1 Fact is stranger than fiction (2)
前回からそのまま続きです
仮に、ここが地球上だとして、ジ○ラシックパークが完成した近未来やとしても。
流石に人間と会話できる恐竜なんているわけないことは分かる。
おじいちゃん、黙想が終わって目を開けたら私が消えててビックリしたやろうな。
それどころか気配が消えた時点で分かったに違いない。
今頃探し回ってるんちゃうやろうか。
おばあちゃんが死んでからたった一人の家族になった私までいなくなってしまったら、どれだけ辛いだろう。
生命が助かったところで、問題だらけなことに変わりはないのだ。先ほどから冷や汗が止まらない。
「あの、セレストさん。私の他に落ちてきた人とか…いませんでしたか?」
「お前一人だけだ」
「そう、ですか」
淡い期待もバッサリ斬られる。あんな死ぬような思いをしないで済んだことは良かったけど。
嬉しさ半分、悲しさ半分でなんとも複雑な気持ちになる。
おじいちゃんはひとりぼっちになってしまった。
「……大丈夫か?さっきからずっと震えてるぞ。お前は寒さなど感じないはずだが」
「え?どういうことですか?」
「お前は……その辺の竜より強い魔力を持っているだろうが」
「へ?魔力?」
セレストは俺の方が上だけどな、などと自慢げに話している。
いやいやいや、ちょっと待て。
そんな当たり前の事のように言われてもな。
魔力、ということはこの世界には魔法が存在するということだろうか。
呪文を唱えて炎を出したり、病気を治したりすることができる、とか。
ファンタジー作品によく出てくる、様々な魔法が実際に使えるのかもしれない。
ドラゴンもいるし、ありえない話ではない。
先ほどまで不安に震えていた体が、今度は武者震いをしているのがわかった。
こんな時やのに、私わくわくしてる。
おじいちゃんのことは心配やけど、今出来ることを探す方がよっぽど生産的やな。
帰る方法も、もしかしたらすぐ分かるかもしれへんし。
どうせやるなら楽しんでやれっておじいちゃんの口癖、今ならなんとなくわかる気がする。
「うん、なんか燃えてきたかも!」
意気揚々と気合を入れたその時。
「なにやってんだ、馬鹿かお前は!森に火災が起きてるだろうが!さっさと止めろ」
「火災?!」
頭上から怒鳴られ、樹海を見下ろすと確かに巨大な渦を描いて木々が轟々と燃え盛っているではないか。
あまりにも不自然に燃え広がっている様子は火が意志を持って踊っているかのようにも見える。
「樹海が火の海…」
「呑気に上手いこと言ってる場合じゃないだろ」
「す、すみません」
突っ込みのキレは近所の小学生以上である。
しかし怒られる筋合いはない。
「こんなの私じゃないです」
「いや、お前だ」
「全く身に覚えがありません」
「じゃあ、その右手はなんなんだ」
「え?…そんな」
思わず私は目を疑った。
確かに、セレストの指摘通り、右の手の甲から真っ赤な光を放って、円形のホログラムのような物が浮き出ている。
よく見てみると、緻密な文字が所狭しと並んでいるのだ。
「なんで、こんなものが」
「ミコト…何も身に覚えが無いと言ったな。それはありえない。その魔法陣が出てくるのは、術者が……」
そこまで言ってふと考えこむ素振りを見せるセレスト。
そんな、そこまで言っておいて止めるなんて殺生な。
私は何も分かってへんのに。
そうこうしている間にも、炎はどんどん燃え広がっていく。時は止まってくれない。
あかん、どうやって止めたらいいんや。
魔法陣はいつの間にか消えてるし、でも肝心の森の火は消えへんし。
雨が降れば止まるだろうか。いや、それでは遅すぎる。
よく考えたら“燃える”ということは、この世界には元素が存在するということだ。
こうなるまで全く気が付かなかったが、呼吸も正常にできている。
なら、一番手っ取り早い方法をとるまで。
魔法が使えるなら、これもいけるはず。
今、炎が燃え広がっている範囲を最高濃度窒素ガスで覆って周囲から酸素を奪うことが出来れば、火は一瞬で消えるはずだ。
直径およそ五百メートルの半球。名付けて、窒素ドームって所やな。
「これで!どうや!!」
一か八かの勝負。
右手をかざすと巨大な魔法陣が現れ、プシューッっという軽快な音と共に、炎は呆気なくその姿を消した。
「やった…良かった、これは、私が消したんですよね」
「ああ」
彼はやれやれと言わんばかりにため息をこぼした。
「でも、何故急にあんな火事が起こったのか……」
「何も知らないんだったな。怒鳴ったりして悪かった。俺が真っ先に魔法について話すべきだった。要するにミコトは魔力具現化数値が異常に高いんだ」
「具現化数値?」
「想像したものがそのまま魔法として具現化する能力の高さのことだ。魔術式を構成するとか、呪文を唱えたりしなくても反射的に出てくる魔法だ」
「反射……」
昔から運動神経、反射神経が良いね、とはよく言われてきた。
それは祖父が幼い頃から私に稽古をつけていたことも一因だと思う。
今まで通り良い方に捉えると素質があるということかもしれないが。
「安心しろ。反射でここまでなるのはお前の場合だけだ」
何が安心なのかさっぱりわからない。
「ということは…さっき私が自分に喝を入れた時に、反射的に燃え上がったってことですか?」
「燃えてきたぁ!とか何とか言ってたなそういえば」
「そんな熱血漢っぽかったですか…」
少々セレストの記憶が捏造されているのが気になったが、森を燃やしたのは間違いなく私の責任らしい。
想像しただけでこんな事になってしまうとは、そう考えるとわくわくどころか逆に恐ろしくも思えてくる。
「まあ済んだことは気にするな。これから気をつければ良いだけの話だ。後始末は俺がする」
そう言って黒炭と化した木々の上空をセレストが一周すると、何処からともなく雨雲らしきものが集まってきた。
そして予想通り、しばらく雨が降り続いた。