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異なる空の下で  作者: ネムノキ
イベントな三週目

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32

 遠くから、地鳴りが聞こえてくる。

「何だ?」

 誰かが遠くでつぶやいた。平原を睨んでいた私は、遠くの大地が盛り上がっていくのを見た。

「おい……、嘘だろ」

 右隣の男性がつぶやく。私も、目の前の光景を信じたくなかった。

 それは、別に大地が隆起した訳じゃなかった。ただ単に、こっちに向かってきているたけだった。

「こんなの聞いてねえよ!」

 遠くから嘆きが聞こえてくる。私だってこんなの聞いてない。膝から崩れ落ちそうになるのをなんとかこらえる。

 それは、巨大な壁だった。山脈だった。都市を飲み込むような津波のように思えた。

 それは、それほど多くの、スライムの群れだった。

「各自構え!」

 いつか聞いたことのある声が響く。多分、狩猟ギルド長のエイブだろう。その声にようやく役割を思い出したのか、魔術師たちが杖を手にする。

「よしっ!」

 私も気合を入れ、落ち着くように深呼吸する。遠近感の狂いそうなスライムの壁をにらみ、ある魔術を発動する。

「【魔力回復結界】!」

 すると私から半径二メートルほどの部分が幾何学模様を描きながら光る。

「な、何だ!?」

 右隣の男性が騒ぐ。正直うるさい。左隣の赤いローブを着た女性の落ち着きを見習って欲しい。

「ただの結界ですよ」

 そう口にする。発動したのは、結界術の魔導書に載っていた魔術のひとつだ。結界内にいる人物のMP回復を早める効果があるらしい。効果の程はわからないけれど、とりあえずぶっつけ本番ながら何らかの結界は発動したようだ。

 そうこうしている間にスライムの壁が五百メートル先まで迫る。

「ひいいっ!?」

 情けない悲鳴がどこかからか聞こえる。確かに、凄い迫力だ。だけれど、ここまできたらそんな余裕無いだろう。

「黒の塔員、構えー!」

 遠くからエイブの声がする。私は、さっさと魔術を待機させる。スライムの壁は、三百メートルまで迫っていた。

「撃て!」

 その声と同時に、様々な光が壁に向かって飛んでいき、着地と同時に破壊を撒き散らす。私の魔弾なんかは、結構地味な見た目だ。なんか悔しい。

「すげえ……」

 その代わり、破壊力だけは誰よりもあった。他の部分では少し進行が遅くなる程度なのに、私の前かなりの範囲だけ進行が止まっている。

「どんどん行くよ!」

 私は、周囲を気にせずにどんどん魔弾を叩き込む。一秒間に一斉射六発しか撃てないけれど、壁の足を止めるには十分だ。

「すうー……、はあー……」

 意識して腹式呼吸を行い、MPの回復を促す。魔力回復結界はちゃんと機能しているようで、腹式呼吸とあいまってMP消費と回復は若干消費が上回っている程度だ。しばらく叩き込み続けると、私のいるところ以外は押されているのか、エイブの声が聞こえた。

「残りの魔術師も構えろ!」

「俺、まだ射程に入ってねえよ……」

「私もよ……」

 両隣がなにやらうるさい。

「ならしばらく待機してたら?」

 そう言いながらさらに魔弾を叩き込む。すると、急にMPの消費が早くなった。魔弾を撃ちながら確認すると、地面が光っていない。

「魔力回復結界!」

 慌てて結界を張りなおすと、その間に壁が前進し、迎え撃つように魔弾が着弾した。

 それを何度も何度も繰り返していると、壁が百メートル程まで迫る。

「よし! 射程圏内だ」

「いつでも行けるわ!」

「ならいっちゃって!」

 張り切る両隣に言う。

「風よ! かの敵を切り裂け!【ウィンド・カッター】!」

「火よ! かの敵を燃やせ!【ファイア・ボール】!」

 その言葉に私はずっこけそうになった。若干魔弾の軌道も右にずれる。

(何その痛々しい言葉……)

 何か色々と仰々しすぎる。魔術なんて、魔力を感じられれば他は不要なのだ。どういうことだ?

「あ、オート発動か」

 そこであることを思い出した。魔力の感知が出来ない人用に、それっぽい台詞を言えば魔術の発動が自動で出来るように設定したはずだ。多分。

(ということは、この二人の魔術師としてのレベルは低い……?)

 だとすると、あまり当てには出来ないだろう。私はさらに気合を入れて魔弾を撃つ。嫌になるほど魔弾を撃ち、結界をかけなおし、MPが半分を切った頃、右の方から悲鳴が上がった。

「右翼が破られたぞ!」

「た、助けてくれ!!」

「ぎぃあああああ!!」

「に、逃げろ! 逃げるんだ!!」

 どうやら、右翼が破られたらしい。私は、恐怖を覚えながらも冷静に分析する。

「魔術師は第二陣まで下がれ! 兵士諸君、その間しっかり抑えろよ!!」

 エイブの声が聞こえた。

「聞こえた!?」

 私は、一心不乱に魔術を撃ち続ける隣の二人に怒鳴る。

「え、何が?」

「何ですか?」

 案の定聞こえていなかったらしい。

「第二陣まで下がるよ!」

「わ、分かった!」

「分かりました!」

 そう言って二人は後ろに向かって走る。私は、魔弾を撃ちながらまだ下がろうとしない魔術師に声をかけて下がらせ、左側の魔術師がだいたい下がったことを確認してから後ろに向かって駆け出す。途中ですれ違う兵士達が、悲壮な覚悟を決めた顔をして突撃していくのが目に残り、嫌な気分になった。強くなったつもりだったけれど、私は、まだまだ無力だ。

 もっと、力が欲しい。FLOは娯楽のつもりで始めたので、まさかそんなことを願うようになるなんて思ってもみなかった。こんなに力が無いのが悔しいなんて、悲しいなんて、今まで知らなかった。

(この戦い、何人が生き残るだろう……?)

 不吉なことを考えてしまい、頭をふる。今は、そんなことを考えている場合じゃない。出来るだけ多くの人が生き残れるよう、私は次の壁についた瞬間魔弾を発射した。


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