1 Fact is stranger than fiction (4)
重厚そうな大扉がひとりでに開き、中に入った瞬間、目を疑ったのは言うまでもない。
そこには外観からは想像もできなかった神々しいほどの世界が広がっていた。
絶対おかしい……。
軍事基地みたいな城やったはずやのにこんな分厚い絨毯なんかあるはずない。
中に浮いたまま光ってる巨大な宝石を使ったシャンデリアや、そこかしこにある黄金に輝く装飾品、それから……。
「お帰りなさいませ、セレスト様」
多くの召使いと思われる人たちが一斉に私ーーではなく私を抱えているセレストに頭をさげる。
中には背中に昆虫の羽のようなものがくっついている者や耳が明らかに人間の物でない者がいるが、そこにはつっこまないでおこう。
カツンカツンと小気味良い音をたてながら
いかにも気品漂ういでたちの二人がこちらに向かって歩いてきた。
一人は眼鏡をかけた優しそうな青年で、もう一人は自身の背丈よりも大きな杖を持った青年だ。
それにしてもこの国の人達はどうしてこうも顔が整っているのか。
青年と目があうと、ニコッと微笑まれた。
なんや、この人の纏う空気……
絹のような金の髪に深い海のようなマリンブルーの瞳の少年は、まさしく御伽噺の王子様を思い起こさせる。
「…………ッ!」
しばし沈黙が流れ、お姫様抱っこをされたままだったことに気がついた。
「セ、セレストさん、もう大丈夫やから下ろしてください」
「は?セレスト“さん”?俺の名前には“さん”なんて付いていない」
「でも……」
「俺には気をつかうなと言ったはずだが」
「……下ろして、セレスト」
「靴がないだろう。却下」
こやつ……。
なんか弄ばれてる気分や。
そんな私とセレストのやりとりに目を丸くしている御二方。
「セレストが他種族に普通に喋ってるなんて……明日は嵐?天変地異の前兆かな?」
「ご安心ください、セラ様。この空でしたら明日も晴れでございます」
「お前らな……」
あ、なんかセレストが押され気味で面白いな。
「なぜお前達が出て来なかったんだ。念のためあの場にいた者全員に記憶隠蔽魔法を施しておいたが……俺に現地から伝書でも飛ばせと言いたいのか?」
「まさか!そんなわけないじゃないか……そもそもセレストが俺にまで隠し事をしようとしたのがいけないんだよ、ふふ」
「セレスト様、あなたが渦の調査にいち早く向かってくださったので上層部の……渦ができていることを知った者は一同安心しておりましたーーが、まさかこんな生き物を拾って帰ってこられるとは……これは国の一大事なのですよ?」
二人は少し悲しそうな顔で私を見つめる。
「ーーで、その大切そうに抱えてる“動物”……本当はどんな姿をしているの?」
動物……?ってのは私のことか……?
確かに生き物で哺乳類の霊長目に分類されてるけど、まさか同じ人を動物扱いするとは……。
この国の人々は言葉遣いに少々難があるようだ……と思っていたが。
「いや、これは……さっきも少々問題が起きたからな、事前に防いだ方が良いと判断したんだ」
「何言ってるの?セレスト。セレストが城内に入った瞬間あの空間だけ結界魔法を張っただろう。千里鏡も使えなかったんだよ……どうしても俺には教えてくれないの?」
穏やかな物腰だが、なぜか逆らえないような力を感じる。ふと上を見ると彼の杖の先についている透明な玉が薄く光っている。
「……俺にはお前の魔法は効かない。これはお前達のためを思ってやってるんだぞ」
「セレスト様、そのようなお心遣いは無用です。どうか王子のお言葉をお受け入れください」
話を聞いている限り、二人はもしかしたら私の姿が見えていないのかもしれない。
ていうか多分そうだ。
何か他のものに見えるように魔法がかけられていたようだ。
さっき隊長と戦った時も実は敷かれたフィールド内やったとは……全然気がつかへんかった。
「セレスト、そんな魔法をかけてるんやったら今すぐ解いてください。ここまで連れてきてもらっただけでもほんまに感謝してます。セレストにこれ以上迷惑かけたくない」
「……ミコト」
セレストがなんだかんだで私のことをかばってくれているということは分かる。
「それに、この体勢のままでは先方の方々に礼を欠いています。それは私が私を許せません」
「……へえ」
「……セレスト様が穏やかに接していらっしゃる理由が分かる気がいたします」
眼鏡越しに優しそうな目が細められる。
「……分かった。だがここでは城勤めの者が多すぎる。ミコトを座らせる椅子も必要だ。場所を変える。付いてくるのはお前達二人だけだ。」
セレストは絨毯の上で四度ステップを踏んだ。