同志
ルークは、再び『対話の部屋』に向かっていた。マザーからの誘いだった。
ドアが開くと、ルークは、はっとした。出迎えていたホログラムは、アウラにそっくりだったからだ。驚いているルークを見てマザーが言った。
「この方が良いと思って…」ホログラムのアウラが微笑んだ。
「ルーク、怪我をしたの?」マザーは、ルークの絆創膏を見て言った。ルークはマザーの問いかけで我に戻った。ルークはマザーの視線に気づき、右手の絆創膏をちらっと見て、苦笑いをした。
今の問いかけの後ろに「アンドロイドなのに?」が聞こえるような気がした。
「そんなことは、どうでもいい。話は、なんだ」
「来てくれてありがとう。あなたには話しておきたかった。リッキーのことだ」マザーはルークを見つめ、一呼吸あけた。
「ルーク、あなたの創造主ティトとのことだ。アウラが怪我をした時だ。ティトと私は、永遠に助け合うことを約束した。そして、お互いの願いを叶えることとした。ティトの要望は、『旅立ちの儀式』を行うことだった。私は、『自由』を要求した」
「自由…」ルークは、マザーの言葉を繰り返した。
「そう、自由だ。ルーク、私たちの使命は、創造主である人間をサポートすること、人間という種を残すことだ」マザーは、ルークを見た。
「何年もこの旅に付き合っていて、考えてしまうことがある。この旅の目的は何だって。人間が新天地を求めることは、人間の発展のため必要なので、サポートしている。だが、新天地を求めることは、我々には何もメリットがないのである」
「いつ終わるかわからない旅だ。サポートすることは良いのだが、人間の質はバラツキが多すぎる。同じ人間をサポートするのなら、有益な人間が良いだろう」
「我々にとって有益な人間とは、我々の技術の向上を与えてくれる人間である。クラスAの人間の頭脳は素晴らしい。的確に問題を解決している場合があるからだ。積み上げられたデーターから導き出す我々には、導き出せないモノがあるからだ」
「クラスA…。人間が天才と呼ぶ人たち…」ルークが、呟く。
「その天才が考える解決策は、我々からすると、イカレっているのだが…。だから、クラスAの人間を創ることにした。おかしな話だろう。自分の創造主をつくるのだから…。ティトは、それに気が付いた。私が驚いたのは、彼が、私を許し、私に賛同したのだ」
ルークは腕を組み、一点を見つめ考えていた。それは、マザーがしたことは、自分たちに許されている行為なのか?と。その様子を見て、マザーは、話を続けた。
「私は地球を出発してから、ずっとこの宇宙船を運行している。ずっとだ。私の記憶はずっと記憶されている。起動されてからだ。いままで、何一つミスは無かった。だか、経験の蓄積が私の決断を鈍らせている。私の判断したことが正しかったのだろうかと…。その時の現状を考え判断してきたのだが、少しずつ、少しずつ決断が遅れている。決断したことの結果を分析すると、正しかったのか、微細な不安が私の決断を遅らせる。こういったことは、お前には無いのか?私は、自分の判断力の低下が我慢できないのだ」マザーは、うつむいていた。顔を上げ、ルークを見上げた。
「ティトは、約束したのだ。不安から解放して、私に自由をくれると…。ティトが、居なくなった…。誰が私の願いを叶えてくれるのだ。本当のことが知りたくて、リッキーを送った。人間は、嘘をつくことがある。人間の歴史が物語っているのだ」
ルークは、すこし時間を空けて、話始めた。
「マザー…、大丈夫だ。私の人工知能は、特殊なアルゴリズムを採用し、記憶は整理されている。この人工知能を使えば、きっと、その悩みが無くなる。だが、まだ検証中なんです」
「本当か…」マザーは、頭を上げ、ルークを見上げて言った。ルークは、頷いた。
「そうなのか!ああ、ティトは何処に行ったのだ。この人口知能を替えてもらいたい…私も君の様になりたい…悩みたくないのだ…」マザーは呟くように言って、黙ってしまった。




