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書いてはみたけど、何か違う・・・。
そのうち直すかもしれません。
今日は父との面会日だ。楽しみでいつもより早く起きてしまった。
「今日はいつもよりご機嫌ですね」
あまりしゃべらない看護師の佐藤さんにそう言われるほど、私は浮かれていた。
「ふーんふーんふーん」
鼻歌もなんだか乗りが良い。そして、嬉しいことにいつもより早い時間にドアがノックされた。
「どうぞ」
そう言うと、私の気分とは裏腹に父は苦虫を噛み潰したような顔をして部屋に入ってきた。
「……どうしたの?」
父はこんな顔を滅多にしないので心配になる。
「ん、ああ、何でもない」
嘘だ。声の感じで分かった。父はほとんど嘘をつかないというのに、どういうことだろう?
「お父さん、嘘はいけないよ?」
そう言うと、父はしばらく私の顔を見つめた後、ため息をはいて観念したように話し出した。
「この前、FLOで会っただろ?」
「うん」
そのときのことは良く覚えている。
「そのとき、一緒に喫茶店に入ったよな?」
「そうだけど、どうかしたの?」
何が言いたいのか、さっぱり分からない。
「……そのことでな、お前は誰なのか、会社に電話が殺到しててな」
「……え?」
「他には、お前が俺の……、恋人なんじゃ? とか下世話な話もネットで出回ってて、な。はっきり言って、スキャンダルになりかけている」
言われた意味がすぐには理解出来なかった。理解した途端、恥ずかしさと悔しさで顔が赤くなる。
「どうして……そんな話が……?」
私は、震えながらなんとか口にした。
「人を貶めたいやつはどこにでもいる、ってことだ」
どうして、そんなやつらがいるんだろう? 父は、真面目で、いつもみんなのことを考えていて、とても優しい人なのに、なんで貶されないといけないんだろう。私が悪く言われるのは別に構わないけれど、父が悪く言われるのは許せない。
「……そんなやつら、みんな死ねば良い」
私は、暗い声で言った。
「……桜?」
「いや、死んじゃったら苦しまないから駄目だね四肢もがれて目玉つぶされて舌引っこ抜かれてそのまま生きてもらうくらいしないと」
「桜! どうしたんだ!!」
父に肩を掴まれて揺らされる。
「あ、お父さんは何もしないで。とりあえずこれからハッキングしてそいつらの個人情報ばら撒いた後借金億単位で作っておくから」
「桜!」
父が耳元で大声でどなった。
「……え?」
耳がキーンとする。私はここでようやく正気に戻った。
「冗談でもそんなこと言うんじゃない!」
「あ……え…………?」
私は、何と言った? 思い出した途端血の気が引く。
「ご、ごめんなさい」
私は、泣き出した。こんなことを考えるような子だと父に思われたら、嫌われてしまう。
「ごめ、んなさい」
そうしたらまた一人ぼっちになってしまう。それは嫌だ。
「ごめんなさい」
ああ、なんて醜いんだろう。あんなひどいことを考えておきながら、嫌われたくないなんて。なんて、ひどい人間なんだろう。
自分がこんなに汚いなんて、知らなかった。
「桜」
すると、包み込むように抱かれ、思わず泣き止む。誰に? 分からない。こんな汚いことを考える人を抱きしめてくれる人なんて、いないはずなのに。
「分かってる」
でも、耳元に聞こえる言葉は確かに父のものだった。
「分かってるから」
私は、また声を上げて泣いた。しばらく泣いて、泣き止んだ頃、父は語りだした。
「あのな、桜。人間は誰しもそう言った汚い部分を持っているんだ。だから、そういうことを考えるのは全然恥ずかしいことじゃない。だけれど、それを言葉にしてしまったら、そういうやつら、例えば、今俺たちを悪く言っているやつらと同じになってしまう。分かるか?」
私は、また泣き出さないよう口を閉じながらうなずく。
「だから、もうそういうことは言ってはいけないよ。分かった?」
「……はい」
私は、なんとか声に出して答えた。けれど、また泣き出しそうになり口を閉じる。
「だけれど、その感情を溜め込むのは良くない。だから、体を動かすなりゲームをするなりして、発散することが重要だ。今までしてきただろう?」
確かに、思い当たることがある。あまり意識したことは無かったけれど、あれにはそういう効果があったのか。
「……でも、中にはそういったことが出来る環境にいない人もいる。もしかしたら、ネットで私たちのことを悪く言っている人たちはそうなのかもしれない。だから、彼らのことを悪く言うようなことはしたら駄目だ」
「……同じになってしまうから?」
「いや、発散できる環境がある分彼らより悪い」
それは、嫌だ。心の底からそう思う。
「分かった」
私は、ようやく涙を引っ込めて言えた。
「そうか。にしても、こういうことは久しぶりだったから驚いたな」
父は、軽い口調に変えて言った。
「こういうこと?」
「そうだ。昔は死ね! だとかあっちいけ! だとか良く言ってたからな」
「どれだけ昔の話なの」
私は、思わず苦笑する。そのときのことはかすかに覚えているけれど、あれくらいの年齢の子はそれくらい言ってもおかしくないだろう。そういうことにしておいて欲しい。
「あ、」
私は、あることを思いついた。
「どうした?」
「いや、この事態を打開する方法を思いついたんだけど、良い?」
私は、思いついたことを説明する。
「……確かに、それなら解決するかもしれない。だけど、良いのか?」
何が、と聞かれなくても分かる。
「心配しなくても、それくらい大丈夫!」
私は、安心させるよう笑顔で言った。




