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異なる空の下で  作者: ネムノキ
激変の二週目

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16

11/27文章に抜けがあったので訂正

 日曜日の朝。お父さんからの連絡は無かった。

「はあ……」

 ため息をはいてFLOにログインしようとヘッドギアをかぶる。すると視界に青白い空間が広がる。そのまま横になり側頭部のスイッチを入れようとすると、ピーという音と共に視界に白いボードが現れる。そこには、『新着のメールが一件あります』 と書かれていた。

「あっ」

 私はわずかな興奮とともにメールを開く。


―――――


 今日は仕事で行けそうに無い。すまない。


 ただ、FLOの今いる街の広場に午後三時頃に来て欲しい。きっとびっくりすると思う。時間は、FLOログイン画面の課金ページに行けば専用のスキルを貰えるようになっているから、そこで手に入れてくれ。


 では、また。

 父より


―――――


「……どういうこと?」

 父らしい簡潔な文章だ。だけれど、どういうことなのか分からない。とりあえず、側頭部のスイッチを入れてFLOのログイン画面に行く。いつも通りキャラクターメイキングの時の青白い空間に旧式のパソコンが机の上に置かれている。いつも通りパソコンの前に座り、画面から課金のページを開く。キャラクターメイキングの時にした課金はこのページに来なかったから、何気に課金ページを開いたのは初めてかもしれない。すると、すぐに課金ページに行かずにメッセージが現れた。

「えーっとなになに、『ここから先は有料コンテンツです。お金の使いすぎには注意してください』、と。おーけーおーけー」

 確認してみたところ課金用の電子マネーは十万円を越していたので、足りなくなることは無いだろう。というか、通販やらで最近結構使ったのにいつの間にこんなに増えていたのだろう?

「ま、いっか」

 難しいことは考えないで、すぐに課金スキルを確認していく。

「【下位収納】 五百円で 【上位収納】 が千円。【無限収納】 は……一万円、って高すぎない? で 【スクリーンショット】 は五百円、と。これは買いかな?」

 色々つっこみ所の多いスキルを眺めていると、目的のスキルが見つかった。

「これかな?【異世界時計】」

 説明文によると、現実世界の時間が表示されるようになるそうだ。FLOの基本コンセプトは別の世界なのとヘッドギアからアラームが設定できるので実装されていなかったものの、不便だったので実装した、というところだろう。価格は驚きの百円。

「まあ、向こうの時間は現実のものと同じだから大体の時間は分かるのだけれどね」

 これも待ち合わせのためだ。結局他に 【スクリーンショット】 と 【無限収納】 を買った。しめて一万六百円。良い買い物をした。【鑑定】 は悩んだけれど結局買わなかった。スキルで何でも分かってしまうのはつまらないと感じたからだ。

「じゃ、行くか」

 ページを戻って 『ログインしますか?』 という文字にエンターキーを押すと、一瞬の浮遊感の後ここ最近で見慣れた天井が目に入った。

「よし、行こう」

 視界の端にはちゃんとデジタルの時計が表示されている。朝食の時間は過ぎているのでおばちゃんに挨拶してすぐ近くのパン屋でサンドイッチとコーヒーを二食分買って南の平原に行き、一食分時間をかけて食べてからスライムを狩る。すぐに十二時になり、またサンドイッチを食べる。

「あー幸せ」

 食事は最高の娯楽だと思う。そこから背負っていたリュックを無限収納に入れ、適当にスライムを狩って二時頃街に戻って狩猟ギルドに今日の成果を売り、少し早いけれど、広場に行って待つ。

「何があるのかな?」

 少し楽しみにしながら待つと、広場の一角が光ってそこから人影が現れた。

「嘘……」

 私は、その人影に見覚えがあった。段々早く進み、最後は駆けるくらいで近付く。髪が銀色で、目が金色だけれど、間違いない。

「お父、さん……?」

「そうだ、今日は会いに行けなくてごめんな、桜」

 父は申し訳なさそうに言った。

「お父さん!」

 私は、父に飛びついた。父はそれを優しく抱きしめた。そのまま頬ずりする。父の匂いと、絹の服の上から分かる胸板。とてもなつかしい。

「……もういいか?」

 しばらく頬ずりしていると、父にそう言われた。

「あ、ご、ごめんなさいい」

 私は慌てて離れる。恥ずかしさで頬が熱い。

「それで、こっちでの名前は何にしたんだ?」

 父は、咳払いしてからそう尋ねる。私は、頬を染めたままそれに答えた。

「こっちではトーレ、って名乗ってる」

「そうか。……もしかして、木の化け物から付けたか?」

「……よく分かったね」

 私はとても驚いた。木の化け物のトレントからトーレなんて分かりにくい名付けをしたのに、それに父はあっさり気が付いた。

「それで、お父さんは?」

「ん? ああ。一応デミ、にした」

「……もしかして、半神から?」

「良く分かったな」

 父は目を丸くして答えた。半神でデミゴッドで、それからデミなんて安易過ぎる。

「うん。ホームページにゲームマスター専用種族、って書いてあったのが頭に残ってたから、ね」

 そうなのだ。銀髪に金目の組み合わせは半神以外の種族では設定できないようになっている。そして、今まで半神のプレイヤーは出てきたことが無かった。

「……あれ?」

 ということは、ものすごく目立つのではないか? 今更気が付いて辺りを見回すと、いつの間にか人だかりが出来ていた。

「おお、半神って俺始めて見た」

「だがおっさんだ」

「じゃあ、あの女の子は誰だ?」

「エントとか外れ種族乙」

「確かお父さん、って叫んでなかったか?」

「何かイベントやるのかな?」

 これは……怖い。私は思わず父の影に隠れた。すると父は私の頭に手を置いた後、軽く微笑んでから人混みの方を見て言った。

「初めまして、ゲームマスターのデミです。今日は、FLOの再現度を再確認するためにやってきました。イベントにつきましては、来週辺りに発生しそうなので、その時を楽しみにしてください。それでは」

 父は、右手で私の手を引いて背後の店に入った。私は、それに引きずられるように店内に入る。

「告知キターーーーー!!」

「レベル上げしなきゃ!」

「どんなイベントになるのかな?」

「これは稼ぎ時! ポーション増産しなきゃ」

「やべえ金ねえぞ……」

 ガラス越しでも聞こえてくる喧騒に耳が痛くなる。入った店は喫茶店だったようで、店長らしきシルバーグレイの人がなにやら混乱している。まばらにいるお客さんも混乱しているようで、こちらを見て口をぽかんと開けていた。

「急にすまない。この店を今から貸し切りたい。金は払う」

 すると店長は再起動したのか、手のひらと首を猛烈に振りながら言った。

「いいいえめ滅相も無い! 半神さまのおっしゃることなら喜んで!」

「あ、今いるお客さんは……」

 父は言ってから気が付いたのか、店内を見回した。するとお客さんたちは急に立ち上がる。中には椅子をひっくり返した人もいる。

「半神様! どうぞこの席をお使いください!」

「いえむしろ私の席を!」

 そう赤毛の女性が言うと、口々に自分の席を使うように言う。

「……とりあえず君たちの分は全ておごるから、店から出て行ってもらえるだろうか」

 父が疲れた様子で言うと、全員 「喜んで!」 と叫んで店から出て行った。その勢いはものすごく、店に入ろうとするプレイヤーらしき人たちを跳ね飛ばしたくらいだ。

「はあー……」

 父はため息をはくと、左腕をふるう。するとガラス張りのドアの鍵がかかってカーテンが降り、倒れている椅子が元通りになる。

「あの……手……」

 私はようやく手がつなぎっぱなしになっていることに気が付き、そう言った。

「あ、ああすまない。痛くなかったか?」

 父は謝りながら手を離した。

「ううん、全然」

 むしろ、もっとつないでいたかったと言えば、どんな顔をするだろう。

「本当は少し驚かせたかっただけだったのに、すまない」

 そう父は頭を下げた。

「いや、仕方ないよ。正式に始まってから今まで半神がやってきたことが無かったんだから、こうなるなんて誰も予想できないよ」

「……そうだな。ログアウトしたら担当の者に警告しておくとしよう」

 そう言った父は少しさびしそうだった。

「あのー、ご注文は?」

 カウンターの向こうから店長がそう声をかけた。

「とりあえず、ブラックを。さ……トーレは?」

「私も同じのを」

 空いているカウンター席に腰掛けながら、注文に答える。

「かしこまりました」

 店長は手際良くコーヒーを淹れていく。良い匂いが店内に広がる。

「……にしても、びっくりしたよ」

 とりあえず私は口を開いた。

「私もだ」

 父は頭を抱えている。

「いや、そっちじゃなくて、お父さんがFLOに来たこと」

 そう言うと、父は顔を上げて苦笑した。

「ああ。開発部の連中がな、『FLOの抜き打ちの再現度のチェックを部外者に頼みたい。あと外部協力者から聞き取りを行ってくれ』 なんて言い出して、な。そこまでお膳立てされたら、会うしかないだろう、ってことで来たんだ」

「なるほど」

 私も苦笑する。全く、あの人たちは人が良すぎる。

「それで、そのお願いはするの?」

「ああ、一応な」

 それかた簡単な質問を受ける。ゲームは楽しいか、なんて簡単なものもあれば、触覚や視覚、嗅覚の再現度を十点満点で評価する、なんて難しいものもあるけれど、慣れたものだ。

 質問を受けている間に出された、少しぬるくなったコーヒーを飲みながら質問に答えていく。この店のコーヒーはパン屋のものより香りが香ばしくて酸味が僅かに強い。完全に私の好みだ。隣で父はその香りの再現度に驚いていた。

「まさかここまでとは……」

「でも、それが目標だったんだから良いじゃない」

「確かにな」

「でも、内臓系の感覚は少しあまいかな? でも、これ以上再現度を上げると現実に戻ったときに混乱しそうだし、絶妙な線かな?」

「一応伝えておこう」

 父は答えながらコーヒーを口に含んだ。

「あっ」

「どうした?」

 私は、ここであることを思いついた。

(買った服、ここでお父さんに見せてあげれば良いんじゃ……)

 ほとんど死蔵状態になりつつあるスカート。これを着たところをお父さんに見てもらう、というのはどうだろう。

「ちょっと待ってね。店長さん、化粧室借りるね」

 そう言ってトイレに行き、装備を変更する。手洗い場にあるガラスでおかしなところは無いか確認する。うん、今日もかわいい。

 そのまま歩いて父のところにいく。

「お父さん」

 背後から声をかけると、父は振り向き、そして固まった。

「ど、どうかな?」

 そう尋ねるも、父は答えない。

(もしかして、似合ってないんじゃ……)

 泣きそうになるのを必死でこらえていると、父はようやく答えた。

「……ああ、似合っているよ」

 それだけ言うと父は泣き出した。

「あ、え、えっと……」

 私は慌てて父に駆け寄るも、何も出来ずにあたふたする。こんなことならハンカチも買っておけば良かった。

 その後、父が泣き止んだ後も、他愛も無い話を続けた。


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