第一話 ここはどこだ?
「…んん…」
目を覚ますと空が見えた………あれ? なんで仰向けで倒れてる…それよりもなんで道場から空が見える!? じゃあここは天国か?
だとしたら俺はもう死んだのか。短い人生だったな……。
「君はまだ死んでないよーん」
「!!?」
回想のつもりだったがどうやらダダ漏れだったらしい。少し恥ずかしい。上半身を起こして周りを把握する。と、ほんとに天国だ!
床はふわふわの雲、あと目の前にいるいかにも神様みたいな人に青空。なにより道場じゃないし。
「死んでないって、じゃあここはなんだ?」
「ノーコメント」
「は?」
「いやいや、うっそ〜ん! あははは、笑った??」
…なんだこのオッサン。かなりイラつく…今すぐぶん殴りたい気持ちを抑えるので精一杯だが
「なにがあははは、笑った? だーーー」
このまま溜めるのはやだし、近くにあった雲で出来たオブジェを殴った。雲だし痛くはないがオブジェは元の雲に戻った。
「……えぇっと、遥くん?」
「……遥って呼ばないで下さい。自称神様」
「え〜! 自称じゃないよ? ワシは歴とした神様じゃよ」
神様だって見えるのは外見だけじゃねぇか。中身は酒に酔ったオッサンか、幼稚園。ここだって天国に見えるがまだ地球の中かもしれない!
だとしたら俺は気絶してから誘拐されて人体実験されるのか!?
「人体実験はしないよ〜ん。面白いジョークだね〜」
「って、なんで心の中を読んでるんだ!!」
「それは勿論、神様だからじゃよ。おふざけはここまでにして早速、本題に入ろうか」
「…本題? 」
自称神様の雰囲気が変わった? さっきとは別人だ。真剣な眼差しに威厳を感じてしまう。
「君はまだ死ぬ運命ではない。最初に言っとくけど死んだ訳じゃないからね」
「じゃあここは天国じゃないのか?」
「いいや、紛れもなく天国じゃ」
どっちだよ。死んでないって言ったらここは天国だとか言うし、ハッキリして欲しい。
「単刀直入に言うと、君は選ばれたんじゃ」
「…選ば…れた? 何にだよ」
「五人目の勇者に選ばれたんじゃ」
「な、な……勇者って!」
勇者なんて異世界か? しかも恥ずかしい名前付けられてるし、どうなっちまうんだよ俺は!
「君の身体は異世界へ召喚された。まぁ、ワシは君の精神と話をしてるもんじゃな……目を覚ませば、晴れて勇者じゃ」
「勝手すぎるだろ! 大事な戦いの最中に異世界に召喚って…」
「召喚されなければ君は負けてたぞ?」
「う、いや。絶対勝つさ」
ヤクザ共にじいちゃんの道場を渡すかよ。早く元の世界に戻らなきゃな……明日香が心配だ。
「アンタ神様だろ? だったら俺を元の世界に戻してくれよ。まだやらなきゃいけない事があるんだ」
「…さっきも言ったが君はもう異世界へ召喚された。召喚魔法というのは紅月の日、それに体力の魔力が必要になる。今すぐには無理じゃ」
無理って……じゃあどうすんだ。どうすれば元の世界に戻れる?
「この世界での役割を終えれば、勇者は役目を終えて元の世界へ帰れるじゃろう」
「役目って…」
「魔王を倒すという役目じゃ」
やっぱりな。異世界と言ったら普通はそう思うよな……魔王を倒すのは何ヶ月、いや何年掛かるんだろう。
「君達が異世界に居る間は、元の世界の時間は止まったまま。だから安心するんじゃ」
「あ、それなら安心だな」
って自称神様のペースに呑まれてる。ダメだ。例え元の世界の時間が止まってたって安心して戦えない。というか勇者が四人いるんだから俺必要ないじゃん。
「いいや、必要じゃ」
「…また心読んだな」
「異世界側も召喚したのは四人のつもりじゃろう。五人目は想定外の筈」
「無視か…で、想定外を利用して魔王を騙す作戦か?」
「はる…君は馬鹿か? 勇者が異世界に来た事は魔王も知っておる」
コイツにだけは馬鹿呼ばわりされたくねぇ。というか俺の方が頭いいに決まってる!
「魔王最強じゃねーか」
「そう、魔王最強なのじゃ。御託にない五人目の勇者が現れた……それは勝利の切り札と言っても過言ではない」
勝利の切り札か…。
「なにか質問はあるか?」
「…魔王を倒したら本当に帰れるんだよな」
「ふむ。勿論じゃ」
それなら手助けとしてやってやるか、魔王退治!
「よし、早い事ちゃっちゃと倒して元の世界に帰らないとな…」
「…もし魔王を倒し再びここへ戻って来るとしよう。その時も帰りたいという気持ちを失ってはいないかな?」
「当たり前だろ? 」
「…そうか」
コイツ、まさか異世界が恋しくなって帰りたくないって言うと思ったのか?
「ふむ。そして最後に、君に異世界で役立つ力を与えよう」
「力?」
これはチートという奴か? そうか、異世界に行くと神様からチートを貰う。これは定番だったな。昔、明日香にオススメされた本と同じだ。
「う…なんだ?」
突如、視界が揺れる。地震か!? いや、俺が揺れてるのか。全身の力が抜ける……眠い。気が付けば俺は雲に倒れていた。
「眠…い…」
「眠りから覚めれば異世界じゃ。健闘を祈るぞ」
あ、もうダメだ…。
俺は本日二度目の眠りについた…。
「……篠塚 遥。君には様々な困難が立ち塞がるであろう。最後に君は、帰りたいと思うかな?」