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「ゴブリンの群れ、ですか?」
「はい」
狩猟ギルドで手に入れたゴブリンの角五本を売りながら、受付のお姉さんに尋ねる。
「数はどのくらいですか?」
「五匹です」
「……なるほど。なら大丈夫ですよ」
「大丈夫、ですか?」
私はそう受付の人に聞き返す。
「はい。『湧いた』 ばかりのゴブリンは一匹で行動していますが、しばらく経つとだいたい六匹程度で群れますよ」
「なるほど」
ということは、別に珍しいことでもなかったのか。
「では、ゴブリンの角五本で百ゴールドになります」
移動も含めて、一時間半程度の稼ぎとしては妥当なところかな。
「そして、こちらの剣ですが、鍛冶ギルドで売ることをお勧めします」
受付の人は、ボロボロの剣をこちらに返しながら言った。
「鍛冶ギルド、ですか?」
MAPには載っているが、昨日街を歩いてみたけれどいまいち場所が分からなかったのだ。
「はい。西の大通りを少し北側に入ったところにあります。少し分かりにくい所にありますが、音をたどればすぐに見つかると思いますよ」
「分かりました。ありがとうございます」
そう礼を言ってから狩猟ギルドを後にし、西の大通りの方へ行く。空は既に色付いて着ている。急がねば。
「鍛冶ギルド、と言うだけあって鍛冶の音がするのかな?」
実際、少し北のほうからカーンカーンと音がする。その音に従って進むと、狩猟ギルドよりも大きな石造りの建物も前に着いた。一箇所だけ木造のドアには、槌が交差する紋章が描かれている。
「ここかな? 失礼します」
そう言いながらドアを引く。するとそこには、モジャモジャの髭を蓄え、背の低く筋肉質なおっさんたちがたむろしていた。
「なんじゃ、嬢ちゃん。ここには個人向けの商品なぞ売ってないぞ」
そうおっさんの一人が言う。髭を三つ編みにしているのがシュールだ。
「い、いえ。こちらならこれを買い取ってもらえると聞きまして」
噴き出しそうになるのをこらえながら、リュックからボロボロの剣を取り出す。
「ほう……。ちいと見せてみ」
そう頭のはげたおっさんが言ったので、素直に渡す。
「……嬢ちゃん、これをどこで手に入れたんじゃ?」
「ゴブリンからです」
そう言うと、おっさん達はざわめきだす。
「この造りはドワーフのもんじゃぞ。しかも、オーダーメイドのようじゃ。ほら、重心がちとちがう」
「ワシらが認めるような人物がゴブリンなんぞに負けるものか!」
「この銘は……少なくともこの街のものじゃないな。東の炭鉱街のエイスのものじゃないか?」
「いや、それにしては添加物が良くない。むしろ南のシーザーのものじゃないのか?」
「いやいやそれとも……」
何の話をしているのかさっぱり分からない。分からないけれど、何気に重要な情報が出てきた気がする。ベータテストではこの街から出られなかったので他の街の情報がなく、しかも街道は北と西にしかない。なのに東と南の町の名前が出てきたということは、森や草原を踏破すればたどり着く可能性がある。
「あのー……」
「お、ああ。すまない。とりあえず、これ自体には価値はない。せいぜい鋳潰すくらいじゃろう。じゃが、研究には使えるので買い取ろう。百ゴールドでどうじゃ」
そう言われても、私にはその価値が分からないので、何ともいえない。
「よく分からないので、お任せします」
「おお、そうか。ありがとな」
私は、おっさんからゴールドを受け取り、礼を言う。
「ありがとうございます」
そう言って鍛冶ギルドを後にしようとすると、声をかけられた。
「おお、ちょっと待て、そのナイフを見せろ」
「え、はい」
私は振り返ってナイフを鞘ごと三つ編みのおっさんに渡すと、おっさん共はナイフを抜いて観察しだす。
「おお。量産品じゃが、この剣と造りが似ておる」
「銘は……入っておらんな」
「嬢ちゃん、これをどこで買った?」
そうはげたおっさんが尋ねてくる。ちょっと怖い。
「え、ええ。確か、南のガンフォート商店だったと思います」
「……あのいけ好かない野郎のところか」
「これはあいつが作ったものだろうが、この剣とは微妙に違っとるのう。師弟関係ではありそうじゃがの」
「……確か、あいつはシーザー出身じゃなかったか?」
「と、いうことは、シーザーで決定じゃろう」
良く分からないが、結論が出たのか、おっさんたちはしきりにうなずいている。
「あのー、もう良いですか?」
「お、ああ。構わんぞ」
そう言ってはげたおっさんからナイフを受け取る。
「では、失礼します」
「おお。また何かあったら来い」
私は礼をして鍛冶ギルドを出る。すると、三日月が昇ってくるところだったので、慌てていつもの宿のある南側に走っていき、ベッドに飛び込んでログアウトした。なんだか、短いけれどものすごく疲れた一日だった。




