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二十回目のログイン。
朝からおいしい味噌汁とご飯を山盛り堪能し、村を後にする。昨夜雨が降ったのか、木々が濡れていて、嬉しそうに風に揺れている。空には名残なのか、いくつか大きな雲が白く太陽に照らされていた。
「いーい天気だ」
歩道は土で出来ているせいで所々水溜りになっているけれど、皮の靴は水を通さず、パシャリと凪いだ水溜りを荒らす。時々雫が落ちて来ては髪の毛を濡らし、心持ちしっとりしてきた。葉っぱをちぎってしまわないよう注意しながら軽く手櫛で整え、そういえば前も櫛が欲しいと思った気がした。まあ、この諸島に来た記念に帰りにでも買えば良いだろう、と考えてからあまりお金がないことを思い出す。まあ、無いとは言っても二万ゴールド近くはあるので、買えないことは無いだろう。
「でも、何で歩道は土なんだろう?」
いい加減水溜りを荒らすのにも飽きてきた頃、疑問が浮かんだ。どうせ整備するなら、馬車道だけでなく歩道も石造りにすれば良いのに。それが出来ない、ということは予算が無かったのか、面倒臭かったのか。分からないけれど、いい加減水溜りも鬱陶しくなってきた。
ふと歩きながら足元に目をやると、茶色の革靴は泥でよごれているし、ズボンの裾も汚れている。街か村かは分からないけれど、着いたら綺麗にしないと。
「ま、でもこのくらいなら全然許容範囲だけどね」
ようやくお目覚めなのか小鳥がチュンチュンと鳴き出す。可愛らしい鳴き声に癒されながら進むと、右手側からわずかにガザゴソと音がした。風の音とはテンポが違う。警戒しながら進むと、ちょうど音がした所の真横に来たところで、何かが飛び出してきた。ほとんど見もせず二十発のシュートを散弾のように放つ。
「ギェッ!?」
「グガッ!?」
そいつは、汚らしい鳴き声を上げて消滅する。そちらに目をやると、奇襲が失敗したことに驚いているのか、目を大きく見開いたゴブリンが四体もいた。それを視認した瞬間にシュートを一発ずつ額に叩き込み、消滅させる。
「……せっかく良い気分だったのに」
お陰で台無しだ。小鳥も驚いてどこかに行ってしまった。
「はあ……」
大きくため息をはいて、進む。十分も進めばまた小鳥が鳴き出し、気分が上向きになる。我ながら現金なものだ、と苦笑しながら進むと、遠くの方に白い煙が見えた。
「何だろ?」
首をかしげて考える。時間帯的に、少し早めの昼食の準備といった感じかな?
「ということは、あそこが例の温泉のある場所かな?」
その予想に足取りが軽くなる。
そこから一時間も歩くと、視界が開けた。
「うわあ……」
まず眼に飛び込んできたのは、青い海と強い日差し。小さな船が幾つか浮かんでいて、眼前から吹く塩気を含んだ風に髪が揺られる。それを少し不快に思うも、感動のほうがはるかに大きい。そして、眼下に視線を移すと、稲が青々と生い茂った棚田がしばらく続いた後、瓦屋根に木造の建物が立ち並んだ村があった。
「温泉はどこかなー」
キョロキョロと見回してみるも、それらしき場所は見当たらない。
「……ここで合ってるよね?」
少し不安になる。まあ、合っているかどうかは聞けば分かるだろう。そう思って山を下る。途中で田んぼの中で何かしている人が手を振ってきたので振り返す。その人からは温厚そうな雰囲気が漂っているし、ざっと見た感じこの村から排他的な感じはしない。
村に着くと、お昼時のせいもありあちこちからおいしそうな匂いが漂ってくる。お預けを食らった気分になりながら食堂か観光案内所を探すも、それらしき場所は見当たらない。
「はあ……」
砂浜近くまで来て、ようやく案内所を見つけた頃には、すっかり満腹度が減っていた。潮の匂いが強くなったせいで、不快感も増していた。
「すみませーん」
そう声をかけながら案内所に入る。
「はいはーい」
すると、日に良く焼けたいかにも海の男、といった感じの人が奥から出てきた。
「すみません、ここに良い温泉がある、と聞いて来たのですが」
カウンター越しに言うと、男は愛嬌のある笑みを浮かべた。
「ああ、嬢ちゃんも温泉目当てか。この前の道を南へ少し行くと、村を少し出た辺りで右手に山の方へ向かう石の階段があるから、そこをずーっと登っていくと、漆喰の大きな建物がある。それがお目当てのサンジン温泉だ」
ここに来てようやく温泉の名前が分かった。
「分かりました。ありがとうございます」
「いいってことよ」
案内された通りに砂利道を進む。ここは漁師町なのか、浜辺に底の平らな船を良く見かけるけれど、この時間はあまり人を見かけない。結構すぐに村を出て、本当に出てすぐの所に右手に石で出来た階段が現れ、そこを登っていく。
「ふう……ふう……」
降りてきた所と違って結構急なので息が荒れる。始めの方は村を見渡す余裕があったのだけれど、すぐにそんな余裕がなくなり、汗が噴き出す。太陽がじりじりと髪の毛を焼き、頭が熱い。途中でローブを無限収納に閉まって登り続ける。
「ここか……」
ようやく白い壁が見えた頃には、カーキ色の服は汗で濡れていた。




