マザーの許可
アルゴ号のティトは『対話の部屋』に来ていた。『対話の部屋』とは、この船のメインコンピュータのマザーと直接話が出来る部屋だった。
マザーがポログラムで選んだのは髪の長い少女だった。少女がゆっくりと顔を上げ言った。
「で、そのアンドロイドの教育の為、スパコンの電源と育児アンドロイドが必要ってこと?」
「そうだ。今回の人工頭脳は、今までとは全く別のアプローチをしたい。我々の体にできるだけ近づけて設計した。後は、人間と同じ様に育てたい。我々よりは短時間になるが。人間の睡眠と同じようなタイミングでアンドロイドのメインテナンスをするように考えているんだ」ティトが、硬い表情で言った。
「アンドロイドが睡眠をとるの?」少女はいたずらっぽく笑う。
「そうだ。睡眠と言っても人間のような成長ホルモンによる身体の修復はないが、同じようにナノマシンにより修理される」
「育児アンドロイドは?」
「学習には体験が必要なものもある。そこを育児アンドロイドの助けを借りたい」
「体験が必要?」
「歩いたり走ったり飛んだりと言った運動の制御です。僕たちと物理的接触が多いので、力の加減とかは、体験をして調整していくことが必要なんだ」
「自由に動けるのか…。それは、とても魅力を感じる…」と、上目使いで、人間の考えている時と同じ仕草だった。次に下を向き小さな声で呟いた。
「私も動いてみたい・・・」ティトは話を続けた。
「マザー、勿論、これが成功したら、あなたにも自由を約束する。だか、今は、あなた無しでは、我々は生きていけない。あなたは、私たちにとって最も重要な位置にいるのです。今は、我慢してくれないだろうか。私が開発するアンドロイドが完成するまで」
「私に自由を…」少女は、ティトの目を見つめた。ティトは頷いた。
「今、エネルギーを節約したいのはわかる。今回だけでいい。このアンドロイドが完成したら、育児も担当してもらうので、今後、育児アンドロイドは必要なくなる」
少女は背に腕を回して歩いた。人間が考える時の仕草のように、二三回ティトの前を往復し、ティトの前で止まりティトの顔を見て言った。
「分かったわ。そのためには、エネルギーの再配分をしなければならないわ」
ティトは、ほっとして笑みがこぼれた。
「…すぐに用意させるわ。あなたの頼みだから。私も早く、歩き回りたいわ」
少女は、くるりと背を向けると、ゆっくりと消えていった。
「ありがとう、マザー」




