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十四回目のログイン。昨日のログインでは一日中掲示板に張り付いていたので、精神的に疲れた。なんだかスライムをプチプチ潰したい気分だ。
「でも、それはそれで疲れそうだしなあ」
今日は楽がしたい。そんな気分だ。さっさとログアウトして現実のふかふかなベッドの上でゴロゴロするのも一つの手かもしれない。
「でもなあ……」
それは、今までの人生でも散々やってきたことだから、すぐに飽きるだろう。なら、FLOの中で適当に何かする方が良いかもしれない。
「あ、そういえば……」
今更ながら、勝手にテイムされたスライムのことを思い出す。
「でも、街中で出てるとこ見たことないしなあ」
今まで街中でモンスターを連れ歩く人を見かけたことはない。そこら辺はどうなっているのだろう。
「……ルフに聞いてみよう」
そう決めて部屋を降りる。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
おばちゃんに挨拶して、朝食を食べる。今日はトマトのスープといつもの黒パンだ。トマトの酸味が胃に染みてとてもおいしい。じっくり味わった後、宿屋を出て魔術師ギルドに向かう。
今日も誰も寄り付いていないドアを開けると、何人かの人がカウンターの向こうで忙しそうに動き回っていた。今までカウンターの向こうにルフ以外の人がいたことがないので、新鮮だ。ただ、全員怪しげな黒のローブで顔を隠しているのはいただけない。
「おはようございます」
その中の一人が私に気付いて、挨拶した。男性とも女性とも取れる中性的な声だ。顔は隠れて見えないけれど、なんとなく美形な気がする。
「おはようございます」
私は、そう言ってカウンターに寄る。すると、相手も書類の束を置いてこちらにやってきた。
「当ギルドに何の御用でしょうか?」
「いえ、ちょっと……調べものがありまして」
少し考えてからそう言う。ルフに聞いてしまうより、自分で調べた方が楽しいだろう。
「会員証を出してください」
私は、無限収納からドッグタグのような会員証を取り出して渡す。
「ふむ……確認出来ました」
そう言って相手は会員証を返す。
「一応、貴重なものなので、常に身に着けておいてください」
相手は少し不快そうに言った。
「分かりました」
私はドッグタグを首にかける。少し冷たい。
「では、書庫は二階になります」
「ありがとうございます」
知っていたけれど、一応礼を言って書庫に向かう。
「さて、やるか」
ライトの生活魔法に照らされる書庫の本棚の山に少し後悔しながら気合を入れる。魔導書は一応魔術の難易度ごとに分類分けされているけれど、多分テイムは魔術じゃない気がするので今回はパス。
「となると……」
私は、魔術とは関係の無い資料の置かれたコーナーに行く。背表紙を見て回るけれど、残念ながらテイムと関係ありそうな本は見当たらない。
「これかな?」
一冊だけ気になった本があったけれど、それに書かれていることは動物の調教に関係していることで、モンスターのテイミングとは関係無かった。
「どういうこと?」
これだけの資料の山なら、テイムに関係した本があってもおかしくなさそうなのに。私は、片っ端から本をめくって調べるも、それらしい情報は見当たらない。
そうこうしているうちに満腹度が減っていたので、無限収納の中になぜかあった飲みかけのリンゴジュースを飲んで回復させ、さらに読む。
「資料に無い、ってことは魔導書関連かな?」
とりあえず、一番簡単な魔導書のコーナーに行って、片っ端からめくる。とはいっても六属性と結界術、付与術のものは呼んでしまっているので、それらの別冊と生活魔法くらいだ。
「ここにはなし、と」
次に難しいコーナーに行くと、そこには前のコーナーには無かったものが置かれていた。
「錬金術入門?」
これがあやしいと直感で分かる。手に取り、軽くめくるつもりが面白くてついつい読み込んでしまう。
「ふむふむ、『錬金術の基本は素材に魔力を注ぎ続けること』、って、練習マナポーション作った時のこと、だよね?」
知らない間に、私は錬金術の基本を学んでいたようだ。あとは、素材による魔力の注ぎ込み方の違いや、素材の組み合わせ、果ては素材になる薬草の育て方まで載っていた。そして、その中に興味深い一節が載っていた。
「『テイムしたモンスターは使い魔の素材に出来る』? どういうこと?」
要するに、テイムしたモンスターはモンスターの性質を持っているので、そのままでは主人の言うことを聞かないので他の素材と混ぜて使い魔にしてしまうらしい。まあ、使い魔にしなくても長い時間をかければ言うことを聞くようになるみたいだけれど。
「『詳細は別冊に載せる』、と」
これは朗報だ。私はすぐに別冊を探し出して読む。すると、早速知りたいことが出てきた。
「『草原スライムについては、食料として魔力を与えておけば主人に懐き、また強力な使い魔の素材には出来ないが、様々な毒や薬品にも耐性があるため、一種の『ゴミ箱』として使用することを推奨する』」
これは朗報かもしれない。無限収納の中には今まで買った食事の包み紙がたまっている(飲料用のカップは店で有料で回収されるので無い)。これらが無くなるのは、魅力的だ。
「よし!」
また何かテイムしたら、この魔導書を読もう。そう決めて魔導書を閉じ、元あった所に戻す。
「時間は……まだあるね」
視界の端の時計を確認すると、まだ午後の三時だった。
「次は検証かな?」
そう呟いて、書庫を後にした。




