二十年後
すでに、宇宙艇衝突から、二十年の歳月が流れていた。
アルゴ号は、パイオニア号と距離を置き、並行して航行していた。アルゴ号は、スペース・ジャンクの塊と化して、パイオニア号を監視していた。反撃の時を待って…。
パイオニア号は、近づいてくる宇宙船をことごとく吸収し、大型化しより派手なアミューズメント施設のような船になっていた。
アルゴ号では、パイオニア号の行動を細かに分析し、その対策を検討していた。その結果を考慮し、マザーとルークも対パイオニア号用の『アルゴⅡ』を開発し、テスト段階に入っていた。
変わったことは、アウラとティトは既に他界し、代わりに二人の天才がスタッフに加わっていた。
レナは、アウラが亡くなってすぐに生まれた女の子で、アウラと同じ天才エンジニアだった。ティトはレナをとても可愛がっていたが、アウラを思い出してしまい、何日も部屋に閉じこもってしまうこともあった。ティトは、アウラへの想いが強すぎて、五年後に他界してしまった。その時、生まれたのがケンだった。繊細な男の子で、ティトと同じ天才科学者としてスタッフに加わった。
レナは、十九歳を迎え、ケンは、一七歳になったばかりだか、天才と評価されていた。
マザーは、対パイオニア号戦では、自分の分身である『アバターロボ』が必須であると考えていた。
ある時、『アバターロボ』の部品を探しに、船体回りのスペース・ジャンクを探していた。
丁度、あの宇宙艇が衝突した場所付近で、それらしきモノを発見した。
それは、長方形の箱に格納されていた。箱は、ロボットアームで船体に固定されたいた。
マザーは、探索用ロボットから送られてくるデータを解析していた。
〈これは、使える。なかなかよくできている〉マザーの評価は、高かった。
だが、これはどこから来たのだろう?と、不思議に思いながら、箱を開ける事に成功した。
箱の中には、身長一八○センチの痩せ型のアンドロイドだった。長めでゆるいカールが掛かった髪の色男だった。マザーにとっては、色男であるかは問題ではなかった。
どうやら、エネルギー切れのようだ。探索ロボットから、エネルギーを注入し、起動させてみた。
アンドロイドは、目を開けると眼球を高速に動かした。マザーは、直ぐにブートプログラムをセーフティモードで起動させた。アンドロイドが起動したとき、コンマ一秒だけ、電波を発信したことを観測した。
マザーは、船外の監視レベルを上げ、警戒したが何も起きなかったので、アンドロイドの誤動作として処理した。新に制御プログラムをインストールし起動させた。
その頃、ケンとレナの二人は、船の数少ないキューポラ(出窓)の一つにヨガマットを敷き、寝ころびながら外を眺めていた。外には、もう美しい地球は無く、闇ばかり続いている。
「僕たちの他に生き残っているかな?」ケンが言った。
「そうね…。他の人間に会いたいの?」レナが言った。
「レナは?」
「どっちでもいいわ。あなたが居るから」
二人は、軽くキスした。丁度、二人は、目の前にルークが立っていることに気付いた。
「ケン、レナ。仕事は終了しました」二人はバツが悪いといった感じで、急いで立ち上がった。
「お邪魔でしたか?」と、ルーク。
「いや、そんなことはない…」ケンは、臀部を叩いてホコリを落とし、顔を上げた。
ケンは、キューポラから宇宙を見上げた。このどこかに第二の地球があるのだろか?
「ライブラリの1583番を観た?月からの地球はとても綺麗なんだ」
「1583・・・観たわ、地球はとても綺麗だった」子供のようにレナは言った。
「ルーク、君は知っている?」ケンが言った。
「知っていますが、綺麗かどうか、私にはわかりません」ルークが淡々と答えた。
「わからないって・・・」ケンが、ルークに『綺麗』を説明しようとしたが、うまい言葉が見つからず、諦めた。
「そういえば、僕らに何か用?」ルークは、やっと話せると軽く、首を振って言った。
「侵入者がいるようです」
「侵入者!早く言ってよ。ルーク」と言うと、ケンは、艦橋に駆けて行った。二人は、ケンを追いかけた。




