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FLO六日目のログイン。
「んー、やっぱりお風呂は良いなあ」
今朝のお風呂はいつもより気持ちよく感じた。それもあって気分良く南の平原に向かう。
「よし、今日も沢山湧いてるねえ」
昨日散々蹴散らしたのが嘘のようにスライムはいた。
(シュート!)
それをシュートで片っ端から蹴散らしていく。MPが無くなるたび、座って黙想してMPを回復させる。そして、回復するたび適当に歩いてはスライムを殲滅していく。気分は害虫駆除だ。時々周囲を他のプレイヤーが通りがかり、軽く会釈する。結構すれ違うので、今のプレイヤーの狩場はここなのかもしれない。
太陽が天上に昇りきっても気にせずに殲滅を続けるけれど、精神的な疲労を感じ始めていた。
「ここらで休憩するか」
そうつぶやいて座り込み、大きく息をはいた。
「すごいですね」
急に背後から声をかけられた。
「誰?」
驚いて振り返ると、そこには耳のとがった金髪の女性がいた。カーキ色のシャツの上に控えめな胸の上に皮の鎧をつけ、それと同じ茶色のズボンとブーツをはいている、スレンダーな美人さんだ。背中から矢筒とウエストポーチが覗き、肩に弓を引っ掛けている。弓使いだろうか。
「あ、すみません。アマラと言います」
そう言いながら女性は私の前に座った。
「はあ、どうも。トーレです」
そう内心警戒しながら答えると、アマラは微笑みながら言った。
「ああ、良かった。先ほど見かけまして、すごい勢いでスライムを一撃で駆逐してましたので、気になってたんですよ」
「そうですか」
私は首をかしげながら答える。そんなに気になるほどすごいことだろうか?
「プレイヤーの方ですよね?」
「はい、そうですよ」
「それで、少し戦い方を見させてもらっていたのですが、一体どんなスキルを使っているのか良くわからなくて……。良ければ、教えてもらえませんか?」
特におかしなことはしていないのに、なぜ尋ねてくるのだろう。そう疑問を抱く。
「あ、他のプレイヤーにスキルの秘密を聞くのはマナー違反、でしたよね?」
私の沈黙をそう捕らえたのか、アマラはそう言った。確か、ベータテストの攻略掲示板にそんなことが書かれていた気がするけれど、別にそんなつもりで黙っていた訳ではないのですぐさま否定する。
「いいえ。あのー……、何と言うか、簡単なスキルの応用なので、聞かれたことに驚いただけです」
「ああ、それは良かったです」
そうアマラは両手を合わせて微笑んだ。
「それで、どういうタネなんですか?」
「ああ、簡単ですよ。シュートを同時に何発か発動するだけです」
「……え?」
アマラはそうきょとんとした。
「ちょっと待ってください。シュートでは一撃でスライムを倒せないはずですが」
そうアマラは疑いの声で言った。
「それは多分、先天性スキルの知力強化の効果だと思います」
「それでも、おかしいです。確かに、先天性スキルなら効果は高いですし、先天性スキルのうち魔術系スキルの数だけ魔術の威力は強化されますけど、普通そんなに強くなりませんよ」
初めて聞く情報が出てきた。ということは、先天性スキルに魔術系スキルを五つも取っている私の魔術の威力は、何気に凄いことになっているのかもしれない。
「……私、先天性スキルで魔術系スキル五つも取ってるから、そのせいかも」
「ええっ! それって枠全部じゃないですか!! それだと物理攻撃と生産のスキル取れませんよ! それだと所得スキルに制限がかかりすぎて後半詰みますよ!!」
そうアマラは目を剥く。
「い、いや課金したから枠六つあるし」
そう言った私の声は震えていたと思う。確かに、戦闘系のスキルはあきらめている。でも、よく考えたら戦闘系スキルのダッシュとかは習得出来たので、もしかしたら物理攻撃のスキルも習得できるのかもしれない。ただ、その道は険しそうだけれど。
「あ、なら大丈夫ですね。でも、思い切ったことしましたね。でも、それなら説明がつきますね」
「ですかねー」
私のやったことは思い切ったことらしい。魔術師プレイをするには順当な気がするけれど。
「それで、シュートの同時発動ってどういうことですか? シュートは片腕からしか撃てないはずですが」
「そうなんですか? なんかやってみたら出来たのですけれど」
やってみたら出来たのだから仕方ない。
「ということはスキルレベルの影響かな? 確か、シュートは魔力操作由来の魔術だったわよね」
「ええ」
「スキルレベルっていくつになってる?」
「ちょっと待って」
隠すことでもないので、ステータスを開き、そしてそっと閉じた。
「どうしたの?」
「い、いやちょっと気が動転して」
知らないうちに、後天性スキルが山ほど増えていた。まあ、通知を切っていたせいだけれど。
(というか 【防御力強化】 っていつ習得したの? しかもレベル五だし)
「あ、もしかして今初めて自分のステータス確認したの? なら仕方ないね」
「そうなの?」
「ええ、なんかしょうもないことにもスキルがあるから、すごいことになるらしいよ? そのせいで解析班が息してないらしいし。実際私も鼻歌歌ってたら 【歌唱】 スキル生えてきて驚いたし」
「そんなに?」
確か、ベータテスト後半では自分の所有スキルの把握が出来なくなった人が多発していたと聞いたことがある。半信半疑だったけれど、こういうことだったのか。
「で、魔力操作はどうなってる?」
「ちょっと待ってね」
そう言って極力後天性スキルを見ないようにしながら確認する。
「えーっと、四十三レベルってなってる」
「……え? も、もう一度言って」
アマラは何が言われたのか分からないと言った感じで聞き返してきた。
「四十三レベルだって」
「はあっ!?」
アマラは絶句して私に詰め寄ってきた。
「え、いやいやいやちょっと待って。魔力操作ってレベルの上げ方がいまいち分かっていないスキルなのになんでそんなに上がってるの!?」
「え、そうなの?」
私はアマラの言葉に驚いた。魔力操作の仕方は非常に簡単なものなのに、未だレベリングの仕方が分かっていないことに、だ。
「結構簡単なの……に……」
言いかけて、あることに気がついた。私はこのゲームの開発者側なので魔力の感じ方を知っているけれど、他の普通のプレイヤーは知らないのではないか。
「え、本当ですか!?」
アマラの喜びの声が突き刺さる。私は、知らず知らずのうちにしてはいけないことをしてしまったのではないか?
「良かったら教えてもらえますか!?」
「え、ええ。良いですよ」
罪悪感と共に言う。
「では、早速お願いします」
アマラは満面の笑みを浮かべながら言った。
「では、行きますね」
私は、そう気分を切り替える。してしまったことは仕方がないのだ。
「まずは、楽な格好をとってください」
そう言うと、アマラはうなずいて正座する。その笑顔が痛い。
「次に、目を閉じて大きく息を吸って……吐いてください」
アマラは私の言葉に従って呼吸する。私は、それを痛みと共に微笑ましく思いながら指示を続ける。
「では、次におへその下辺りに集中してください」
すると、アマラは何か違和感を感じたのか眉をひそめる。
「……何かあります」
ちゃんと感じ取れたようだ。自分たちが設定したものがちゃんと機能しているのを知れて嬉しくなる。
「それが 『魔力』 です」
「これが……」
アマラは嬉しそうに言った。
「では、それを動かしてください」
「え?」
つい嬉しさのあまり先走ってしまった。すぐに訂正する。
「……すみません先走りました。それが体の中を動いているところを想像してください」
「はい。……あっ」
アマラは驚きの声を上げた。ちゃんと動いたのだろう。
「それが魔力の動かし方です。あとは、魔力をひたすら動かせば魔力操作と魔力感知のレベルが上がります」
「魔力感知も、ですか?」
「はい。原理は分からないのですけれどね」
「そうなのですか」
一通り教え終わると。二人そろって立ち上がる。
「今日はありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「それでですね……」
アマラは言いづらそうにこう切り出した。
「今日教えてもらったことを掲示板に上げても良いですか?」
「掲示板、ですか? もうあるのですか?」
もう掲示板が出来ていたのか。私は驚いた。
「はい。昨日ヘルプに出てきました」
私は、慌ててヘルプを確認すると、一番下に確かにあった。
「あ、確かにありました」
「で、この情報は他のプレイヤーに対して有利になる情報ですけれど、今多くの魔術系プレイヤーは魔力操作の解析に躍起になっています。なので、この情報はその助けになりますので、掲示板に乗せたいのですが、良いですか」
「良いですよ」
私は、そう即答した。
「やっぱり駄目ですよ……え?」
「私の情報が多くの人の助けになるのなら、喜んで」
それに、そうした方が私の罪悪感がマシになる気がする。
「ほ、本当ですか!?」
アマラは飛び上がって喜んだ。
「ええ。ただし、私のことは秘密にしておいてください」
「それくらいなら喜んで」
「では、お願いします」
そう言って頭を下げる。
「お礼を言いたいのはこちらの方ですよ。あ、あとひとつ良いですか?」
「ええ、何ですか?」
「あの、フレンド登録、してもらっても良いですか?」
「フレンド登録、ですか?」
私は首をかしげる。
「……すみませんやり方が分からないのですけれど、教えてもらえますか?」
「ええ。ヘルプからフレンドを開いて、そこからフレンド登録を選んで、私と握手してください」
「こうですか?」
私は、言われたとおりにしてから握手する。
『『アマラ』さんとフレンドになりました』
すると久々のアナウンスが頭の中に響いた。
「無事出来ましたね」
「みたいですね」
そう言って顔を見合わせる。
「では、また機会があれば会いましょう」
「ええ、では」
そう言ってアマラと別れた。
新たな出会いがあった後も、私は狩りを続け、気がついた頃には日が暮れ始めた。
「やばっ!」
慌てて街に帰るけれど、街から離れすぎていたのか、狩猟ギルドに着く頃にはすっかり日が暮れていた。
「これでお願いします」
がらんどうの狩猟ギルドに入り、列に並ぶことなくカウンターにつく。今日取れた素材は全部で四千三百ゴールドになった。
「やった!」
これなら、あのスカート以外にも色々買えるだろう。喜び勇んでガーデルマン服飾店に行く。すると、
「うそ……」
残念なことに、店は閉まっていた。現実は無情である。
失意のまま宿に帰り、二日分の宿代を払ってからふてくされるように毛布をかぶってログアウトした。




