結婚
愛結美の結婚準備が進む中、嬉しいニュースが舞い込んで来た。
【愛結美に追い付いたよー!私も結婚しまぁす♪ (#^ー°)v】
七菜子からの突然のメールに、愛結美は声をあげて喜んだ。
こうなったら、二人のやる事はひとつ。
まず、お互いの婚約者同士を何度も引き合わせ、仲良くさせた。
婚約者たちは、最初こそ嫌がっていたが、それぞれいい友達になって行った。
愛結美と七菜子のペースで次々にあちこち連れて行かれ、それもまたいい思い出だと割り切った男二人は、まるで10代の頃に戻ったように楽しそうな妻候補たちを、微笑ましく思っていた。
『あんな顔見た事なかったなぁ…』
『一緒にいると、あいつら若返るな』
はしゃぐ二人を見ながら、そんな会話がされているとは、愛結美も七菜子も気付いていなかった。
そして、いよいよ結婚披露宴。
そこには、花嫁も花婿も二人ずついた。
その分お金もかかり、招待客も多かったが、合同結婚式と云う珍しいやり方を、皆楽しんでいるようだった。
お色直しでは、七菜子は宝石のような深紅のドレス、愛結美は海のように真っ青なカクテルドレスを着て、それぞれが女神のように美しい。
でも、七菜子が慕っていた高校時代の教師がスピーチを始めると、二人の晴れやかな表情が一変した。
この教師は当時学年主任で、愛結美と七菜子を一番よく見ていた教師でもあった。
『七菜子さんは明るくて、いつも先生!先生!と、私の所に来ては、勉強の話よりも、恋の相談やら、友達の話やらをしていました。
愛結美さんは、いつも本を読んでいた印象が強く、私が薦めた本もちゃんと読んで感想を云ってくれたり、時には、ちょっと議論をしたりもしてましたね…』
二人の花嫁は、教師の話に頬をほんのりと赤く染めて微笑んでいた。
『お二人は、ずっと巡り会わないだろう環境にいたのに、いつの間にか、とても仲良くなっていたのを覚えています。私の目には、二人がどんどん変わって行く姿が、ちゃんと映っていましたよ…七菜子さんは、本を沢山読むようになって、自分の事や他人の事を、真剣に考えられるようになりましたね…愛結美さんは明るくなって、みんなに囲まれて生き生きと笑う姿が眩しいかったのを覚えています』
愛結美と七菜子は、堪え切れない涙をそっと手で隠し、それを見た二人の花婿が、テーブルの下からスッとハンカチを差し出した。
『七菜子さん、愛結美さん、お二人の絆は、今でも途切れる事なく、続いていたんですね…一教師として、今そこにいるお二人の姿は、あなた方が高校生だった時よりも、輝いて見えます。卒業すると、どんなに仲の良い友達とも、それっきりになってしまうものですが、愛情と友情は、結局は同じ方向を向いています。互いを愛するように、あなた方を妻にしようと決めてくれたその人を、妻として、一人の女性として、大切にして生きて下さい。
友情を長続きさせると云う、素晴らしい事が出来たお二人ですから、必ず出来ると、先生は信じています。いつまでも、支え合い与え合って、お幸せに』
教師のスピーチが終わると、花嫁たちは、目を真っ赤にさせて拍手していた。
司会者が、愛結美と七菜子が書いた両親への手紙を読みあげ、会場全体が涙に包まれての花束の贈呈。
涙を流しながら、花束を互いの両親に渡した愛結美と七菜子だったが、二人の脳裏には、これまでのお互いの事が渦巻いていた。
愛結美がいたから、強く生きられた…
七菜子がいたから、人を愛する事が出来た…
離れていても、気持ちは通じているような気がして、会いたかった…
愛結美は、『我慢しないで泣いてもいいんだよ』と、云ってくれた卒業式の日を思い出し、七菜子は、婚約破棄になった日の夜に、知らせを聞いて突然訪ねて来て、何も云わずにずっと一緒にいてくれた日の事を思い出していた。
あの時七菜子がいてくれたから…
あの時愛結美がいてくれたから…
そんな気持ちが涙となって溢れ、それを止める事が困難になっている事に気付いていた二人は、花束贈呈の後の拍手の中、嘔咽を漏らしながらどちらからともなく、引き寄せられるようにしっかりと抱き合って号泣していた。
『七菜子…ありがとう…』
『愛結美…大好きだよ…』
そんな二人の姿が、より一層みんなの涙を誘い、新郎たちでさえ、黙って目と鼻を赤くさせていた。
披露宴が終わった二人は、控室で互いのブーケを交換し、それぞれ二次会に出掛けた。
七菜子は、愛結美のブーケを箱に入れ、寝室に暫く飾っていたし、愛結美も、七菜子のブーケを箱に入れたまま、何年も玄関に飾っていた。
ブーケを見る度に、お互いを思い出す。
意識の中で、それがただのインテリアになってしまっても、その中には親友の涙と笑顔が染み込んでいる。
交換したブーケは、夫婦が永遠の愛を誓った結婚指輪のように、二人にとって、永遠の友情を暗黙の内に誓い合った大切な宝物。
二人の絆の証だった。