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「全部で千七百二十ゴールドになります」
「……はい?」
私はスライムの素材である 『スライムゼリー』 と 『スライムの核』 を狩猟ギルドに売却した。したのだけれど、その売却額に非常に驚いている。もう少しで今来ている服の上下が買える値段だ。
「そんなになりますか?」
「はい。スライムゼリー九十七個で九百七十ゴールド、スライムの核七十五個で七百五十ゴールドになります」
ということは、少なくとも百体以上のスライムを一日で狩ったのかな。何気に狩っていたことに驚き、同時にそんなに熱中していたことに恥ずかしくなった。
「では、こちらになります」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってゴールドを受け取り、狩猟ギルドを後にする。
「どうしようかな、これ」
ゴールドは全部で二千以上あるから、もう一着今着ている服を買える。別に汚れるような使い方はしていない。それに、もし汚れても 【生活魔法】 のクリーンで汚れを落とせるし、毎晩ログアウトする前にはそうしている。でも、現実では慣れているけれど着たきり雀はなんとなく嫌なのだ。
「……じゃあ、行くか」
東の大通りに行き、クリーム色をした外壁の店へと入っていく。
「いらっしゃいませ」
そう店内で待機していた白のブラウスに茶色のベストを着た犬の耳を頭につけた女性の店員が言った。黒のズボンをはいた足が細くてあこがれる。
「以前、この店でこの服を買ったのですが、まだありますか?」
ここは、『ガーデルマン服飾店』。私が今来ている服と靴を買ったところだ。
「はい、ございます。ですが、お客様にはもっと華やかな……、例えば、こちらのフレアスカートのようなものがお似合いになるとおもいますが……」
そう言って店員は鮮やかな緑のスカートを進めてくる。正直、スカートの名前とか知らないけれど確かにかわいい。値段も五百ゴールドとなかなか良い値段だ。だけれど、スカート自体はいた記憶がなくてなんだか恥ずかしい。
「いえ、活動着が欲しいので」
それに、予算も無い。
「……かしこまりました。こちらになります」
店員はそう言うと店の奥の方にある地味な服のコーナーに案内される。
「こちらの探検服の上下ですね」
「はい、そうです」
名前は簡潔であまり格好良く無いけれど、今日まで着てみて性能が良いことは確認済みだ。まあ、それ相応の値段はするけれど。
「あわせて二千ゴールドになります」
レジに行き、言われた通りの額を支払う。これでまたすっからかんだ。
「ありがとうございました」
無事服の替えを買い、店を去る。替えを買えたのは嬉しいが、すっからかんになったのは寂しい。
「……また明日はスライム狩りかな?」
今日は色々練習しながらだった割には稼げたので、明日本腰を入れて狩ればもっと稼げるだろう。まあ、使う予定は宿代くらいしか決まっていないのだけれど、お金はいくらあっても困ることは無い。
「にしても、あのスカート可愛かったなあ……」
頭に引っかかるのはさっき店員に進められたスカートのことだ。気になるけれど、私なんかがはいても良いのだろうか。ここはゲームだけれど、現実の私は髪の毛はボサボサだし、肌は荒れ放題で、おまけに色々大事なものがない。そんな私が、ゲームの中とはいえ、あんな可愛らしいものをはいても良いのだろうか。
「……やめよう」
頭をふって思考を変える。それに、買いたくても今はお金が無いし、ゲームを進めるなら冒険用の装備を整えるほうが先決だろう。
「おまけに、スキルを成長させるのに時間がかかりそうだし、買っても楽しむ時間はなさそうだから、別に良いかな」
そうあきらめながら、宿に着く。
「お、嬢ちゃんいらっしゃい」
「おばちゃん、今日もお願いね」
「ええ、いつもの部屋、空けといたよ」
「ありがとう」
そう言っていつもの部屋に行こうと階段に向かうが、背中に視線を感じたので振り返ると、おばちゃんが何か見てきていた。
「……どうしました?」
「ん? ああ、何か悩んでそうだなー、って」
「……分かりますか?」
私は、おばちゃんの洞察力に驚いた。
「そりゃあ、何年も宿屋やってると、観察力が鍛えられるからねえ」
そうおばちゃんは笑った。
「それはすごいですね」
「年の功、てやつよ」
そう言っておばちゃんはまた笑う。ここまで話したことは無かったけれど、もっと前に話しておけば良かった、と少し後悔した。
「ま、何に悩んでいるかまでは分からないけど、結局やりたいようにやるのが一番だよ」
そのおばちゃんの言葉で、決心がついた。
「急に良い顔になったね。なら大丈夫だね」
「はい。ありがとう、おばちゃん」
そう言って軽い足取りで宿屋の階段を上る。明日必死に稼いで、それであのスカートを買おう。はく機会は無いだろうけれど、宿屋の部屋で楽しめば良い。
「明日も頑張るぞ」
そう気合を入れてログアウトした。




