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「ただ今帰りました」
お昼を少し過ぎた頃、私は魔術師ギルドに帰ってきた。南の城門を出てすぐの所にアオミドリが群生していたのでここを出てから今までひたすらアオミドリを摘んでいたからなかなかの量だ。
「おお、こっちに来てくれ」
ルフの大声が響く。
「今行きます」
私は声のする方へと歩き出す。本当にここの廊下は長い。鍛錬場のある右側の廊下もそうだけれど、今歩いている左側と合わすと、もしかしたら建物本来の広さよりもあるかもしれない。しばらく歩いていると、『調薬室Ⅰ』 と書かれた部屋のドアが開いていた。
「ここかな?」
空いている部分から覗くと、ルフが大机の上で小さな鍋を二つ同時にかき混ぜていた。その下の炎は生活魔法のものだろうか。
「おお、来たか。では、おぬしも手伝え」
「あ、はい」
なんとなくそうなる気はしていたので、素直にうなずいて部屋に入り、ドアを閉める。
「どれくらい摘んできたか?」
ルフは鍋の火を消しながら言った。
「今から出します」
私は、大机の鍋から離れたところに無限収納に入れておいたアオミドリを取り出していく。前回薬師ギルドに持っていったときの半分くらいだろうか。
「これだけあれば上等じゃな」
ルフは満足そうにうなずく。
「おぬし、練習ポーションの作り方は知っておるか?」
「はい」
問いに答えると、ルフはまたうなずいた。
「どれくらいの腕前じゃ?」
「前回作ったのがこれです」
私は、無限収納の肥やしになっている小さな木の筒に入れられた練習ポーションを一本取り出し、ルフに渡す。
「ふむ……劣化防止剤は入っておらんが、まあ良い出来じゃな」
ルフにそう褒められて嬉しくなる。けれど、気になる単語があったので尋ねた。
「劣化防止剤、って何ですか?」
「ん? 効果は名前の通りのものじゃな。名前はいかついが、単なるゴブリンの角の粉末じゃ。まあ、無くともポーション自体一年は劣化せんのじゃがの」
「なるほどー」
ゴブリンの角にそんな効果があったのか。まあ、無限収納の中に入れたものは劣化しないらしいのであまり関係ない話だけれど。
「じゃあ、おぬしに練習マナポーションの作り方を教えてやろう」
MPはよく使うので、これは嬉しい。
「よろしくお願いします!」
私は勢い良くうなずく。
「では、まずは、この鍋に純水を八分目ほどまで入れるのじゃ」
「はい」
ルフは、大机の下から新たに机の上にあるものと同じ小鍋と三脚を取り出した。私はそれを受け取って、三脚の上に小鍋を置き生活魔法のウォーターで水を入れる。
「では、そこにこれを入れて生活魔法のファイアで温めながら、焦げ付かないようかき混ぜるのじゃ。その際、絶対に沸騰させないこと」
ルフは木ベラと見覚えのあるプルプルしたものを取り出した。
「あ、これってスライムゼリーですよね?」
受け取りながら尋ねる。
「そうじゃ。スライムゼリー自体に魔力を蓄える性質があるので、マナポーションでは必須の材料じゃ」
「なるほど」
意外と、ポーションの材料はありふれたものを使っているようだ。ひんやりする受け取ったスライムゼリーを鍋にゆっくりと入れ、ファイアで加熱しながら木ベラで混ぜる。
「あれ?」
そうしてしばらく混ぜ、半分ほどになったところで妙な手ごたえを感じた。
「魔力が、吸われてる……?」
ファイアに込めている魔力の量の減りが大きい。
「おお、その反応が出れば、次は乾燥させたアオミドリを二十枚ほど入れるのじゃ」
私は、空いている左手でさっき摘んできたアオミドリを適当に掴み、ドライの生活魔法をかけて乾燥させる。
「えっと、いち、にー……」
小鍋をかき混ぜながら数えるのに苦心している間にもどんどん魔力が吸われていく。気が付くたびファイアに魔力を込めるも、火力は弱火と中火を入ったりきたりしていて不安定だ。
「よしっ」
ようやく数え終わり、乾燥させたアオミドリを加えていく。すると、一瞬無色透明だった鍋の中身が鮮やかな青色になった後、急激に濁り始める。
「あーこれは失敗じゃな」
隣でルフが覗き込んでいった。
「……やっぱり、ですか?」
小鍋の中身は、ヘドロのような汚い色に変わっていた。こんなもの飲みたくない。
「原因は分かるか?」
「……多分ですけど、ファイアを安定して維持出来なかったから、ですか?」
それ位しか思い当たることは無い。そう答えると、ルフは満足したようにうなずいた。
「その通りじゃ。では、どのようにすれば良いか、分かるか?」
それについては案があった。
「はい。ファイアの火が小さくなる度に魔力を追加するのではなく、魔力を流し込み続ければ良いと思います」
「大正解じゃ」
ルフは笑顔を浮かべてうなずいた。小鍋の中身を部屋の端にある流し台に流し、軽く水洗いした後また作ってみる。今度は小鍋を火にかける前にアオミドリを乾燥させて、数えて手元に置いておいた。
「よしっ!」
気合を入れて小鍋にスライムゼリーを入れてかき混ぜる。今度は、火が小さくならないよう、同時に大きくなり過ぎないよう注意しながらファイアに魔力を流し込み続ける。
「これは……難しいな」
ずっと一定の量の魔力を流し込み続けるのはなかなか集中力が必要で大変だ。なんとか火が少し揺らぐ程度で収めていると、スライムゼリーが半分ほどになった辺りで急激に魔力が吸われだした。
「っ!?」
私はその変化に動揺しながらも、火力を維持すべく流し込む魔力の量を増やし、手元に置いておいた乾燥させたアオミドリを鍋の中に入れる。すると今度は入れたアオミドリが溶け、透明だった小鍋の中身が鮮やかな青色に変化していく。
「うわあ……」
私は青と透明のマーブル模様のグラデーションに感動の声を上げながらかき混ぜ続ける。すると、ゆっくりと透明の部分が青色に変わっていく。
「綺麗……」
「そうじゃろそうじゃろ?」
隣からルフの声がするけれど、無視する。完全に青色になると、ルフが言った。
「あとは生活魔法で冷やせば完成じゃ」
「分かりました」
私は、ファイアを消してコールドの生活魔法を使って小鍋を冷ます。
「よし、じゃあそれをこれに入れていってくれ」
そう言ってルフは大机の下を指差す。そこには、蓋のされたガラスのビンが山積みに置かれ、そこにお玉が突き出していた。お玉でガラス瓶に出来たポーションを入れていくと、十五杯で小鍋が空になった。
「出来ました」
「おお、それじゃあ取ってきたアオミドリが無くなるまで作ってくれ」
その後、ルフと二人で練習マナポーションを作り続けた。私が一つ作る間にルフは二つの小鍋で手際よく作っていくので、だいたい四倍くらいの速さでルフは作っていく。若干悔しい。
「それで、何で練習マナポーションなんですか?」
作っていて湧いた疑問を口にする。
「それはの、単純に材料が無いからじゃ」
「そうなんですか?」
「おお。この街の辺りではガレーユもネーチェも生えんし、ビッグスライムも湧かんからの」
「なるほど」
何気に出てきた重要な情報を心に留めながら、鍋をかき混ぜる。
結局この日は、ひたすら練習マナポーションを作って終わった。
「あ、テイムしたスライム」
ログアウトしてから重要なことを思い出したけれど、その時には消灯の時間を過ぎてしまっていた。




