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異なる空の下で  作者: ネムノキ
激変の二週目

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15

 次の日。

「今日はどこにいこうかなー」

 ログインしたときはいつも通りスライム狩りをするつもりだったのだけれど、お金は稼げる割に作業感が凄くてなんだか楽しくないのだ。ということで、大通りを北にふらふらとしている。

「……あ、魔術師ギルド」

 歩いていると、大通りに面しているというのにあからさまに避けられている、塔のあるいかにも、な雰囲気の屋敷。今日は、ここに寄ってみよう。

「失礼します」

 重たいドアを開けて魔術師ギルドの中に入っていく。

「いかよ……、何じゃ、おぬしか。久しぶりじゃの」

「はい、お久しぶりです」

 先日会った老人は、今日も黒いローブを着ていた。すぐに入ってきたのが私だと気がつくとフードを取って白髪の頭をふる。

「して、今日は何のようじゃ」

 老人は、そう誰何(すいか)する。

「いえ、特に用がある、といった訳ではないのですが……」

 実際、入ったものの特に用がある訳ではない。

「貴方から見て、今の私の魔術の腕はどれくらいでしょうか?」

「ふむ……」

 尋ねると、老人は目を細めて私を見てうなる。

「体内魔力の循環がスムーズに……、いや、これは…………」

 老人はさらにうなると、「ついて来い」 と言った。うなずいて老人について行くと、先日案内された鍛錬場に入る。

「では、少しやってみたいことがあるのじゃが、良いか?」

「はい、良いですよ」

 そう答えると、老人は右腕を振る。すると、私たちから少し離れたところに十体の藁の案山子が出現した。

「では、あれを同時にシュートで出来るだけ多く撃ち抜くのじゃ」

「分かりました」

 私はそう言って案山子の方を向く。

(距離は……、十メートル以上? でも、なんとなく当てれそうな気がする)

 そう目星を付けて、シュートを発動しようとすると、ある変化に気がつく。

(あれ? あと二発くらい追加出来そう。けど、それはいつからだった?)

 疑問が湧く。多分、スライム狩りに夢中になっていたせいで変化に気がつかなかったのだろう。今度から注意しよう。そう決めて魔術を発動した。

(シュート!)

 放たれた五つの力場は、全て案山子を打ち抜いて粉砕した。

「これは……」

 老人はなにやら絶句している。

「あのー……これでどうですか?」

 そう尋ねるも、返事がない。

「あのー……」

「……おぬし、他にも使える魔術はあるかの?」

 そう聞かれたので、私はうなずいて虫除けの結界と動物除けの結界を同時発動する。

「……他には?」

「あとは、これで最後です」

 そう言ってナイフを抜きエンチャント・マジックをかける。うん、我ながらスムーズでムラの無い良い魔術だ。

「どうですか?」

「……天才じゃ!」

 老人は突然叫んで私の肩を掴む。

「ひゃいっ!?」

 私は思わず驚いてナイフを取り落とす。

「この短期間でここまで磨き上げるとは、おぬしは天才じゃ!」

「は、はあ」

「これなら良いじゃろう。おぬし、魔術師ギルドに入らんか? というか入れください」

 そう言って老人は頭を下げる。

「ちょ、ちょっと待ってください。なんでそういう話になるのですか!?」

 私は必死な老人の様子に困惑する。

「実はの……」

 そこから老人が長々と語ったのを要約すると、魔術師ギルド(通称黒の塔)、というのはこの大陸で唯一の国家であるゴンドールから独立した民間の組織、らしい (というか、ギルド、と付く組織全てが民間の組織だそうな)。昔は、優秀な魔術師や魔法使いと呼ばれるほどの実力を持った人物が多かったそうだけれど、最近ではこの世界の住人の新人魔術師のうち大半がゴンドールの魔術学園、ひいては国家魔術研究機関 (通称白の塔) に行ってしまい徐々に魔術師ギルドは力を失っているらしい。

 白の塔は、国家のための研究ばかりして民間の研究をしないため、民間人の中には魔術師を排斥しよう、という意見が出てくるほど危うい状況になっているらしく、そのしわ寄せが黒の塔に来ているそうだ。なので、神託で様々な才能を持った異邦人がやってくる、と聞いたときに黒の塔は歓喜したものの、優秀な魔術師になり得る異邦人には今まで出会わなかったそうだ。そこに、才能溢れる私がやってきたので、是非とも黒の塔に入ってほしいそうな。

「なるほど」

 私は、内心出てきた情報の多さに混乱しながら、落としてしまったナイフを拾って鞘にしまう。ホームページにも、私たちのいる国家の名前は載っていなかったし、おまけに実は今いる街の名前も判明していない。そんな中出てきたこの膨大な情報は非常に貴重で重要だ。

「それで、黒の塔に入るとメリットはあるのですか?」

 そう尋ねる。組織に入るには、そのメリットとデメリットを考える必要がある、と父が行っていたことがあるからだ。

「まずは、著名な魔法使いに弟子入り出来るようになる。が、これは年単位で拘束されるから、異邦人であるおぬしには合っておらんじゃろう」

「ふむふむ」

 それはこの世界の住人ならば、確かに魅力的だろう。私には関係ない話だけれど。

「次に、黒の塔の施設や設備全てが無料で使用出来るようになる」

「あれ? 私この間この鍛錬場タダで使わせてもらいましたよ?」

 疑問を口にする。

「鍛錬場は一般開放されておるからのう。他にも、錬金室や調薬室などもあるのじゃぞ」

「それは確かに魅力的ですね」

 練習ポーションをつくったときには何気に多くの道具を使ったので、それがタダで使えるというのは魅力的だ。

「……おぬし、気付いておらんが、黒の塔が所有する魔導書も全て無料で見れるのじゃぞ」

 私は、その言葉に凍りついた。狩猟ギルド長は魔導書は中古で十万ゴールドすると言っていた。それが、すべて無料。何冊あるのかまでは分からないけれど、黒の塔は大きな組織なので基本的な属性のものくらい全て揃っているだろう。

「……それは、凄い」

 私は、なんとか言葉をひり出した。

「じゃろう」

 老人は上機嫌でそう言った。

「それで、デメリットは何かありますか?」

 心の中で答えは決まったけれど、一応そう尋ねた。

「民営の組織じゃから、国の組織に所属出来なくなるくらいじゃ。それ以外は、他のギルドと兼業しても良いし、魔物に襲われている街を見捨てても良いし、死体の解剖をしても良い。まあ、法律に触れなければ自由じゃ」

 なかなかマッドなことを言うが、黒の塔は想像以上に自由なギルドらしい。

「じゃあ、入ります」

「おお、そうか!」

 私の答えに老人はもろ手を挙げて歓迎した。

「では、手続きじゃな」

 カウンターに戻って入会の手続きをする。とは言っても水晶玉に触れただけだったけれど。

「これで良いんですか?」

「おお。これでおぬしの魔力パターンは登録されたからの」

 魔力パターンは指紋のように個人によって異なるらしい。なので、こういった手続きでは一般的なのだそうな。

「……よし、出来たぞ。これがおぬしの会員証じゃ」

 そう言って老人は銀色のドッグタグのようなものを手渡してきた。

「申し遅れたが、ワシはこの街ウラノスの魔術師ギルドのギルド長をしておる、ルフじゃ」

 私は、この老人がそんなに偉い人だとは思っていなかったので思わず固まる。すると、ルフは悪戯が成功した子供のように笑った。


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