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異なる空の下で  作者: ネムノキ
温泉な四週目

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 門を越え、飛び石の道を少し進むと、大きな屋敷が松の間から現れた。入る前にクールの生活魔法で体温を下げ、クリーンの生活魔法で服を綺麗にする。一発で汗染みが無くなった。生活魔法様々だ。

「いらっしゃいませ」

 木製の引き戸を開けて中に入ると、桃色に梅の花が描かれた和服を着た女性が出迎えた。髪の毛の盛り方が時代劇みたいで、内心でくすりと笑う。

「お一人様でしょうか?」

「はい。ここに良い温泉があると聞いてやってきました。それで、私でも入れますか?」

 ゼンガミの温泉ではお湯に浸かるまで入れないと分からなかったので、あらかじめ聞いておく。

「こちらの温泉はお肌に良いですし、エントの方でも入れますよ」

「そうですか」

 やった、ようやく温泉に入れる。私は思わず笑みを浮かべた。

「それで、今日はお泊りになさいますか?」

「はい、二泊お願いします」

「お部屋の方は松、竹、梅と三つの等級がございますが、どれになさいますか?」

 私は、言葉に詰まった。良く回りを見ると、料金表が見当たらない。もしかして、もの凄く高いんじゃないか。今更そんなことに気が付き、冷や汗をかく。

「……すみません、こういう所に来たことが無くて……。大変失礼なのですけれど、予算一万ゴールドで一番良いお部屋をお願いします」

 散々悩んだ末、そう言った。なんだかルール違反してるみたいな気分になる。でも、女性は嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。

「そうですね。では、竹でしたら二泊で八千ゴールドになりますが、どうでしょうか?」

 大体現実で八万円くらい、といった所か。確かに、高い。予算が足りたことにほっとしながら答える。

「じゃあ、それでお願いします」

「かしこまりました。では、こちらになります」

 そのまま女性について行く。今日はあまりお客さんがいないらしく、従業員らしい黒い羽織りを来た男性も黄色の和服を着てシーツを運ぶ女性もどこか動きがゆったりしている。

「こちらになります」

 二階に上がり、案内された部屋は、ドアに 『竹―弐』 と書かれた部屋だった。

「お食事は何時になさいますか?」

「七時でお願いします」

 普段泊まっているウラノスの宿屋で夕食を食べる時間が大体これくらいだ。

「かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」

 鍵らしき黒色の板を受け取ると、女性は一礼して去っていった。

「さて、と……」

 普段泊まっている宿では普通の鍵だったし、正直こんなものを渡されても、どうすれば良いのか分からない。なんとはなしに板を観察すると、わずかな魔力を感じる。

「んー?」

 似たような魔力をドアノブの上から感じる。そこを見ると、魔方陣があった。術式の意味は何かを動かすことくらいしか分からないけれど、なんとなく結界に関係していることが分かる。

「なるほど、結界と物理両方でロックしてるのか」

 板を魔方陣にかざすと、ガチャリ、と音がした。ノブを回すと、確かに空いている。

「おじゃましまーす」

 予想が正しかったことに喜びながらドアを開けると、目の前にふすまがあった。

「あ、下駄箱、か」

 ブーツを脱いで、左手にある下駄箱に入れてふすまを開くと、イグサの匂いが飛び込んできた。

「うわあ……」

 後ろ手にドアを閉めると、鍵の閉まる音がする。目の前のガラスの向こうでは、海の青と山の緑が競演していた。

「綺麗……」

 これは、散々歩いた甲斐があった。そう思えるほど、眼前の景色は綺麗だった。広い海原に、右手側から緑が突き出していて、端の方はがけになっている。秋になったら、紅葉との競演になってますます綺麗になるだろう。そう確信出来るような風景だった。さらに詳しく見ようと窓を開けて顔を出すと、不快な潮風が吹いてきて顔をしかめる。

「……これも種族特性のせい、かな?」

 おのれ種族特性。内心悪態をつきながら窓をしめる。

「さて、と」

 急須と湯飲みに茶葉の入った小箱の置かれたちゃぶ台の前に座り、無限収納から昨日泊まった宿屋で握ってもらった筍の皮に包まれた玄米のおにぎりを取り出し、景色を楽しみながらほおばる。

「すっぱ!」

 中身は梅干しだったようで、塩気のすっぱさとシソと梅の風味が口いっぱいに広がる。コンビニやスーパーの梅干しみたいに甘くない、本物の梅干しのすっぱさを楽しみながら食べる。これで潮風に不快感がなかったら、窓を全開にして楽しめたのに。

 残念に思いながらあっという間に二個のおにぎりを食べ終えた。

「うーん、いい匂い」

 イグサの匂いを楽しみながら、畳に転がる。一人で泊まるにはなかなか広い部屋で少し寂しい。ゴロゴロと行儀悪く転がっていると、鳩時計が鳴った。

「んーと、二時、かあ」

 思ったよりも時間が経っている。

「さて、どうしよう?」

 正直、やることが無い。

「……もう温泉開いてるかな?」

 備えつけられている手ぬぐいを手に部屋を出る。玄関の方にあったカウンターまで行き、尋ねてみると三時から開いているそうだ。

 三時まで適当にゴロゴロして時間をつぶし、温泉に向かう。湯着を抱えているのは、単なる気分だ。想像以上の広さに少し迷子になりながらも、なんとか浴場に着いた。

「さて、どんなのかなー?」

 期待に胸を膨らましながら、浴場ののれんをくぐった。


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