無理難題なミッション
「突然出すが、明日、あなたは死にます。これは紛れもない現実です。ですから、あなたの人生に後悔がないようにこちらで考えさせていただいた、たったひとつのミッションをあなた様にクリアしてもらいたいと思います。なに、簡単なものですから、それをクリアいたしましたら残り少ない寿命を楽しんでください」
朝起きたら突然俺はなぜか、俺のベットのとなりに座っていた名前も知らない少女にそう言われた。
「ふぁぇ?」
よくわからない上に寝起きの俺はとても間抜けな声を出してしまった。恥ずかしい。
「なんという間抜けな声を出しているのですか。あ、それとも私が今言ったことをもう1回言いましょうか? 理解ができないと言うことですね? 言えばいいのですね? わかりました、言いましょう。突然出すが、明日、あなたは死にます。これは紛れもない現実です。ですから、あなたの人生に後悔がないようにこちらで考えさせていただいた、たったひとつのミッションをあなた様にクリアしてもらいたいと思います。なに、簡単なものですから、それをクリアいたしましたら残り少ない寿命を楽しんでください。はい、言いました。これで満足ですね? おkですね?」
「いや、満足じゃないし、おkでもないんだけど!!」
少女のあまり抑揚のない言葉と、訳のわからない宣言にたいして俺は混乱と怒りを覚えながら、少女にツッコミをいれた。
「え? 説明が足りませんでした? ちっ……物覚えの悪い小僧だな。ではもういっ」
「いや、そういうことじゃない!! そうじゃない!! あとなんか暴言みたいの聞こえた!!」
「え? 違うのですか? てっきり物覚えが悪くて、なん10回も説明聞かないと物事が覚えられないクソ野郎だと思いましたよ」
「あ……さらに暴言に拍車がかかりやがった。そういうんじゃないんだよ。なんで俺が明日死ななくちゃいけないんだよ! そもそもお前はなんなんだ!? なんでお前なんかにミッションなんて課せられなくちゃいけない? それに」
「あーあーあー!! もううるっさい! 黙れや!! そんなに質問攻めされても一気に全部は答えられないぞ!!?」
俺が混乱して質問攻めしたら少女が遮ってきた。しかも俺の胸ぐらを掴むという行動つきだ。それに首筋に血管が浮かんでいる。どれだけ怒ってるんだ。この少女は結構な短気らしい。
「でも」
少女はなにか思うところがあったのか、言葉と共に俺の胸ぐらを掴んだ手を離す。そして俺のことなど見向きもせずに、自分のみなりを整え、よし、といってから少女は可愛らしい外見からは想像もつかない大人っぽい声を出し始めた。
「確かに、名前を名乗らなかったのは悪かったな。私の名前は優月、優しい月と書いて優月。よろしく」
「え? 他に言うことは?」
「ない、以上だ」
きっぱりと言われた。こんなにきっぱり言われるとむしろ清々しい。少女は言葉を続ける。
「じゃあ、お前にこれから約24時間、だから1日ですね。その時間でクリアしてもらうミッションを出だします」
「唐突だな」
「だって早くしないとあなた死にますからね」
少女、優月は笑顔だった。
「お前には躊躇や遠慮といった文字はないのか」
「無いです。そんなのとっくに底無し沼と富士山のマグマに捨ててきました」
「うわお、それはすごいや」
もう俺は優月に勝てないということを確信した。強すぎる。
「では、あなたにかせられたミッションを言いますね」
「おう。何でもかかってこいや!!」
俺はア○トニ○猪○みたいな感じの口調と姿勢で構える。
「キモいです。では、言いますね。あなたにかせられたミッション、それは」
「それは……?」
俺は固唾を飲む。
そして、優月から出た言葉は予想だにしない、俺にとって最大の難題で、そりゃあもう一生俺には到底クリア出来ないであろうモノだった。
「あなたが密かに思いを寄せている少女、麻川 結に告ってください。これがあなたにかせられたミッションです」
「は、はああああああああああああああああああああああ!??」
「煩いですね。耳が痛いです」
優月は顔をしかめながら耳を塞ぐ。
「あ、そうだ。これ、言うの忘れてました」
演技感満載で優月は笑う。そしてその後に心からの満面の笑みを浮かべるのだった。
「あなた以外に私の姿は見れないので、聞こえないので、大声で叫んだり、話したりしても構いませんが、不審者扱いになったり、怒られたりするのは自己責任なのでよろしくお願いしますね。バーカ」
「…………。は?」
嫌な予感がした。ドタドタと誰かが階段をかけ上がる音が聞こえる。そして、唐突に俺の部屋の扉が、ハリセンを持ったある女性によって、バンっととてもでかい音付きで開かれた。
「叶佑! あんた一体絶対こんな朝になんてでかい声だしてんの!! うっせーよ!! ご近所迷惑だよ!」
「母ちゃん! いや、それは、なんというか…………あ、あああああああああああああああ!!!!」
そのあと俺は母ちゃんにとてもしかられた。
「いやー! ドンマイですねー! バーカ」
優月がニヤニヤと俺を見る。殴りたい。そんな俺は、学校にいくため色々支度をしている。俺の頭にはタンコブができていた。
「誰のせいだと思っているんだよ」
「お前のせいです。知ってます? タンコブって脳の毛細血管が切れて内出血したものらしいですよ。ご愁傷さまです」
相変わらず嫌みをいってくる。こやつは……。怒りが沸々とわいてきたが、さっき俺がこの人に勝てることはないと証明されたので、もう何も言わなかった。
「じゃあ、学校行ってくるから」
俺は優月に素っ気なくそう告げる。
「はい。では私はあなた様を見えないように監視しているので。いってらっしゃいませ」
「ついてこないのか。てっきり一緒に来ると思ったんだが」
「何をおっしゃいますか! 私が興味も欠片もないあなた様になんでストーカーじみた感じでついていかなくてはいけないのですか!」
彼女の演技かかった行動と共に発せられた言葉は俺の心に傷を作るのには容易いようだ。胸になんか刺さった感じがしてとても痛い。
「では、いってらっしゃいませ」
彼女は手を降る。俺が玄関の扉を開き、閉じると同時に優月が言ったことはこれの耳にしっかりと届いた。
「最後の人生存分とお楽しみください」
玄関のドアがしまり、辺りも静まり返る。私は玄関の入り口付近につっ立っている。
「……。行ったか。さーて、今回の者の命はどうなるのだろうか。一宮 叶佑、16歳、男、黒の襟足まである髪、目は黒く、端整な顔立ちを持っているが自分は中の下だと思っている自己評価が低いバカ。成績は中の上、高校二年か。まーたなんでこんな若い命が狙われるのかな。バカめ。もっと命は大切にしたらいいのに」
私は一人でそんなことをぶつぶつ言ってからその叶佑の監視を始めた。
たぶんすぐ終わる。きっとそう。この物語はそんなに続かなくていい。そんな話です。




