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創世の竜と漆黒のみこと  作者: 木瓜zombie
4/10

1Fact is stranger than fiction (3)

みことちゃん無双回です

「決めたぞ」


何やら神妙な面持ちで、一大決心をした様子のセレストは、急にUターンした。

明らかに先ほどまで向かっていた方向では無い。


「どうしたのですか」


「路線を変更して至急王城へ向かう」


「え?」


「案内をすると言っておいて約束を違えるようだが、今は王都には行かない」


「なんでですか?」


「なんで、だと?」


私の言葉が逆鱗に触れてしまったのか、溜まっていたものが噴き出すように目と鼻の先で説教が始まった。


「ここまで来るのに散々森を滅茶苦茶にしておいてよくもそんなことが言えるな……。お前を王都に連れて行きでもしてみろ。それこそ大混乱を招きかねん。到着前に諸問題が発覚したことが不幸中の幸いだな」


「うっ……その節は……ほんまに堪忍して下さい」


考えないようにしていたつもりだったが、セレストとの会話の最中や森を見ながら何度か無意識的に魔法陣を発動させてしまった。

その数およそ二十数回。

その度にセレストがフォローをしてくれていた。

さすがに堪忍袋の緒が切れるのも、納得できる。


「コントロールがままならない奴を市井に出したら……危険すぎるからな。見えてきたぞ」


「……え?あれですか?」


城、と言うには随分暗い色のそれは、どこか軍隊の要塞のようにも見える。

と、言うより日本から出たことがない私は青や赤の屋根のついた城しかイメージとして持っていないからかもしれないが。

シンデレラ城の様な煌びやかな城を先入観として持っていたのだ。

しかし考えてみればこの世界にも他に国があるのかもしれない。


その国々と戦争をする事もあるんかな。

もしかしたら、ここもそういう国なんかもしれへん。


ここの世界に来て数時間がたって初めての緊張に戸惑いを隠せない。

私の国は、と言うより私の世代は戦争を体験したことがないからだ。


城は近づいてくるにつれ迫力を増す。

徐々にその全貌が明らかになってきた時、人影があることに気がついた。


「セレスト様がお帰りになったぞー!!」


「全隊、整列!!」


巨大な鐘の音が響き渡り、近くにいた鳥がざっと飛び去っていく。

セレストが着地するには十分な広さの中庭に、整列した人達が控えている。


先ほどからセレストに敬称をつけられているのが気になる。


「おい、ミコト」


「はい」


「この姿のままではあいつらとは会話ができんからな……少し目を閉じていろ」


「……わ、分かりました」


いまいちよく分からないが、兎に角指示には従った方が良さそうだ。

瞳を閉じた直後、瞼越しにも分かる程の光がセレストの身体から放たれた。

ゆっくりと目を開くと、そこにいたのは。


少しクセのある青紫色の髪と目を持ったーー美しい青年だった。


「……あなたは……どちら様ですか?」


「は?何を言っているんだお前は。寝惚けてるのか?」


「その口調は!セレストさん?!」


何故か人間の、それも超美形になっているが、間違いなくセレストだ。

しかも、この体勢は。


「なっ、なんでお姫様抱っこなんですか!!」


「はぁ……ミコト、お前は靴を履いていないだろう?

このまま抱えて連れて行ってもいいが、靴が必要なら用意させる」


そういう問題とちゃう!

まさか人生初のお姫様抱っこをこんな所で経験してしまうとは。


当の本人はというと、


「おい、貴様ら、とりあえず俺の着物でも持ってこい」


私を抱きかかえたままテキパキと指示を出している。


「着物って……セレストさんも靴履いてないんじゃ……」


ちら、と下を見るとやはり靴を履いていない。


それどころかーー全裸の様である。

そこから何をしでかしたのかはーーほとんど覚えていない。

恐らく一瞬で防衛本能が働いたのだろう。顎を突き上げ、腕から飛び降りた挙句、一本背負いを繰り出してしまったようだ。もしかしたらビンタも二、三発お見舞いしたかもしれない。

見事に頭から地面に叩きつけられたセレストはピクリとも動かない。

やってしまった。


「セレスト様!!」


「貴様!!セ、セレスト様に何てことを!!」


「セレスト様、ご無事ですか?!ていうかお召し物です。どうぞお腰をお護りください」


わらわらと十数人の兵が集まって来てセレストに服を着せる。

うちの一人と目があうと、その男は萎縮したように二、三歩後ろに後退りをした。


「こいつ!!……く、黒髪です」


その声を皮切りに周りがざわつき始める。


「本当だ……。何故今まで気がつかなかったのだ。忌々しい化け物め」


「目眩しの魔法を使っていたに違いありません。こいつ魔法が使えるんですよ」


「セレスト様を投げ飛ばすなんて只者ではありません」


「お前は何者だ。答えによっては生かしておけぬぞ」


「いや、セレスト様にこのような所業、首を飛ばしても余りある」


そうだそうだ、と周囲から声が上がる。

これは、やってしまった。

多分、いや間違いなくセレストはやんごとない身分だろう。

城に来て早々、全員を敵に回してしまった。


加えて命の恩人(セレスト)を頭から落とすなんて、人道に反している。

おじいちゃんがいたら締め上げられているやろな。

あかん、このままでは……なんとか弁解をせねば。

有る事無い事を叫ぶ兵士達を横目に、必死に頭を捻らせる……が。


なんて言うたらええか分からへん。

この世界に降ってきました、なんて言った所で信じてもらえへんやろうし。



「せめてもの情けだ。女、この俺が直々に冥府へ送ってやる」


「隊長!貴方が手を下すまでもありません!俺が」


「いえ、是非この私めにおまかせ下さい」


「ここは僕が!!」


なんとか打開策を見つけようともがいている私の周りでは、手柄を立てたいのか(えもの)の取り合いが始まっている。



「いや、お前達の敵う相手ではない。下がれ」


「ですが……」


「しかし隊長!」


「くどい!!首を乗せる盆の用意でもして来い」


隊長と呼ばれた大柄な、しかし端正な顔をした二、三十代だと思われる男が私の前に立ちはだかった。


確かに非があるのはこちらだが、それにしたってひどい言われようである。

言うに事欠いて首を乗せる盆って、


「そんなアホな」


「なっ!貴様、無駄口を叩くな」


一歩、また一歩と距離を詰められる。


でもここでひるむわけにはいかへん。


「私がしでかしてしまったことは重々承知しております。ですが……」


「黙れ!!命乞いなら聞かぬ」


「……どうしても、私を殺すつもりなんですね」


「当たり前だ。お前に弁解の余地はない」


「弁解…しようにも暇を与えてもらえへんかったさかいに」


「なんだと?」


ボソッと言ったつもりだったが聞こえてしまったようで、余計に逆上させてしまったのか、ついに剣を引き抜く隊長。

またやってしまった。


「これ以上話す事はない。寝言は死んで言え」


「……私はここで死ぬわけには行きません。貴方には悪いですけど勝たせて頂きます」


こうなったら、もう腹をくくるしかない。

力でねじ伏せて正々堂々とここを切り抜けるしかない。

おじいちゃん、こんな事のためにおじいちゃんから教わった“道”を使ってごめんな。


この城に着くまでに、色々あった。

この世界には魔法があること。

魔法で物を生み出せることが分かってしまった。

ならばこの世でおそらく一番硬いものを使って……刀を創る。


ダイヤモンドは炭素から出来ているんやったかな。

空気中に多分浮いてると思うけど、そこから生成されるわけじゃなさそう。


金剛石(ダイヤモンド)は地中深く、高温、高圧下でゆっくりと冷え固まる結晶。

この場で出来てしまえば等価交換している……とも言い難い。

頭の中の映像をそのまま物体にすることが出来るなんて、今でも半信半疑やけど……。



ダイヤモンドの刃、切っ先……何カラットという単位で削られているものしか見た事はないが、刀の構造は理解している。


出来るか分からんけど、やるだけやってみよう。

今回はかなり私的に使ってしまうけど……魔法陣、出てきて。


周囲の空気が変わったのが分かったのだろう。

兵士達が騒めき出した。


「こいつ、魔法陣を発動させる気だ」


「第一小隊、セレスト様を担いで至急城の中へ。何が起こるか分からん、早くしろ!!」


「みんな急げ!」


「隊長!間に合いません!!うわっ」


またしても右手の甲に魔法陣が現れ、“それ”は青白く目の痛くなるような光を放ってーーその姿を現した。


予想以上の出来に興奮が抑えられない。

刀鍛冶でもないのに出来てしまったやなんて。


「うちの家にあるやつには劣るかもしれへんけど、今手合わせするには十分すぎる出来やな。よろしく頼むで」


黒い漆の鞘をひと撫でし、それを外すと、確かに透明な刀身が陽の光を受けて輝いている。こんな贅沢は確実にここでしかできないだろう。


ーーと、刀に見惚れている間に影が落ちる。

頭上から怒声と共に振り下ろされる真っ直ぐな剣を捌き、左に逸れて着地する。


「余所見をしている暇なぞ与えぬ」


「……女子高生への対応とちゃうやろ、これは……くっ!」


一太刀また一太刀と隊長の剣気が腕に伝わる。


呼吸も全く乱れていない。

相当の使い手のようだ。

まあ、城の警護を任されるような身分の者ならそれ相応で当然だ。

しかしーー


「私の相手には役不足でしたね」


剣城が振り上げられた瞬間、懐に距離を詰め、峰打ちで胴を取る。

なんとも形容しがたい音を立てて隊長の体がくの字に折れ曲がる。

さらに刀風圧で隊長は数メートル吹き飛んでしまった。

そこまで力を入れたつもりは無かったのだが、やってしまってから罪悪感を感じる。

本気の相手には、本気で応えるのが礼儀というものなのだ、と自己正当化しようとするが


「グッ!!ガハッ!!」


苦しそうな呻き声が聞こえたかと思うと(みぞおちにクリーンヒットしたのだろう)そのまま動かなくなってしまった。


「えらいこっちゃ!!」


慌てて駆け寄ると、浅いながらもしっかりと呼吸だけはしていた。

良かった。

苦しそうだったので腰に巻かれていた太いベルトと首回りの布地を取り外してやる。


胴部分の鎧は、見事に砕けていた。

これだけ酷い打撃であれば身体も無事ではないだろう。

もう、私のアホが。調子にのるからこんなことになってしまうんやろ。


「隊長さん…ごめんなさい」


人をここまで傷つけた事はない。試合をする時には必ず審判がいて、選手が危険だと判断すればすぐに試合は終了する。そもそもしっかりとしたルールに則って、礼に始まり礼に終わる。

それが“道”を行く者の原理原則だ。

真剣を持ったことだって今日が初めてなのだ。これほど手になじむとは思ってもいなかったし、まさか使いこなせるなんて。


いや、そんなこと考えている場合じゃ無かった。


「そうや、誰か!!治療のできる方はいませんか!!」


遠巻きに見物していた隊員達(ギャラリー)に向かって叫んでみるが、こちらに向かってくるものは一人もおらず。


「あの隊長がやられただと」


「魔法を使ったに違いあるまい。何処から取り出したのか、珍妙な武器を使っていたじゃないか」


「……戦闘開始数秒でだぞ、ありえない」


「あり得るんだ、ミコトならな」


兵士達に動揺が走る中、一人何食わぬ顔で平然と起き上がるーーセレスト。


「セ、セレスト様?ご無事だったのですか?!」


両隣にいた兵士たちが、一歩下がり跪く。


「セレストさん……あの、ごめんなさい」


「そのことなら気にするな。俺を投げ飛ばせる女がこの世にいたことが奇跡だ。とても貴重な体験ができた」


無駄に大声を出すセレストの言葉の裏に棘があるのは気のせいではない。


「しかし面白いものが見られた。ミコト、お前は武術も扱えるのだな」


「わっ私なんて、まだまだ若輩者です」


「近衛兵第一小隊隊長をぶっ飛ばしておいてそれを言ったら嫌味にしか聞こえないだろうがな、つくづく面白いな、お前は」


はははと笑うセレストは竜の姿の時よりも随分年相応に見えた。

ていうか笑い事じゃないやろ。


「セレスト様が笑っていらっしゃる…」


「初めて拝見します」


「俺も」


「俺もだ」


兵隊たちは信じられないとばかりにお互い顔を見合わせている。

もう、勝手にしてくれ。


「セレストさん……ずっと起きてたんやったらなんで止めてくれはらへんかったんですか。あの人に怪我を負わせてしまいました」


「ミコト……はっ!!ははは!!お前は自分が殺されかけたことは抗議しないのだな」


「そういう国なんやなぁとは、見当つけましたけど?」


「言ってくれる。まあ、手を出した相手が悪かったな。俺自身は一向に構わないが」


「そっそれは……だって、セレストさんが」


思わず赤面したであろう私にズンズンと近づいてきて顔を覗き込むセレスト。


「セレストさんがーーなんだ?」


すっかり豪華な衣装に身を包んだセレストは美しさにより磨きがかかったようで眩しい。

というか近い。


「セレストさん…からかってますか?」


「さあ、どうだかな。人間(こっち)の方がお前にはウケるということは分かった」


「……!!」


前言撤回、このドラゴンは掴み所がないようだ。


「……取り込み中悪いが、俺を忘れてもらっては困る」


すぐ隣で隊長がプルプルと腕を震えさせながら必死に自己主張している。


「た、隊長」


「隊長!ご無事だったのですね」


「馬鹿者!これが無事な訳あるか!!」


「「「「ひっ!す、すみません、隊長!」」」」


ようやく駆け寄って来た隊員達に罵声を浴びせる隊長。


そらそうやわな。

私のことを怖がってこの人たち隊長のことほっぽってたんやもんな。


「隊長、応急処置を致します」


「どうぞ、我々に腕をおあずけください」


どこからともなく現れた担架を持った医師達が隊長をゆっくりと持ち上げる。

怒鳴ったのは空元気だったのだろう。動かされるだけでも痛いらしい。隊長の表情が引きつる。


「本当に、ごめんなさい」


そもそも、事の始まりは私がセレストを投げ飛ばしてしまったことにある。

本来ならもう少し穏便にことが進んだに違いない。


「謝らないでくれ……余計惨めな気持ちにさせられる」


ああ、そうか。

仮にも隊長をしていた人だ。

これ以上この人のプライドを傷つけられない。

私はぐっと歯をくいしばる。


「……俺は本気でお前を殺そうとした。しかしお前からは全く殺意を感じなかったーーそれどころか……剣の刃さえ使わないとは……とんだ」


「お人よし、か?デマントイド第一小隊隊長。それがミコトという奴だ。こいつに人は殺せないし敵ではない。我が“同胞”であり、俺自身がここまで連れてきたこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ」


「貴方もお人が悪い。俺を当て馬になさるとは。これで彼女がより城内に入りやすくなったというわけですね」


「たまたまだろう」


ふっと笑ったセレストはテレビで観てきた俳優顔負けの笑顔なのだが、どこか恐ろしい。

担架で運ばれて行かれた隊長を見送り、こちに振り返った。


「ああ、そういえばミコトは裸足だっただろう?仕方ない。靴は誰も用意しなかったようだから、俺がまた抱きかかえて行くとしよう」


「ちょっ!ひゃっ」


随分わざとらしい芝居の後で、壊れ物を扱うかのように優しく回された腕。

そんな中で暴れるわけにもいかず、なされるがままになってしまう。


なんでこんなに心臓が拍動してるんやろ。不整脈?心不全か?ここに来てから分からへんことだらけや。


「おいミコト」


「な、なんですか?」


「あの変になまっている話し方の方がお前らしいな」


「……!」


「俺に気をつかうな。さて、一部始終見物していた奴らのところに挨拶にでも行くか」


歩き出したセレストに抗議の声を上げようとしたが、またからかわれるかもしれないと思うと気が削がれた。


ミスが多発しているかもしれないので、もう一度編集しようと思います

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