夢
ケンとレナは、百個の通信電波捕獲網装置を整備し、第一弾を発射した。
通信電波捕獲網装置は、パイオニア号の周りにぐるりと配置され、稼働時には、パイオニア号のあらゆる通信ができなくなる。通信による脱出も出来なくなるだろう。
通信電波捕獲網装置は、岩のように、カモフラージュされていた。
「これが最後ね」レナが額の汗を拭いていた。
「ああ、また、明日、百個だ。じゃぁ、また、明日」と、ケン。
「おやすみ」レナが、手を振る。
ケンは、『旅立ちの部屋』や『旅立ちの儀式』のことが、頭から離れなかった。ずーと考えていた。
ケンは、自分の部屋に戻ると、転がるようにベッドに横になり、あっと言う間に眠りに落ちた。
部屋の奥は、あの重々しいカプセルがあった。その横には生命維持カプセルが二台置かれていた。
少し視野がぼけている。右手に握っていたモノをルークに投げた。ルークはそれを受け取ると耳の横にあるコネクタに差し込んだ。
「…これをつくるのですか?」
「ああ、九○パーセント出来ている」
「あとは、組み立てと動作確認だけさ」
ビービービー。
アラームが鳴った。アラームは1台の生命維持カプセルからだった。生命維持カプセルの計器を確認し窓を覗いた。そこには品の良い女性の顔があった。
「アウラをこいつに移す。手伝ってくれ」ルークに目で合図した。
ルークは、生命維持カプセルからアウラをそっと抱き上げ、あの重々しいカプセルに移した。
アウラの顔を撫ぜた。額、眉毛、目、鼻、唇を指でなぞった。
私は限りない愛しさで胸が一杯になった。私は泣いていた。
「アウラ、聞こえる?」私は、アウラの耳元で囁くような優しい声で言った。
「…きこえる」小さな力のない声だった。
「とても、疲れたわ。眠ってもいい。いつか、また会いましょう。ティト…」
「ああ、わかった…」私は手で顔を覆った。
私はスイッチを押した。ブーンというモーター音をたて、カプセルの蓋が閉まった。
そして、モニターに映る脳波計や心電図を確認していた。
アウラの意識はすでに無くなっていた。
私はキーをポンと叩くと、ソファーに深々と腰かけた。
『実行します』アナンスが聞こえる。
『カプセルを解放します』カプセルのねじ式蓋がゆっくりと回転した。
『生体ナンバー○三七五○。生体記録を開始します。カプセルを密閉します』
蓋がゆっくりと回転し、蓋が閉まった。モニターには心電図と脳波が刻々と表示されていた。
ピーピーピー。
『心臓停止』
『脳波が止まりました。生体ナンバー0387、生体記録を終了します』
『受精卵を解凍します。生体ナンバー0388、生体記録を開始します』
「ルーク、アウラの生体記録のコピーを取ってくれないか?それと、アウラの教育プログラムと検索参照履歴も追加してくれ」
視界がぼやけていく、目の前が白くなる…。身体が沈んでいく、下へ、下へ、限りなく下へ…。




