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創世の竜と漆黒のみこと  作者: 木瓜zombie
8/10

1 Fact is stranger than fiction (6)

遅れてしまいました(汗)

「あの王子様……ほんまに大丈夫なんやろか……」


部屋に独り言が、こだました。


こんな独り言に反応してくれる人も、もちろん居ない。


……このだだっ広い部屋に先ほどから少しも落ち着かず、目の前で倒れた王子の事を思うと気が気で無い。


この世界に来てから、少なくとも何時間も経過しただろう。

天井では時計らしき物が休む間も無く働いているが、見るに電池で動いているわけでは無く、何かしらの魔法で動いているようだ。


針の周りには十二個の宝石が浮いている。


もしかしたら同じ時を刻んでいるのではないかと、つい希望的推測を展開する。


大きな窓からは燦々と光が差し込んでいる。


……この無駄に豪勢な部屋に待機を言い渡されてから数十分は優に過ぎているだろう。


暇や……。


隅の椅子に座り、部屋全体を観察することにも飽き、遂に立ち上がる。


メトに言われたようにこの部屋に入って待つ事数十分。

全く音沙汰は無い。

さっきも上手い事丸め込まれた感があるよなぁ……。


***


『ここで快適に過ごしていただくためにも……ミコト様の身の回りの雑務をこなす者が居た方がよろしいですよね』


メトが廊下を優雅に歩きながら私に話しかける。

そこへ王子様をお姫様抱っこしたままセレストが何かひらめいたのか、勢いよく振り返った。


『使う部屋はまだ決まっていなかっただろう?空いている部屋を使わせるより俺の使っている塔の部屋を一つミコト用に改造すればいいだろ。それが一番安全だ』


『ええ、城内でも万全とは言えませんから……セレスト様の仰るように致します』


懐からメモ帳を取り出し、メトが書き終わると紙は鳩になって何処かへ飛んで行った。


『メトさん……非常にありがたいですけど私みたいな人間がそんな待遇を受けるわけには……あと敬語やめてください』


『そうはいきません。何度も申し上げているでしょう?セレスト様がお連れになった来賓を蔑ろにはできませんからね。これは既に決定事項ですので……それでは私もミコトさんと呼ばせていただきます。あと敬語は……そうですね、ミコト様がおやめになられましたら私も順次そう致します』


『……分かりました』


渋々頷き、前方に視線を戻すと既にセレストの姿は無くなっていた。


『ではミコト様、我々はこれからミコト様のお世話をする者を探してまいりますので、しばしこの部屋に留まられてください』


『……ここ、ですか?』


***



(元の世界に帰るためにも)今後のことを決めるためにも、とても重要な……私のお世話係を選定してくれているらしいが……。


精神統一を試みたもののあまりにも環境が違いすぎて集中できない。

鍛錬不足……いや、まだ現実を直視できていないのだろうか。


そんな事は無いはずや。見るだけで無く、自分自身もう何度も実際に魔法を使ったのだから。


しばらくの間これでもかと時計と睨めっこをした挙句、とうとう我慢の限界がきた。


気になる事はいっぱいあるけど……取り敢えずあの王子様が無事かどうか確認したい。


メトさんが女性が苦手って言ってたけど……安否の確認で遠くから見るだけなら……大丈夫やろ。


ごめんセレスト……主にメトさん。


確か……世話係(ファタ)の最終選考はこの部屋で私が決めるって言ってたから、それまでに間に合うように帰って来ればええよな。


そうと決まれば、善は急げ。


勢いよく扉に向かった……のだが。


「駄目ですよぉ〜、勝手に動いちゃ。僕が怒られますぅ」


「……どなたかいらっしゃるのですか?」


「目の前にいますよぉ、め、の、ま、え!」


「ええ……すみません、私の目がおかしいのか……いや、それは無いな。残念ですが私には見えません」


こんなに早く次なる未知の生物に出会うとは思いもよらず、さっと身構える。


これまでの話によると、この黒髪はどうやら目立ってしまうという事が分かっている。

城の中が安全とは限らないとあの宰相が言っていたのだ。


こんな風に誰彼構わず疑うのは本当に申し訳ないが、万が一を想像してしまう。

この内心ではとても心配性である性格は異世界に来ても治らないようだ。


「よく見てくださいよぉ〜!!ここにいるのにぃ」


「わ、分かりました」


深呼吸をしたあともう一度目の前を凝視するが、何も見えない。


「……すみませんやっぱり無理みたいです」


「……おかしいなぁ、扉が見えないなんてぇ。そのまま進んだらぶつかっちゃいませんかぁ?」


「なんですって?!扉?」


ふふふ、と奇妙な笑い声を漏らしながら扉が答えた。


「そうですよぉ!驚いたでしょ?ふふ。僕は変身魔法(アラアギ)が得意なんですぅ」


「うん、はい、とても驚きました。あらあぎって何ですか?なんでこんな事を?」


「姿を変える魔法ですよぉ〜?ご存知無いんですねぇ……ふふ……これは僕の憶測ですけどぉ……ここから出られないように、とかじゃ無いですかねぇ?」


「そ、そんな……私そんなに信用無いんかな」


「実際、出ようとしてましたもんねぇ」


「く……そ、それは」


「ところで急に血相を変えてどこに行こうとしてたんですかぁ?もしかしてぇ、王子の部屋ですかぁ?」


「部屋……と言うよりも王子自身に会いに行きたいのです。私のせいで倒れたも同然ですから」


安否を確認するだけ、と思っていたはずが自然と口が動いた。


「会ってどうするのです?またお倒れになられるかもしれませんよぉ〜?かえって迷惑では?」


途端に扉は頑として開かないとでも言うように、威圧的になった。


これ以上危害を加えるつもりなんてない。

無いが、ただ、


「……ひとこと、一言謝罪したいのです。場の流れであったとは言え、騙してしまいました。それで余計に驚かせてしまったので……あ、でもこれでは私の自己満足に過ぎないかもしれません」


よく考えたらそうやんな。

私が早くこの罪悪感から少しでも抜け出したいから出た言葉なら、こんなに恥ずかしいことは無い。

とは言えメトさんたちを待ってた方が良いのは分かってるんやけど……じっとしているのは性に合わへんから。


「ふふふ、そうですかぁ?でも僕、アナタの言うことも一理あると思いますぅ。『ごめんなさい』が出来る人は立派な人ですからぁ」


「……ありがとうございます。貴方はとても優しいのですね」


思わぬ配慮に扉を撫でる。

メトやセレストは警戒しろと言っていたが、少なくとも私が今この瞬間まで出会ってきたデンドリックアゲート人?は良い人たちばかりだと思う。


「ぁっ……もぉ!どこ触ってるんですかぁ!えっち!」


「え?」


ポンッと軽快な音を立てて扉が消え、先ほど歩いてきた廊下に四つん這いになっている少年が現れた。


肌が浅黒く……褐色でエメラルドを埋め込んだように輝いた瞳をしている。


廊下の長窓から差し込む光の加減によって、色が微妙に違って見える金髪の隙間から飛び出す細長い耳。


シワひとつ無い半ズボンとシャツ、それにハイソックスを身につけている。


「あー……えっと、ごめんなさい。悪気はなくて……」


その場でしゃがみ、四つん這いの少年の目線に合わせる。


手を差し伸べると、心底驚いた顔をする少年。


「……なんですかぁ?この手は」


「えっと……立ち上がれないくらいショックだったの思いまして……あっ!そうや、良かったら背中に乗りますか?ていうかずっと扉でいたなら相当疲れてますよね?この部屋のベットまで運びますよ!」


私のマシンガントークに圧倒されたのか、ポカーンと口を開けたまま、フリーズしてしまった。


いつからか分からんけど、ずっと扉に化けて?たんやもんな。


やっぱり、相当疲れが溜まってるんやな。


……よし。


「ちょっと失礼しますよ」


少年の片腕を私の肩に乗せ、デンドリックアゲートに来て幾度となく経験したお姫様抱っこをした。

回れ右をして、扉の無くなった部屋に入る。


「は?な、なにするんです!」


「あれっ?語尾を伸ばす元気も無くなってしまったんですか?!」


「時と場合によるんですっ!」


「そうなんですか?熱とか……あ、大丈夫ですね」


両手がふさがっていたためおでこをくっつけてみたが、幸い体調不良では無いようだ。


「なっ!アナタは淑女として奥ゆかしさの欠片もないんですか!!」


「淑女……という柄でもないので……あれ?!おかしいな、熱は無かったはずやのに顔が赤いですよ?」


「誰のせいだと思ってるんですか!!!!ベットに降ろさなくて良いです!!」


それまで大人しく腕に収まっていた少年は、思い出したように飛び上がり、三メートルほど離れて軽やかに着地した。


「でもかなり疲れてますよね」


「これくらい疲れているうちに入りませんよぉっ!」


「すみません、私の早とちりでしたか」


「それよりもどうして僕に、簡単に触れたりするんです……いや、アナタは会う前から変人だから気をつけろと言われていたけど……まさかこれ程までとは思っていませんでした」


「その評価は少しどころかかなり酷くないですか……ん……?会う前ってことは、もしかして……」


メトはこの部屋で待つように言ったが、メトが連れてくるとは言っていない。

もしかしたらこの部屋に入った瞬間から使用人選びが始まっていたのかも知れない。


「はい、ご想像の通りです。僕が一人目のアナタの小姓候補として選ばれた……エルフです。本来ならばただの妖精(ファタ)とは比べ物にならない高位な種ではありますが、僕はある意味では……アナタ同様少々問題を抱えているのです」


「そうでしたか……そうとは気づかず……長い間ドアのままで大変だったでしょう?不束者ですが何卒、よろしくお願いします」


「はい?」


「どうしました?」


「だからぁ!つまり僕は、だ……ダークエルフなんですよ!普通のエルフじゃ、ないんですよっ!」


「それがなんなんですか?いけない事なんですか?」


「そんな事……そんな事ありません。僕は他のエルフと違って身体能力だって高いし、魔力も強いのです。僕の方が優れているって言っても過言じゃありません……ただ、肌の色が、見た目が……劣っているだけなのです」


ダークエルフの少年はぎゅっと拳を握りしめ、身体を震えさせている。


悲しいかな、肌の色で差別される事は地球上の歴史の中でも見受けられる。

現代は昔に比べれば考え方が改善されてきているのかも知れないが、未だ黒人や白人という言葉が残っている事自体が問題なのかも知れない。


それに彼の場合は……恐らく大多数の中の一人だろう。


それが優れていれば尚の事、出る杭は打たれる。

違うものを排除したがる集団心理が働いたのかも知れない。


でも私は……。


「私は……もしかしたら聞いているかも知れませんが、他の世界から来たんです。そやから……貴方が私の初めて見たエルフ?なんです。他のエルフの事は知らんからなんとも言えませんが、少なくとも私には目の前にいる貴方の外見が他の何かに劣っているとは思えません」


「え?」


「だって、すっごい綺麗なんやもん」


「……っ!!」


「しかもそれを言うなら私の方がヤバいと思うんですけど……こんな髪の色の人いないんですよね……はぁ」


私は自分でも驚くほど思った事をそのまま話していた。


とても誠実そうな少年と接している間に安心したのか、ここに来て初めて?愚痴をこぼした瞬間だった。


ペラペラと一人で喋っていると、おもむろに少年が歩き出し目の前に跪いた。


何事かと狼狽えていると、とても滑らかな仕草で私の右手を取り、ゆっくりと手の甲に口づけた。


「生涯、ミコト様の側で従い、お護りすることを……この、アレク・サンドベリルの名においてお誓い致します」


この格式張った感じ……この国特有の儀式なのかも知れない。

私も何かすべきなのだろうか。


しゃがみかけると、途端に制止された。


「アナタは何もしなくていいですよぉ〜」


ようやく調子を取り戻したのか、立ち上がった少年……アレクは綺麗な緑色の目でまっすぐこちらを見つめた。


夜空に浮かぶ三日月のようだ。


「……ありがとうございます。では、改めてよろしくお願いします。えーっとアレク君」


「まぁ好きに呼んでくださればいいですけどぉ〜。僕、ミコト様の五倍は生きてますからねぇ……エルフ年に換算したら若いですけどぉ、さすがに君は」


「えっ!私より年下やと思ってました……すみません、目上の方にとんだご無礼を」


「……ふふふ。ミコト様は召使いに対しても敬語を使うんですねぇ。僕はもうアナタの所有物に過ぎませんのにぃ」


何をしても構いませんよ、とふざけている(ように見える)アレク。


「何言ってるんですか!ダメです。自分のことを物扱いしたら。そうや!主従関係はよく分からないのでまずは友達から始めましょう」


「……そういう意味じゃないんだけど。それは命令ですかぁ〜?」


命令……か。

なぜだかそれはちょっと寂しい気がする。

ようやく打ち解けられた少年と壁を感じてしまう。


「命令……じゃなくて“お願い”ですかね」


「分かりました。じゃあミコト様は敬語を使わないでください。友達には普通に話すでしょう?」


「うん。それやったらアレクも……」


「ミコト様の“お願い”だから聞けませーん。ふふ」


「なんでやねん!……まあ当分はこのままでもええけど……あっ!そうや!アレクって王子の居場所分かったりする?」


扉が突然喋り出すという怪奇現象の種明かしの間にすっかり忘れていたが、王子を探しに行こうと模索していたことを思い出した。

この様子ではメトがいつ来るのかさえもはや分からないのだ。


「……それは命令ですかぁ?」


「アレク、友達には命令するもんじゃないやろ?お願い。な?」


「確かにそうですねぇ。ふふふ。いいですよぉ〜。セラフィナイト・アーバス・デンドリック王子の居場所まで案内します」


そう言うがいなや、魔法の呪文らしきものを詠唱し始めた。


「……長距離探査魔法(プサクフェ・プロスヴァーシ)発動(ギグネスタヒ)せよ」


アレクの両腕に螺旋状の魔法陣とよく似た光が生じ、そして消えた。


一瞬の出来事だった。


私の魔法陣は、魔法を使っていなくても消えるまでしばらくかかっていたのにあれほどあっけなく、霧散するように消えるとは何かおかしい。


「アレク……?」


「うーん……場所は掴めましたけどぉ。本人には触れませんでしたぁ。そのまま跳ね返ってきたんですぅ」


「魔法が跳ね返る?そんな事もあるん?」


「事前に防御魔法(アミナ・エンプロソフィラキエ)……シールドなどを施していればこういうことも起こりますけどぉ、僕の魔法だけを先に察知した訳じゃなさそうなんですよぉ〜」


「シールド……何かに守られてるって事?」


「はい。まあでもそのおかげで場所は分かりましたぁ。さっきの長距離探査魔法(プサクフェ・プロスヴァーシ)で目的地までのファタや警備の人数もわかりましたから、極力避けて行きましょう。見つからない方が良いでしょう?」


「おお!すごい!アレク天才!」


「……褒めても何も出ませんよぉ〜」


そう言いながらも少し照れ臭そうに前を行くアレクがとても可愛らしく思える。


こうして新たな仲間?をゲットし、思っていたよりあっさり部屋から抜け出す事が出来た。


お読みいただき有難うございます


魔法が増えてきたので作者も混乱しております( ゜д゜)

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