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最近スランプです
十八回目のログイン。
「ふんふんふんふーんふーん」
私は、鼻歌を歌いながら街を東に進む。狩猟ギルドで受け取った防衛戦の報酬が結構良い値段、訂正。びっくりする値段だったので、それでローブを買おうと思ったのだ。
「にしても、びっくりしたなあ」
驚いたのは、スライム素材の買取価格だ。一個十ゴールドで買取だったのが、十分の一まで下がっていた。まあ、嫌と言うほどスライムはいたので、当然といえば当然だけれど、流石に下がりすぎな気がした。それでも、素材だけで二十万ゴールド以上稼いでいたので、背筋に冷たいものが走った。
そして、着いたのはいつもの 『ガーデルマン服飾店』。
「いらっしゃいませ」
良くお世話になる犬耳で足の細い店員が出た。それになんとなく感動しながら、用件を告げる。
「あのー、ローブ、ってありますか?」
「はい、ございます」
少し奥に案内されると、様々なローブが置かれていた。
「うわあ……」
どれもデザイン自体はシンプルだけれど、様々な刺繍がされていたり、色が色々あって見ているだけで楽しい。
「ん?」
その中で、壁にかけられたあるローブが目に入った。
「これは……」
ロシアの針葉樹林を連想させる深緑色に、袖や裾のところに金糸で茨の紋様が描かれている。決して可愛くはない。だけれど、不思議と琴線に触れた。
「すみません、これ……」
「流石、お目が高いですね。こちらは肌触りが良く同時に防刃製の高いクイーンアルケニーシルクと、最先端魔導工学の結晶である魔力伝導性と対衝撃、耐火性に優れたミスリルカーボンを使用し、また自動修復、自動洗浄、環境適応、動き阻害防止、対魔術、対ブレスのエンチャントがなされた一級品となっております」
聞くからに高そうなローブだ。だけれど、欲しい。
「それで、値段の方は……?」
「百二十万ゴールドとなっております」
高い。それも、ものすごく。だけれど、買えないことは無い。その代わり、すっからかんになるけれど。
「正直申しまして、作ったものの買い手がつかず不良在庫となっているのでこの値段まで下がっているのです」
「買います」
私は即答した。こんな良いもの値段が下がっているのに買わない訳が無い。
「ありがとうございます」
買うのは決定したけれど、今着ている服とは合っていない気がした。なので、今は買えないけれど、一応尋ねた。
「それで、このローブに合う服はありますか?」
すると、店員は顎に手をあててしばらく考え込んだ後、こう言った。
「残念ながら、ここまでのものになると、合うものは現在ございません。何より、素材が滅多に手に入らないので作りようもありません。大変申し訳ございません」
「……そうですか」
私は、ガックリとうな垂れた。でも、希望はまだある。
「……もし、素材が手に入れば、作れますか?」
「もちろんです」
店員は胸を張って言う。なるほど、それだけの自信と自負があるのか。私は嬉しくなった。
「分かりました。ありがとうございます。それと、これください」
適当にオリーブ色のローブを選び、それと共に会計する。一気に少なくなったゴールドに心の中で涙を流しながら支払い、今までのとは輝きが違う紙袋を受け取る。
「今、着てみても良いですか?」
試着室を借りて高い方のローブを着てみるも、今着ているカーキ色の上下とのアンバランスさが滑稽だったので、結局無限収納に入れることになった。オリーブ色の方はまだ違和感が少なかったので、それを羽織る。
「ありがとうございました」
店を後にすると、時計は九時五十分になっていた。
「わっ!?」
私は慌てて魔術師ギルドに向かう。重たいドアを開けると、そこにはもうアマラとルフがいた。
「すみません遅くなりました」
「なに、間に合っておるぞ」
「おはよう、トーレ」
ルフはいつも通りだったけれど、アマラはカーキ色の上下にすねを完全に覆う固そうな茶色のブーツと、お腹まである皮鎧とその上か一体になっているのか胸のところをつや消しのされた金属鎧で覆っており、肘の辺りまである茶色の指ぬきグローブをして、その上から新緑のような緑色のマントを羽織っていた。マントの影から見えるウエストポーチは変わっていないけれど。全体的に金色の髪と良く調和しているように感じた。
「おはよう、アマラ。良く似合ってるね」
「そう? ありがと」
アマラはまんざらでもなさそうにうなずいた。
「トーレはローブ買ったんだね。本格的に魔術師、って感じになってきたね」
「えへへ。本当はもっと凄いの買ったんたけど、服と合わないから着てないの」
「そうなの? 見せてよ」
「良いよ」
「……姦しいのは結構じゃが、もう行くぞ」
ルフが口を挟んできた。せっかく良いところだったのに。
「……はーい」
「分かりました」
「では、こちらに寄れ」
ルフの言葉に従って寄る。
「では、行くぞ」
そうルフが言った瞬間、目の前が真っ白になり、一瞬した後には私たちは山あいにある湯気の立ち上る街を見下ろしていた。
「ようこそ、ヤマタ諸島、温泉の町ゼンガミへ」
辺りには、硫黄の匂いが立ちこめていた。




