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脱線と後悔

「別に、ちょっとした考え事をしてただけだ」

 俺はそっけなく、目線をまた窓の向こうに移して答える。

「ふーん。それって、今日の朝と同じ事?」

 麻川はそのままの位置で座ってきた。俺の右隣だ。距離で言うと約三十センチぐらいだ。

「まあ、そんなところ」

「なんなら、私が相談に乗ってあげようか。そしたら少しだけでもその悩みが晴れるかもしれないし」

「お前に言ってもなあ」

「私には言えないことなの?」

「そりゃあ、あるだろう。最近一緒にいると言っても出会ってからまだ一年ぐらいしかたってないし」

 そう、麻川と出会ったのは高校に入ってから。たまたま一緒のクラスで、よく話とか合うので仲良くなった、というか、仲良くなってしまったのだ。

 そして、好きになった。麻川結のことが好きになった。決してひと目惚れというわけれは無いのだ。だからこそ、言いにくいのだ。なんか、ひと目惚れでした! って言った方が素直に言えそう。内面に惹かれました! ってなんか照れくさい。だからこそ、言えない。こいつを好きだなんて。

「そりゃそうなんだけど……。でも、友人として、いつも能天気に笑っている一宮くんが悩んでいるなんて知ったならびっくりしてしまうものだよ」

 麻川は伸ばしていた足を自分の肢体に近づけ、体育座りをする。かわいい。

 というか、

「そんなに俺っていつも悩みがないような奴に見えるのか?」

 俺でもいつも悩みの一つや二つ抱えながら生きているのだが。

「そうじゃなくて、悩みを抱えてても、とってもちっぽけな悩みな感じがする。話せば一分もせずに解決するような感じの物」

「うわー。ひでえ」

 こいつ俺の悩みをこけにするような顔つきで笑ってやがる。俺の悩みは、そんな簡単に言えるものではないんだ! 俺の悩みはネットサイトを何十回も巡回しないといけない悩みなんだ。なのに、なのに、この顔とは!

「だって実際にそうでしょ。どうやったらあのゲームは早く攻略できるか、あのゲームの裏ステージはどうしてあんな鬼畜なんだ。とかいう悩みなんでしょ?」

「…………」

 なぜ、知っている。

「そんなことなら、私はあんたがやっているゲームなんてほぼほぼ持ってるし、ほぼほぼクリアしてるから言ってくれれば教えてあげるのに」

「は?」

 こいつ……なんて言った?

 かわいく太ももを抱えるようにして体育座りをしている、麻川はなんて言った? 

 俺の反応を見るや、少し嬉しそうに彼女は言葉を付け足しながら必要な部分だけを俺に言ってきた。

「だから、言ってくれれば教えるよ。先週発売されたあのネットで鬼畜ゲームって叩かれていたゲームもクリアしたし」

 え? マジで? そういやあ、俺このゲームの発売が楽しみなんだ! とか言ってこいつに無意味にも、そのゲームの詳細が書かれているゲーム雑誌を見せていたが、まさかこいつも買っていたとは……。そしてすでにクリア済みとはどういうことだ!? あれ、本当に鬼畜ゲームなんだよ? 俺、一週間頑張ってゲーム全体の五分の一しか進んでないんだぞ? なのにこいつは……。

「貴様は何者だ」

「麻川結だよ」

「貴様は何者だ」

「麻川結さ」

「貴様は――」

「麻川結だ」

「貴様――」

「麻川結」

「…………」

 俺は、窓の外に向けていた目を移して、麻川を見る。そして、少しだけ頭を下げた。

「すみませんが、そのゲームをクリアできる方法を教えてください!」

「よかろう」

 そのあと俺と結は俺の家に行って、明日学校もないということもあり、寝落ちするまでゲームをすることになる。



「やってしまった」

 俺は起きてからそう言った。ただいまの時刻午前5時。昨日、優月に死を宣告されたのが午前7時。俺が死ぬまで、あと2時間だった。

予定では次の話で完結します

なんでこんなに馬鹿な奴に育っちゃったのかな……叶祐

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