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0話 篠塚 遥





ハルカ、よいか。ワシは長くない……ワシが死ねば、あの道場は壊されてしまうかもしれぬ。そうならない為に…お前が…あの道場を救うのじゃ…』




それがじいちゃんの最期の言葉だった。俺が小学生の時に両親が事故で死に、それ以来じいちゃんの元で育った。18歳になった年にじいちゃんは死んだ。唯一の家族が死んで俺は天涯孤独になってしまった。



「ハル! やっぱりここだった」

「あ……明日香」



道場で一人、感傷に浸っていると明るい声が道場に響いた。声の主は東雲 明日香(シノノメ アスカ)。幼なじみだ。茶髪の髪を揺らし、俺の元へ走って来る。明日香はスタイルも性格もいいからよくモテる。だから俺は明日香のボディーガードだ。



「何のようだ? 俺は忙しいんだ」

「もぅ。また戦い?」

「…しょうがないだろ。あっちが悪いんだ…」



じいちゃんが死んでから、この道場を引き払いたいという団体、というかヤクザが現れた。俺は勿論、断ったがしぶとい奴らでまだ諦めてないようだ。こう見えて剣道はかなり自信はある。それで今日まで追っ払ってこれた。



「…警察には、相談しないの? だってこんな無理やり追い出そうだなんて違法でしょ」

「警察の手なんて借りねぇよ。じいちゃんの道場は俺が守るんだ」



そう、ここはじいちゃんとの思い出が詰まった道場だ。ヤクザなんかに負けるかよ…。



「ふっ。しょうがないなー、いつも通りちゃんと勝ってね」

「当たり前だ。俺を甘く見んなよ」

「おぅおぅー。ガキに随分と甘く見られてるみてぇだな〜」



どうやら相手が来たようだ。

振り返るとつるっぱげのおっさんとその後ろに三人の手下がいた。あのハゲがボスか?いつもは手下が相手だったからな……だけど負けねぇ。竹刀を構える。



「…お前が相手か? かかって来い」

「おい、勘違いしてねーか? 今日は強制的にサインしてもらうぜ」

「俺がサインすると思ってるのかよ」

「いーや、思ってねぇよ。でもこれを見たら嫌でもサインしたくなるだろうな」



「あっ!」



隣にいた明日香が驚いて声をあげる。手下が拘束してる女性、その人は明日香の姉だった。姉の涼香さんは涙目になって拘束されている。口は布で結ばれ、手も結ばれていた。



「くっ、卑怯だぞ!!」

「あははは。卑怯で結構! さぁ、この契約書にサインしろ」

「ハル…」



どうすれば…。

どうすればいいんだ………教えてくれ、じいちゃん。



「ぐはっ!」

「うっ」

「うわああっ」



悲鳴と一緒にバタバタと倒れる手下たち。手下に捕まってた筈の涼香さんだけが無傷で立っていた。



「りょ、涼香さん…」

「さすが姉さん!」

「な、な、な……どうなってやがるっ」



残るはボス一人。人質もいない。これなら楽勝だ!

俺は竹刀に力を入れ、踏み出す。



「う、ぐあああっ!」



竹刀はボスの頭を直撃した。そのまま気絶したボスは力なく倒れた。



「…ふぅ」

「やったわね、(・・・)!」

「遥って呼ぶなー!」

「ご、ごめんなさい。つい癖で」



これでこの道場は安全だ。これからもずっと俺が守っていける、この時はそう思っていたんだ…。



「あっ、危ない遥くん!」

「ん?」

「死ねぇぇ!!!」













あれ? 俺、どうなったんだ…。確か、刺されたんだっけ。まずいな痛みを感じない……死ぬのか?



なんで。だってまだ高校生なんだぞ? それに俺が死んだらこの道場はどうなるんだ。まだまだやりたい事があったのに。なんで……。次第に意識が遠のく。死が近いのか。もういいや……死ぬなら…………この力で困ってる人を助けたいな…。どうせなら異世界とかな。



そんな事を思ってると強烈な眠気が襲う。

もう、ほんとに終わるんだな。




耳に残っているのは明日香の泣き叫ぶ声と涼香さんの俺を呼ぶ声だけだった…。












「姫様! この方が…」

「うん。この人が……私達の希望! 怪我をしてるみたい。早く治療を」

「ハッ! 了解しました」



晴天の青空が儀式の成功を祝福しているようだ。魔法陣を囲むように並ぶ石像。魔法陣の下に眠るように現れた青年にドレスを着た金髪の少女が近づく。



「………勇者」

「姫様。お待たせいたしました」



少女はそう口にしながら青年の髪を優しく触った。少女の後ろには鎧を付けた兵士が敬礼をしながら報告する。兵士は心なしか、緊張しているようだ。



「そう、ありがとう。ごめんね……本当なら私の力で治療した方が早いのに…」

「滅相もございません! 姫様は今、召喚の儀式で魔力を使い果たしています。今力をお使えになればお体に支障が出るかもしれません」

「…ありがとう」



鎧の兵士が青年を抱え、城の中へ消える。

この時から運命が動き始めた。



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