見た金髪ドレッドが、ヒョロガリの首を掴んで言った。
「あのなぁ?ハシュは病弱なんだよ。だからすぐ骨とか折れちまうわけよ。わかる?なぁ?オイ?」
「首はやめとけってゴリ。……まぁ、言ってることは間違いないけどよ」
金髪ドレッドの名前は五里 力。
最初ゴリカって読めてめっちゃ面白かった。
まあ普通にゴリラだからゴリって呼んでるだけだけど。
俺の名前は橋生 輪道。
ゴリからはハシュと呼ばれている。
ヒョロガリの名前は…まぁ、最初から知らないけど。
なんかいい女がいたからナンパしようとしたらヒョロガリが止めに入って来て、なんだ女の彼氏か?とか思ってたら全然違ったって言う可哀想な馬鹿。
女庇ってる間に当の女は彼氏来て一緒にどっか行ったし、それに気付かなくて俺のこと押したせいで俺らに絡まれる羽目になった愛すべき馬鹿。
くっそ面白いけど。
「ぼ、僕は間違ってない、間違ってないんだぁ!」
なんかヒョロガリが叫び出したな。
折角回想してたのに。
それにしてもあの女めっちゃ可愛かったなぁ。
このヒョロガリがいなかったら拉致くらいは出来てたかもな。
「あれ、思い出したらメッチャ腹立って来た」
「お?お?ハシュ久々にキレてんの?」
「うっせ」
ここは深夜の路地裏だ。
深夜っつってもアホみたいにネオンの光が眩しいし、人も行き交ってるけど、ここは監視カメラがない。
まあそう言う場所選んだ訳だけどね。
左手のギプスを思いっきり壁にブチ当てる。
その衝撃でギプスが割れ、中の俺の左手がこんばんはって言った。あ、比喩表現な。隠喩隠喩。
「ひっ」
ヒョロガリがビビる。
鼻水さっきから出ててキモい。
ちなみに俺は全然痛がってない。
まあギプスで軽く壁に穴開けても全然痛がってないのは当然、元々骨折とかしてないからね。
「お前さ、最近彼女できたらしいじゃん?」
あんまりビビらせると小便漏らしそうで逆に怖かったので、柔和な笑顔を再び。
「ぇ、あ、え?」
よく話が分かってないのか戸惑いを隠せないヒョロガリ。
「何だっけ。同支社大学の二回生の稲瀬美希ちゃんだっけ?巨乳だよねぇ」
あんま顔可愛くないけど。
つーか前逆ナンされそうになったからゴリのこと好きなんでって言ってホモの振りして逃げようとおもったらビーエルとか言い出して興奮し始めてマジ引いた。
キモかった。
高校のクラスメイトのデブの女で、一人称が「俺」、あだ名がドスコイのブス思い出してサブイボでたもんね。
なんかそいつもビーエル?とか言うのが好きって言ってた。マジないわ。
まあそんな巨乳ブスの話を俺が何で態々ヒョロガリに言うのかと言うと。
「なんかさぁ、俺の先輩にめっちゃヤバい人がいるんだけどさぁ、その先輩が稲瀬美希のことレイプする計画立ててる訳よ。でさ、俺はヒョロガリくんとは仲良いと思ってたから必死でその先輩のこと止めてた訳よ」
ヒョロガリを絶望させたいからです、まる。
「けどさぁ、ヒョロガリくんがそーゆー態度とるとさぁ、俺繊細だからその先輩のこと止める気力無くなっちゃうかもなんだよねぇ」
「……ぅ、ぁあ」
「ヒュー、ハシュは繊細だからなァ、シャーねぇな」
ゴリを見たらダブルバイセップスしてた。
しかも態々乳首見せてた。
馬鹿だろコイツ、ダブルパイセップスじゃねぇぞ。
くっそ面白い。
堪えきれず爆笑してると、いつのまにかヒョロガリが土下座していた。
「ず、ずいまぜんでじだぁ!み、みぎにだげは、みぎにだげは手をださないでくだざいぃ!」
涙が鼻水か分からんけど声聞き取りづらいしメッチャ顔面キモい。
その癖髪はワックスで決めてるからね、コイツ。
くっそ面白い。
しかもエアリーだよ。青リンゴクセェんだよ安物が!
まあ俺も青リンゴたまに使うけど。
「はは、意味わかんねぇんだけど。俺らがやる訳じゃねぇし。なぁ?」
ゴリラがダブルパイセップスをやめて言った。
ゴリラの癖にまともなこと言ったなコイツ。
二年ぶりかよ。
「まぁ、あくまで先輩の話だから。あの人法螺吹きだしガチでやるかはわかんないからね。…前科あるらしいけど」
「ぞぞ、ぞんなぁ、ぁぁぅう」
ヒョロガリは絶望したみたいな顔をした。
いいね。それが見たかったんだよ。
人間が絶望してるところを横で見てると、俺は生きてるって感じがするんだよね。
「ぅぅうう、ああああああ!!」
するとヒョロガリが叫び出した。
そして背負っていた肩掛けバッグから、刃渡り十センチほどの果物ナイフを取り出す。
「おいおいおい、マジかよ」
やっぱコイツ馬鹿だな。
俺はゴリに俺がやるというジェスチャーをする。
ゴリはニヤッと頷いて即座に俺から距離をとる。
「あああああああ!」
一対一の状況下、相手はナイフ所持、こちらは無手。
つまり。
「正当防衛成立するんだよね」
俺はヒョロガリの顔面にーーーもともと汚ねぇ顔面をさらに醜くしてやるためーーー右拳を撃ち込んだ。
ギョリッ、と軟骨を噛み砕いた時のような音がして、ヒョロガリが白眼を向いて倒れた。
その顔面は下半分が大きく歪んでいる。
鼻は砕け、前歯は折れ、若干顎も砕けている。
鼻狙いでもあったが、本命は人体急所の人中。
中指の第二関節を軽く突き出すような形の拳の握り方で小突いてやれば、ヒョロガリくらいなら即座に落ちる。
「とりあえずナイフもってる写真撮っておくか」
「おう。俺動画撮ってたぜ」
「馬鹿、動画まで撮ってたら逆に用意しすぎて怪しまれんだよ」
「成る程、ハシュ頭いいな」
「ゴリは考えなさすぎだろ」
ヒョロガリの写真撮って、ついでに服ひん剥いて全裸写真も撮っておく。
そんで全裸のまま放置。
まあ夏だし寒さで死ぬとかいうことはないだろ。
日本の警察は優秀だからすぐ発見されると思うし。
ついでに俺は用意していた注射器ーー老人が使うようなほとんど痛みのしないタイプのものにもっていた酒を入れて、ヒョロガリの血管に注入しておいた。
これで警察も酔っ払いだと思うだろ。
まあ俺の所まで来てもなんとかなるからな。
最初止めたし。
「お、ハシュこいつ諭吉まだ二枚隠し持ってんぞ」
「おう、だけどほっとけ。勝手にパクるのはまずいからな」
「了解、了解」
ゴリはまたダブルバイセップスのポーズを取る。
だから乳首出すなって。
くっそ面白いじゃねぇか。
俺は爆笑しながら、ゴリと夜の街に消えていった。
家に帰る頃には、既に空が白んで来ていた。
主人公の容姿、年齢はその内描写します。