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「え?」
私は、呆然と目の前の光景を見ていた。何が起こったのか分からない。少しの間をおいて、船の残骸が海に落ちてドボドボと音を立てた。
「はあっ!?」
私ははっとして手前の船の間を抜け、砂浜の波が打ち寄せる辺りまで出る。後ろの方から、大勢の人が向かってくる音がする。
「Gugaooooooooooo!」
「何、あれ……」
波間から現れたのは、蛇に良く似たシルエットの何かだった。ギザギザの鋭い歯に、青い鱗。そして、こちらを睨みつける瞳孔が縦に割れた黄色い目。間違いなく、強敵だ。威圧感のようなものを感じるけれど、スライムの大群のときのような絶望感は感じない。それが救いだった。
「あ……」
海が赤く染まっていく。それに冷や水をかけられたような気分になり、一拍置いて怒りで血が頭に上った。
「食らえっ!!」
一瞬で十発の魔弾を形成し、奴の頭に向かって射出。万が一にも避けられないように、そこそこの範囲でばらまく。すると、ドンッという音がした後、奴の頭は消失し、残った部分が海に落ちて水しぶきを上げた。
「…………」
空しい。誰か分からないけれど、あの血の量では急がないと助からないだろう。そして私は海に入れない。靴が浸かっている現状でももの凄い不快感、いや本能的な拒絶感を感じる。入れば、多分死ぬ。悔しくて奥歯を強く噛む。やはり、私は無力だ。目の前を強くにらみつけていると、何隻かの船が海に繰り出していった。多分助けにいくのだろう。
「どうか……」
助かってほしい。手を合わせて祈っていると、背後から声をかけられた。
「おい、嬢ちゃん。邪魔だからどいてくれ」
「あ、すみません」
すぐに船の後ろまでかけていく。いつの間にか、砂浜には大勢の人が集まっていた。振り返って海の方を見ると、上半身裸の男が何人かで船を押して、勢い良く海に繰り出していく。同じようにして何隻も海に漕ぎ出していく。良く見てみると、銛を構えている人もいる。他に奴みたいなのがいないのか警戒しているのだろう。
「あ……」
そうだ、私には魔弾がある。万が一にも奴の仲間が出てきたら、ここからでも蹴散らしてやる。睨みつける視線は、前のものと違った意味を持っていた。
「見つけたぞ!」
「大丈夫か!」
歓声が船上から上がるのがかすかに聞こえ、背後から祈るような声が聞こえる7。
「こっちもいたぞ!」
続々と上がる歓声に内心喜びながらも、警戒を強める。
「全員か!? これで全員だ!!」
全員見つかったみたいだ。砂浜側でも、歓声が上がった。
「良かった……」
声の感じからして、全員助かったのだろう。本当に、良かった。
「嬢ちゃん、災難だったな」
泣きそうになっていると、後ろから声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、日に良く焼けた老人がすぐぞばに立っていた。すごい肩の筋肉だ。杖をついているのは、足を悪くしているからか、年のせいか分からないけれど、そのどちらも感じられない不思議な貫禄がある。
「観光か何かで来たのだろうが、こんなことに巻き込んでしまって……。先ほどは、助かった。感謝する」
そう言って老人は頭を下げた。どうやら私が魔弾で奴を倒したのはばっちり見られていたらしい。
「いえ、当然のことをしただけです。それに……」
いや、これ以上は高望みだろう。海中にいるやつに気付けるほど私の索敵能力は高くない。
「なに、お前さんのお陰で全員助かったのだ。それに、あいつとやり合っていたらもっと犠牲が出ていただろう。村を代表してお礼を言う。いや、言わせてくれ。ありがとう」
老人はますます深く頭を下げる。それに気が付いたのか、村人たちも頭をさげた。私は、なんだかいたたまれない気持ちになって、両手を振る。
「だ、だから当然のことだって。それに、今は生き残った人の治療が優先でしょ?」
そう言うと、老人は納得してくれたのか顔をあげた。
「その点は大丈夫だ。戦うつもりだったから、船に治癒魔術師が乗っているからな」
治癒魔術師、というのは響きからして治療を得意としている魔術師のことだろう。
「なら大丈夫ですね」
それなら、怪我した人も多分助かるだろう。
「ああ。これ以上の立ち話も何だから、村まで来てくれ。ほら、終わったんだから、散った散った」
老人が言うと、村人たちは何人かを残して村に帰って行く。もしかして、この老人って偉い人なんじゃ……。
「自己紹介が遅れたな。俺は、この村の村長をしているガルだ。お前さんは?」
やっぱり偉い人だった。私は、少し硬直してから答えた。
「私はトーレです。異邦人で魔術師をしています」
「そうか。それなら納得だな」
ガルはしきりにうなずいている。
「で、どこまで行くのですか?」
「ん? ああ、ここだ」
ガルが指差した先には、一回り大きな二階建ての建物があった。
「とりあえず、中で茶でも飲もうか」
「……それよりも、用件をお願いします」
私を連れてきた、ということは何か用件があるのだろう。
「……ああ、簡単に言うと、お前さんに渡す報酬の話だ」
「ああ、その話ですか」
特にそんなこと考えずに動いていたので、そう言われても特に欲しいものはない。そう言うと、ガルは困ったように笑いながら言った。
「そう言われても、デス・シーサーペントを倒してもらっておいて何もなし、という訳にはいかん」
「デス・シーサーペント?」
シーサーペントはこの辺りの海で出会ったら終わり、と言われるモンスターで、その中でもデス・シーサーペントは特にやばいやつらしい。成長したやつは小島を沈めたりとか、海軍の艦隊を壊滅させたりとか簡単にしてしまうらしい。
「まさに天災だ」
その一言が全てを物語っている。
「……でも、そんなやつがあっさりとやられて良かったですね」
「そうだ。だからこそ、ちゃんと報酬を渡さんといかん」
「なるほど」
確かに、それで報酬を渡さないと村の沽券に関わる。と同時に、厄介でもある。そんなやつを倒してしまった訳だから、当然報酬も膨大なものにせざるを得ない。だけれど、それに見合う報酬はこんな小さな村には無いだろう。
「だが、こんな小さな村ではそれに見合う報酬を用意出来ん」
ガルが言ったことは予想通りのことだった。
「……それは困りましたね」
「ああ」
本当に困った。正直別に報酬とかいらないけれど、もらわない訳にはいかない。さて、どうしようか。
しばらく二人でうなっていると、ふと名案が浮かんだ。
「あのですね……」
この先の投稿は未定です。
読んでくださっている皆様には迷惑をかけてしまいすみません。




