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異なる空の下で  作者: ネムノキ
激変の二週目

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19

 十回目のログイン。

「今日も南の平原に行こうかな? それとも別のことをしようかな?」

 宿屋のベッドの上で考える。南の平原に行けば、確実に稼げるしおまけにイベント関連の情報を何か掴めるかもしれない。

「でもなあ……」

 正直あれだけの数を狩るのにはもう疲れたし、ここ数日で二万ゴールド以上の稼ぎになっている。情報は、解析班とやらが頑張るだろうし、それをアマラに聞けば良いだろう。

「……じゃあ、魔術師ギルドに行って見るかな?」

 魔力操作も慣れてきたし、いい加減他の魔術を覚えても良いだろう。

「そうする、か」

 決めて食堂に降り、おばちゃんに朝食を頼む。今日の朝食はいつものパンとこれまでとは違う、カボチャのスープだ。

「あれ? 今日はいつもと違うんですね?」

「ああ、今日まであのスープだったのはお得意さんがおっきな牛を持ってきてくれたからだよ。本当はスープは日替わりだったんだけどねえ……。大きすぎて飽きるくらい出しちゃってごめんね?」

 おばちゃんは笑ってあやまった。

「いえいえ、おいしかったですよ? 毎日あれでも良いくらいです」

 私はそう返すと、おばちゃんは 「それは良かった」 と笑った。にしても、宿に牛を持ってくるとか、何か憧れる。

(とりあえず、それが目標かな?)

 最近目標が良く増える。おしゃれをすることと、おいしいものをもっと食べること。そして次は牛をおばちゃんにプレゼントすること、だ。

「幸せだなあ……」

 こんなに目標を持てたのは何年ぶりだろう? こんなに目標があることが幸せだなんて思っていなかった。

「それは良いことだね」

 つぶやきが聞こえたのか、おばちゃんはそう言った。

「うん」

 うなずいて朝食を食べる。カボチャの甘みが暖かくて思わずにっこりする。

「嬢ちゃんは本当においしそうに食べるから、作り甲斐があるよ」

 おばちゃんはそう笑った。

「うん、おいしいよ」

 私はゆったりと食べ進める。

「ごちそうさまでした」

 そう手を合わせてから、宿を後にして魔術師ギルドに向かう。

 そして何事もなく魔術師ギルドに着き、魔術師ギルドのドアを開けようとすると、ちょうどドアが開かれた。

「あぶなっ!?」

 外開きのせいで額を打ちつけそうになる。

「……」

 ドアを開けた小柄で黒いローブを深くかぶった人物は、何も言わずに早足で通り過ぎて行った。

「一体何なの?」

 いぶかしみながら魔術師ギルドに入ると、ギルド長のルフがカウンターに腰掛けて書類らしき紙を読んでいた。

「おはようございます」

「何じゃ、おぬしか」

 そう言ってルフは書類をカウンターに置いた。

「面白い話があるのじゃが、聞くか?」

「聞きます」

 どういう話か分からないけれど即答する。

「南のグラント平原でスライムが大発生しておるのは知っておるか?」

「はい」

「それでの、おもしろ……不審に思った何人かがそこの地脈を調べたんじゃが、そしたら魔王発生の兆候が出ておるそうじゃ。な、面白いじゃろ?」

「何が面白いんですか?」

 何が面白いのかさっぱり分からないし、何を言っているのか分からない。

「なんじゃ、つまらんのう。まずな、地脈……、そこから分かってなさそうな顔じゃな。地脈、というのはこの世界を流れる魔力の流れのことじゃ」

「ふむふむ」

 なるほど、結局そういう設定に落ち着いたのか。魔力の設定にはそもそもの方向性からして迷走していたから、感慨深いものがある。

「それで、魔王、というのはモンスターの特異個体で、通常のものより強かったり、特殊な能力を持っておる。そいつが沸く前兆として、その魔王と同種のモンスターが大発生するのじゃが、ただ大発生するのは良くあることなのじゃ。して、今まで魔王発生時には特殊な魔力が発生すると考えられておったのじゃが、今回それが本当に確認されたのじゃ。ここまで言えば、何が面白いのか分かるじゃろ?」

「なるほど」

 確かに、そんなシチュエーションなら、研究者気質の魔術師なら歓喜するだろう。でも、私は魔道書目当てで黒の塔に入った不純な魔術師だから、そんなに面白くない。

「でも、魔王、ですか」

 魔王、というのがどんなものか分からないけれど、多分それがイベントの正体だろう。

「付け足すと、たいがいの魔王は 【統率】 のスキル持ちじゃから、確実に群れるぞ」

「それを早く言ってください!」

 まずい。モンスターは好んで人を襲うし、おまけに今大発生しているスライムは装備を溶かすのに、その魔王が発生すれば群れで襲ってくることになる。それは悪夢でしかない。

「あれ? でも私スライムに襲われたこと無かったような……?」

 でも、よくよく考えてみると散々スライムを駆逐してきているけれど、スライムから攻撃を受けたことは一度もない。

「それはスライムの動きがとろいからじゃろ。あいつらナメクジ並みに動き遅いしの」

「それなら大丈夫ですね」

 ということは、湧いてすぐに魔術師プレイヤーで休憩しながら袋叩きにすれば簡単に倒せるだろう。

「そうでもないぞ。今この街におる魔術師は異邦人も含めて三流、いや五流のものしかおらん。このままじゃと危ういかもしれんな」

「ならなんでそんなに落ち着いているんですか!?」

 危ういとか言っておきながらまったりしているとか、意味が分からない。

「最悪ワシが出れば魔王程度どうにかなるしの。それに、各ギルドには既に警告を送っておるから、まあ大丈夫じゃろ」

「どうにかなる、って……」

 この老人ひとりでどうにかなる気はしない。だけれど、本能的などこかでそれも有り得る気がするのも事実だ。

「ま、今回は若いもんに手柄を譲るから、頑張れ」

 そう言ってルフは書類を手に取って読み出した。

「……カウンターに座るのは行儀が悪いと思いますよ」

 意趣返しにそう言って二階の書庫へ向かう。

「手柄って、そんな大げさな……」

 なんとなくルフは面倒くさいから表に出たがらない気がする。階段のすぐそばにある書庫のドアを開けると、真っ暗だった。

「【ライト】」

 生活魔法で辺りを照らしながら中に入る。丸い明かりに照らされた書庫は、どこか不気味だった。

「基本的なことが書かれているのは……、これかな?」

 すぐに目的の魔導書を見つける。

「光と闇に土風水火。あと、ついでに結界術のも呼んでみよう。付与術は……一応読んでおこうかな?」

 思いのほか薄い魔導書を本棚から引き抜く。薄い、といっても文庫本くらいはあるので、八冊にもなれば持ちにくく、バランスを崩さないように注意しながら椅子を探すも、置いていない。

「……ここでいっか」

 結局魔導書を引き抜いた所に戻り、床に本を置いて床に座り込んで読み出す。ライトの明かりだけでは暗く、目が悪くなりそう。

「うーん……」

 魔導書に書いてあることは、通信の高校の全単位を取ってしまっている私からすれば簡単な部分が多かったけれど、感覚的なことやイメージ的な部分の表記は雑で、何が言いたいのか分かりにくかった。個人的に難しいと感じたのは、土と闇だ。土は主要な元素と化合物の性質をちゃんと覚えていないと何が書いてあるのか分からないし、闇は光と違ってイメージしにくかった。一方で付与術は分かりやすすぎるぐらいで、落差にガックシ来た。

 途中で廊下に出てサンドイッチを食べてからまた書庫に戻り、魔導書を読み進める。

「あ、もうこんな時間」

 視界の端の時計を見ると、もう十八時を過ぎていた。慌てて本棚に魔導書を戻して階段を下りる。ルフにおざなりに挨拶した後急いで宿屋に走り、ログアウトした。


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