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今日はメンテナンスがあるのでFLOにログイン出来ない。起きた時点では昨日の残念な気持ちが残っていたので散々ストレッチをした後VRゲームの 『剣道道場』 の仮想空間で体を動かして気分を変える。そして、昼頃ログアウトし、しばらく待つと病室のドアが開かれた。
「どうぞ」
そう言うと、待っていた人物が部屋の中に入ってきた。
「久しぶり、お父さん」
「ああ、先週は会えなくてすまない」
そう言って頭を下げる父に私は笑ってこう言った。
「大事な仕事なんだから仕方ないよ。それに、そのお陰で私も楽しめている訳だし」
「そう言ってくれると嬉しい」
そうなのだ。先週の日曜日はFLOスタート前後のゴタゴタのせいで面会できなかったのだ。
「で、来週からも面会は木曜日になるの?」
「ああ。木曜日はメンテナンスで私ができることが無いからシフトを変えてもらった。これからは木日が休日だ」
「……日曜日も会えない?」
私は、ついそんなことを言ってしまった。ゲームは楽しいが、夜ひとり病室で寝ようとするたび言いようの無い恐怖を感じるのだ。――次はどこが無くなるのだろう? 明日ちゃんと太陽を見られるだろうか? そう思うたび怖くなって誰かに泣きつきたくなる。でも、父といると、そんな考えがどこかへ行ってしまうのだ。だから、父と会った日の夜は良く眠ることが出来る。それに、父といるとどこか落ち着くのだ。
「そうしたいのは山々だけれど、日曜は実質休日出勤で埋まっているからな……」
そう父はさびしそうに言った。
「まあ、来られるときはあらかじめ連絡するし、それに、木曜は一緒にいるから、な?」
父は私の頭をなでながら言った。
「……うん、ありがとう」
「それで、FLOはどうだ?」
その父の質問に私は飛び跳ねて答える。
「もう最っ高! あのね……」
私は必死に今週起きたことを話す。狩猟ギルドのドアを吹っ飛ばしたこと。宿屋の朝ごはんがおいしいこと。狩猟ギルド長に諭されたこと。スライムを蹴散らしたこと。良い出会いがあったこと。ひとつひとつちゃんと伝わるように話していく。途中衛兵の皆さんと飲んだことを話すとなぜか怒られた。解せぬ。
とにかく、片っ端から話すので、きりがない。そうして話していると、父はぽつりと言った。
「俺は、ちゃんと約束を守れたんだな」
その言葉に、私は一瞬きょとんとした後、笑顔でうなずいた。
「うん。だから、私も約束を守るよ」
「桜……」
そう言うと、父は泣きそうな顔をして私に抱きついた。
「ちょ、ちょっと痛いって」
抱きつかれるのは嬉しいけれど、手術の跡が引きつって痛い。
「あ、ああ。済まない」
父は名残惜しそうに私から離れた。顔は、普通に戻っていた。
「そ、そうだ。今日のメンテナンスで何かシステムとか追加されるの?」
変な空気が流れたので、強引に話題を変える。
「ホームページは見ていないのか?」
「……まだ、ね」
父の言葉にはっとする。FLOを始める前はさんざんFLOの公式ホームページを見ていたのに、始めてからはプレイするのが楽しくてまともに確認していなかった。
「珍しいな。……まあ、良いか。今回のアップデートでは、課金で特定のスキルが手に入るようになるのと、PVPの導入、あと満腹度と渇水度が追加されるはずだ」
「あれ、満腹度って、実際に満腹感や空腹感を感じさせると現実での生活に支障をきたすから見送られたんじゃなかったっけ?」
そうなのだ。ゲームの中で満腹感や空腹感を感じさせてしまうと、現実に戻ったときに現実の体の状態と脳が感じている状態に齟齬が生じたため、一回の実験で見送られたはずだ。
「まあ、ゲームシステムとしては面白いから、数値だけで導入、といった感じだな」
「それはまた面白くなりそうだね」
満腹度や渇水度が実施されれば、狩りの途中で定期的に休憩を強いられることになる。そうなると今までからプレイスタイルが変化することになり、これまで活躍してこなかったスキルが活躍することになるだろう。
「だろう? PVPは……桜はやりなれてるから、あまり期待しないほうが良いと思う」
「それは初めから期待していないよ」
そう苦笑する。私は、非常に残念なことに全ての 『道場』 シリーズで最難関モードでないと満足出来ないような状態なので、所詮素人でしかないプレイヤーには期待していない。
「あ、でもアイアンハートみたいな人とはやり合ってみたいかな?」
「アイアンハートって……。『CQC道場』 でぶちのめしてたけれど、あれでも米軍史上最強の男だぞ」
父は呆れたように言った。
「そうなの?」
「そうなの」
「そうなんだ」
じゃあ、PVPはますます期待出来ないだろう。
「ま、私なりに楽しむけどね」
そう私は笑った。




