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異なる空の下で  作者: ネムノキ
温泉な四週目

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39

 十九回目のログイン。

 ゼンガミは山の中腹くらいにある典型的な温泉街といった感じで、蒸気と硫黄の匂いがいたる所から噴き出している。その北の山頂側に魔術師ギルド本部があり、山が噴火した時の盾になるそうだ。実際今までに三回火砕流を受け止めているらしい。その関係からか、特に防御魔術の最先端を行っていて、それにつられる形で攻撃魔術も発展していった結果、世界でも有数の魔術都市になったそうだ。

「その割には、結構こじんまりしてるよね」

 大きな饅頭を無限収納に入れながらつぶやく。街の南側は純粋に観光地、といった感じで旅館や土産屋が立ち並んでいる。そのどれもが白塗りの和風建築で、行き交う人も和服でなんだか新鮮に感じた。

「日本国内はあんまり見て回ってなかったからかな?」

 どちらかというと、西洋風、それも近代的なコンクリートの建物の方が見慣れているので、旅館の全面畳がひかれた部屋なんかは、イグサの匂いにかなり驚かされた。テレビで見た外国人観光客の反応よりはマシだけれど、それでもあまり日本人らしくない反応だったと思う。

「でも、こんなに硫黄の匂いって不快だったかな?」

 昔かいだ硫黄の匂いを思い出すけれど、こんなに不快には感じなかったと思う。いや、そんな言うほど不快な訳ではないけれど。

「これも種族特性、かな?」

 温泉地には草木が生えにくいから、植物系の種族であるエントにはきついのかもしれない。

「ん? じゃあエントも入れる温泉ってどんなのだろう?」

 疑問が浮かぶけれど、すぐに忘れる。どうせ、行けば分かるのだから。

「……アマラも一緒ならなあ」

 アマラは、黒の塔に登録した後は、すごいはしゃぎようで書庫にこもっていったので、残念ながら一緒じゃない。

「ま、仕方ない、か」

 ルフがこの街に滞在するのは一週間ほど。例の温泉のある街までは片道二日くらいかかるらしい。向こうで一日ゆっくりするとして、移動も含めて計五日。メンテナンスで一日こっちにいられないから六日。予備を見ると、結構ギリギリなスケジュールだ。

「ま、最終なるようになれ、だけどね」

 南の比較的低い城門を抜けて街道を行く。低木と小さなススキみたいな雑草が左右に生い茂った街道は、土の歩道と石造りの馬車道に分けられていてその歩道も結構広く、様々な格好をした人々が行きかっている。その誰もが剣や装飾のなされた杖を持ち歩いているのが印象的だった。あいにくと私のナイフはローブの下に隠れているので、なんだか疎外感を感じる。時々すれ違う馬車の中には、馬ではなく大きなトカゲやダチョウみたいな鳥に引かれているものも多く、流石ファンタジー、といった感じだ。

 私の前を行っているのは、旅塵に汚れてはいるけれど、それでも白いローブに身を包んだ一行だ。二十人くらいが全員同じ格好で同じ杖を携えているから、何らかの集団なのだろう。

「……平和だなあ」

 空は薄曇で歩きやすく、遠くで鹿が草を食んでいる。時折風が頬をなで、草がそれに揺れる。本当、のどかで平和だ。

「……ん?」

 でも、そうは問屋が卸さない。森が見えてきた辺りで、ドスドスと足音が聞こえてきた。前方の集団がざわめいて立ち止まった。私もそれに合わせて立ち止まる。

「ガアアアアアアアアア!!」

「お、オーガだ!」

 前方の集団は悲鳴を上げながらも隊列らしきものを組む。足が震えていて見ていて不安だ。木々の間から勢い良く現れたのは、緑色の肌に額に大きな一本角を生やし、二本のキバが唇から覗く、身長三メートルくらいの巨人だ。振り上げた右手には倒木をへし折った感じの棍棒を持っている。下半身は前方の集団のせいで見えないけれど、少なくとも上半身には何もまとっていない。

「あれがオーガかー」

 対する私は全く動じていなかった。というのも、オーガから感じられる魔力がそれほどでもなく、あまり危険を感じなかったからだ。人型なので最悪柔術で投げれば良いか、という楽観的な考えもある。前方の集団が何人か腰を抜かしているのがおかしく感じ、不謹慎にくすりと笑う。

「じゃ、力試しにいっちょやりますか、っと」

 用意するのはいつものシュート一発。それをオーガの左目に向けて放った。

「ゴハッ!?」

 オーガは顔に大穴を空けて仰け反り、たたらをふんだ後ドスンッと大きな音を立てて仰向けに倒れた。

「……え?」

 前方の集団の何人かがこっちを見てくる。結構美人揃いだ。何かこそばゆいものを感じながら、言った。

「あのー、もしかして、余計なお世話でした?」

「い、いえいえ滅相も無い!」

 その中で一人だけ金糸の刺繍がなされたローブを着た人物が言った。耳に良いアルトボイスだ。

「す、凄い……」

「あのオーガを一撃で……」

「一体何者なんだ……?」

 集団は全員私を見てざわめいている。恥ずかしいものを感じながら尋ねた。

「私はトーレと言います。貴女は?」

「し、失礼しました」

 アルトボイスの彼女は身を整える。

「私は 『自然派』 の神官であるアシーナです。先ほどはありがとうございます」

「いえいえ」

 その後、彼女達と一緒に森の間の街道を進む。彼女達は、この大陸で唯一の宗教組織である 『教会』 のシスターで、修行の旅の最中なのだそうな。

「へー。それで、ここら辺って、オーガって良く出るのですか?」

「いえ、オーガはもっと北の方に湧くので、おそらくさまよって来たのでしょう」

「ふーん」

「貴女がいなければ、私たちの半分は奴の餌食になっていたでしょう」

「そんな大げさな……」

 シュート一発でやられるような奴が、そんなに強いのだろうか?

「……一応、オーガは小隊級のモンスターで、訓練された騎士三十人くらい、余裕を見れば五十人で当たるのが普通の相手で、普通はタダのシュートでやられたりしませんよ?」

「ふーん」

 そう考えると、騎士って街の衛兵より弱いのかな? あまり期待出来なさそうだ。

「……とにかく、ありがとうございます」

「いえいえ。で、貴方達はどこに向かっているのですか?」

「この街道を真っ直ぐに行った所にある、ダイモスという街です」

「じゃあ、途中で分かれることになりますね」

「トーレさんはどこに向かっているのですか?」

「何でも、この街道をずっと行って、一番目の東に行く街道をずっと行った所に、エントでも入れる温泉があるらしくって、そこを目指しているんですよ」

「最近噂の所ですね?」

「噂?」

「ええ、何でも、お肌に良い、とか」

「ほう……」

 それは良いことを聞いた。

「あ、ここを行くのか」

 そんなことを話していると、すぐに曲がる所に着いてしまった。

「では、お別れですね」

「そうですね。では、また」

「はい。貴女の前途に神々の加護のあらんことを」

 私は、手を振ってアシーナ達と別れた。

「ここからは一人、か」

 誰もいない広い街道を一人で進む。少し、寂しい。


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