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11/27分かりにくいところがあったので修正
ヘルメットのようなヘッドギアを、ウキウキ気分で頭頂部から生えるコードが絡まないよう注意しながら被る。あまりのはしゃぎように、今朝来た看護師さんは苦笑いしていた。それを思い出して苦笑しながら、入っているソフトを確認してからベッドに横になり左側頭部のスイッチを入れると、視界にノイズが走り、眠りに落ちる時のような浮遊感を味わう。
気がつくと、私は青白く光る空間にいた。
「左足は……ちゃんとあるわね」
現実にはない自分の左足があることにほっとする。VR空間に入ったときの癖のようなものだ。目の前には、旧式のキーボードを使うタイプのパソコンが置かれた机がある。そこに腰掛け、画面を見ると、アナログな感じで 『キャラクターメイキング』 と書かれていた。
「なんか、お父さんっぽい」
そのセンスに苦笑しながら、画面を読む。
「えーっとなになに、『ここではキャラクターメイキングを行います。名前、種族、容姿、スキルを選んでください』 っと」
私は、うろ覚えのベータテストの攻略サイトを思い出しながら、エルフ、獣人など多数ある種族の中から考えていたものを選ぶ。
「名前は 『トーレ』で、 種族は、『エント』」
種族を選ぶと、パソコンの右隣に私の容姿が浮かび上がる。濃い緑の髪に所々葉っぱが混じった、緑の目の木の人形。というより、木が無理やり人の形をとったような姿。皮膚、というより樹皮、といった感じの肌。
「これは……ないわあ」
そのリアルさに若干引きながら、容姿を調節する。といっても肌を人間のものにし、髪を明るい緑色にしたくらいだが。葉っぱと腰まである髪のコントラストが綺麗だ。
「これでよし、っと」
獣人と迷ったが、人間には無い器官の尻尾があることから没にした。慣れないで物にひっかけてしまいそうだからだ。というか開発段階で実際に引っ掛けた。
「次はスキル、っと」
FLOはスキル製のゲームで、スキルを取って強くなっていくので、このスキル選択は重要だ。特に、ここで取るスキルは 『先天性スキル』 となり今後所得出来るスキルに制限がかかったり成長が遅くなったりする上に五つしかないので、良く考えないといけない。
「ん? 『課金してスキル枠を増やしますか?』」
考えていると、画面の端の方にそんな文字を見つけた。
「これは……」
ものすごい誘惑だ。しかも、ちょうど良いことに課金用の電子マネーは結構貯まっている。
「よし、やっちゃえ」
増やせる枠は一枠だけで、一万円もしたけれど、貯まっている分からすれば屁でもない。
「よし!」
気合を入れて、六枠に入るスキルを考える。スキルには 『戦闘系』、『魔術系』、『生産系』、『娯楽系』 の四種類がある。『娯楽系』 は取る必要が無く、『戦闘系』 は何かが違う気がする。
「【魔力感知】、【魔力操作】、【結界術】、【知力強化】、【採取】 とあとは……【付与術】で良いか」
【魔力感知】 と 【魔力操作】 は 『魔術系』 の必須スキルで、これが無いと魔術系のスキルは使えない。【知力強化】 は魔術の威力を高めるスキルで、【結界術】 と 【付与術】 は魔術系のスキルだ。そして 【採取】 は 『生産系』 のスキルだけれど、これを持っていないと敵を倒したときにもらえるドロップアイテムがしょぼくなるらしいので入れた。
「『先天性スキル』 で魔術系五つも取っちゃったから、戦闘系のスキルはあきらめなきゃなあ」
つぶやきながら、パソコンの画面の『これでいいですか?』の文字にエンターを押す。するとパソコンと机が消える。
「お?」
髪が背もたれに挟まっている感覚がある。立ち上がって確認すると、さっきキャラクターメイキングで作った 『エント』 のキャラになっているようだった。視界の上のほうに葉っぱが見えるので、触って確かめてみると、葉っぱがアホ毛のように飛び出していた。
「邪魔だなあ」
引っ張ってちぎろうとしたが、思いのほか痛かったのでやめる。
「痛覚もちゃんと機能しているんだなー」
苦労したものがちゃんと反映されているのが分かって嬉しくなる。この感動は開発者でないと味わえない特権だ。
「けど、いつになったらゲームに入れるんだろう?」
そうつぶやくと、空中に 「ゲーム開始まであと02:36:42」 と表示され、42のところが一秒ごとに減少していく。
「これは……、張り切りすぎ、かな」
そのままカウントがゼロになるまで青白い空間で体を動かして待っていると、唐突に中性的な声が響いた。
「ようこそ、『幻想的な人生』 へ! 第二の人生をお楽しみください」
「何?」
すると私は、石造りの町の中にいた。周囲には同じように送られてきたのか、キョロキョロしている人が大勢いた。
「端折りすぎよ、お父さん」
でも、この一言に開発班の思い全てが詰まっている。苦笑すると、食べ物の匂いがした。
「ああ……」
思わず泣きそうになる。もう何年も嗅いでいない、おいしそうな匂い。風が肌をなでる感覚も、何年ぶりに味わっただろう。そして、耳に届く人々の声。父は、確かに約束を守ってくれた。視界の端にHPだとかMPだとか無粋なものが表示されているが関係ない。
「最っ高……」
私は思わず、その場に泣き崩れた。