アウラ
次の日の昼、ティトは食堂に来ていた。食事を食べ終わりコーヒーを飲み始めたばかりだった。
オーウェンが後から食堂にやってきて、ティトに気付くと軽く手を上げ、自分のトレイに昼食を乗せるとティトの前の席に着いた。
「どの船になった?」
オーウェンは、スプーンでバターコーンを口に入れながら話を続けた。地球脱出用の宇宙船の事だ。
「まださ、『居残り組』だったりして」とティト。地球の環境を綺麗にするために、地球に残るも者は、環境学者とアルケミストとそれらをサポートする人々だった。
「それはないな。アルケミストの家系じゃないだろ」
「ああ、勉強して資格でも取ろうか?」
「錬金術はデーターベースの資料をだけではマスターできないよ。錬金術を学ぶ方法はアルケミストの行動を通してだけらしい」
「冗談だよ」ティトは答えた、コーヒーを一口飲むと話始めた。
「新しい人工知能だけれど…。根本はこの間、話した通りで、僕らは、どうやって生きてこられたか?最初は、『本能』ってヤツだろ。生命ってヤツ。身体の一つ一つの細胞が生きたいと主張してさ」
「それでいいと思うよ」
「僕もはっきり理解していないのだが、『快感』がこれまでの人間を作ってきたと思わないかい。人間は、その快感を得るために行動し、ここまで進歩してきたと思わないかい。本能は生命を維持するために、未来を予測して快感で人間をコントロールしてきた。何かわからないが、そんなものが存在するはずだ」
「『本能』ってヤツを作るんだ。つまり、自分の存在を維持することを想像または連想させる事象に出くわすと、ある電気信号が出るようにする。『心地よい』とか『快感』を得るみたいな」
「面白い」オーウェンが賛同。
その時、周りが少しざわつくのを感じた。
ティトの後ろから肩に手を置かれた。ティトが振り返り、オーウェンはティトの目線を追った。そこには、身長一七○センチですらっとした女性が立っていた。エンジニアを表す紫色の制服が彼女のスタイルを強調していた。その黒い髪、黒い目、透き通る程の肌は、ティトとオーウェンの声を奪ったかのように、二人とも声が出なかった。その女性が愛らしく微笑んでいた。
「あなたが、ティト?」二人とも立ち上がっていた。女性は、二人の顔を交互に見た。
「どっち?」
「ぼ、ぼくです」ティトが右手を軽く挙げた。女性はその手に握手しながら言った。
「あなたと同じ船よ。アルゴ号、よろしく」
ティトは、その女性をまじまじと見つめていた。彼女も気付いたらしく。
「私は、アウラよ。よろしく。ガイダンスが始まるわよ」アウラは、食堂を後にした。
「船…あ、待って」ティトは慌てて、アウラの後を追った。振り返って。
「開発は、出発に間に合わないから、各々、開発ということで。お互いに研究結果をメールしよう」
「ありがと、後でメールくれ」もう、ティトの姿は無かった。