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神の使者

どうも、薔薇乙女です。


昨日投稿するつもりが、今日になってしまいました。


奉仕探偵部の探偵の要素が強まっている四話です。

お楽しみください。


「なッ、なにこれェェ!!」


 千春が自分の席に着くなり、大声で叫んだ。まだ数人しか生徒がいない教室にその声は響き渡り、俺と千春よりも早く登校していた4人が一斉にこちらに振り返る。


「千春、うるさいぞ。今日はお前のせいで早く起きたんだから頭が痛いんだ」


 今日俺はいつものごとく深月に起こされたのだが、普段とは違う点があった。それは、俺を起こした深月の隣に千春が立っていたことだ。なんでも、宿題が終わらなかったから早く学校に行って写させて欲しいらしい。断りたいのは山々だが、千春のことだ、断れば流血は避けられないだろう。俺は重い体を引きずるように学校に登校した。


「大体なぁ、そんな叫ぶ暇があったら早く宿題を写しちゃえばいいだろ」


「そ、それどころじゃない! ちょっとこっち来て見てよ!!」


「あ~?眠いのに…………って、えッ?!」


 俺は目を見開いた。千春の指さす先──つまりは千春の机の中がとんでもないことになっていた。教材はビリビリに破かれ、ペンは折られて無理矢理に机に捩じ込まれている。一体こんな酷いことを誰がやったのだろうか。千春のことを嫌う人なんてなかなかいないと思うのだが……


「千春、これをやったやつに心当たりとかあるか?なんか恨まれることがあるとか」


「ないわよそんなの!!」


「うーん……とりあえずわかるのは、犯人がこの4人の中にいる、ってことだな」


 俺はチラっと俺と千春以外の4人に視線を移す。この教室は放課後にクラス委員長が鍵を閉めることになっている。つまり、千春の物を壊すとしたら朝の千春が来るまでの時間を狙うしかない。


「なんかあったんスか?」


「朝からうるせぇな……」


「どうしたの? ミストルティンさん。何かあった?」


「ちょっち頭に響くから騒ぐのマジ勘弁~」


 そんなことを考えていると、4人とも千春が叫んだことに対してちょっと遅れて反応し始める。


「それが千春の教材とかペンとかが壊されてるんだよ。こんなことできるのは俺らが登校する前に既に教室にいたお前ら4人の誰かだと思うんだけど……」


「つまり俺らのこと疑ってるってことっスか?」


「くだらない……俺は寝る」


 この語尾に、~スか、と付けてる金髪の男は三井隆弘。男子バスケットボール部に所属していて、職員室でもよく名前が挙がる問題児だ。

 そしてもう1人の男の方、面倒くさそうにしている男は冴木亮太。帰宅部で読書家、これといった特徴もない人だ。悪い言い方だけど。


「ミストルティンさん、私も片付けるの手伝おうか?」


「ミスティンにこんなことする奴このクラスにいなくね~? つかいたらマジ驚きすぎて激ヤバなんだけどマジ」


 このおしとやかで清楚な黒髪ショートの人は天道恵海さん。クラスでも学級委員長の次に真面目キャラで通ってる優等生だ。

 そしてこのチャラチャラしている、茶髪で化粧バッチリ、日焼けサロンに通っているであろう肌をした典型的なギャルは高橋麗奈。天道さんとはタイプが真逆だが、なぜか天道さんと仲がいい。


「つか九条、俺らがやったとは限らなくねぇスか? もしかしたら昨日の放課後にやったのかもしんねぇじゃん?」


「いや、それはないよ。教室は放課後に学級委員長の神代さんが鍵をかけてるはずだから」


「あ~、そういやそうっスね」


「う~ん、とにかく放課後4人とも少人数教室に来てくれないか? 犯人探しのためにさ」


「九条っち必死になりすぎっしょ~マジウケる~~」


「高橋、これは立派な犯罪なんだ。器物破損っていうね。4人とも、頼めるかな?」


 俺は改めて問い返す。すると……


「ま、いいっスよ。俺暇だし」


「面倒ではあるが、このまま疑われているのも気分が悪い。協力しよう」


「ミストルティンさんのためなら私も協力します!」


「ま、めぐみんが行くならうちも行くわ。九条マジうちに感謝な」


 4人揃って了承の返事が帰ってきた。これで放課後に詩織先輩と桃香と犯人探しができるぞ!……ってその前に桃香の異能で即解決だな。

 ちなみにさっきから高橋が使ってるミスティンとかめぐみんとかは、彼女が勝手に作ったあだ名だ。


「ありがとう4人とも!」


 ※ ※ ※


「なるほど、大体の事情はわかったわ」


 放課後、約束通り俺と千春、桃香と詩織先輩と例の4人、更に学級委員長の神代さんは奉仕探偵部の部室となっている少人数教室に来ていた。なぜ神代さんが来ているのかというと、昨日の放課後の鍵閉めについて詳細に確認するのに俺が呼んだためである。真面目な性格の彼女は快く俺のお願いを受け入れて来てくれた。


「とりあえず早速桃香ちゃんの異能を使いましょう。それが一番早いわ」


「はい! わかりました」


 桃香は神代さんを含めた5人に歩み寄る。ちなみに俺も一応は教室の物と会話をしてみたのだが、物も人間と同じで睡眠に似たようなものを摂るため、結局なんの情報も得られなかった。どういうわけか心の声が聞こえない物もあったのだが……まぁ、桃香の異能で丸分かりなので構わないのだろう。


「あ……れ?」


「ん? どうした桃香」


「聞こえない……」


「え?」


「心の声が誰からも聞こえない……なんで……?」


「そんなこと有り得るのか?!」


「桃香ちゃん、あなたの異能は使えないときもあるの?」


 俺と詩織先輩は驚く。今までで異能が使えなくなるなんてことはなかったはずだ。


「いえ、使えないなんてことなかったんですけど……」


「まぁ理由はなんにせよ、使えないなら仕方ないわ。地道にアリバイを聞いていきましょう。まずは神代さんは放課後にしっかり鍵閉めをしたのか、誰が最初に登校したのかから聞きましょうか」


「はい。私がしっかり鍵をかけましたし、机の列を整えるためにミストルティンの席も確認しましたが、そのときは異変はありませんでした」


「んで、最初は俺っスね」


 神代さんが詩織先輩にしっかりと応え、三井もすぐに応えた。どうやら彼が最初に入ってきたらしい。最初の人なら犯行は楽だが……


「でもよ、俺は先生に呼び出しくらって朝から登校したんスよ?門の前にいた警備員が俺の登校時間を覚えてるはずだから聞いてみればいいっス。門を通ってから職員室に着くまでの時間じゃ大量の教材を引き裂いたり出来ないっスから」


「でも階段を走れば時間を稼ぐことも出来るんじゃ……」


 桃香が小さな声で反論する。しかし──


「京さん、悪いけどそれは無理っスよ。職員室は階段のすぐそばっスから。走ったりしたらバレますって」


「あっっ、そうですよね~」


「それではとりあえず三井君のアリバイは成立ということで、2番目に来たのは誰かしら」


「それは俺だな」


 今度は冴木がすぐに返事をした。しかし──


「一応言っときますけど、俺も先生に補習で呼ばれて早く登校したんです。このままじゃ進級出来ないから勉強しろ、ってね。三井が俺と職員室で顔合わせてますから、俺も犯人じゃないですよ」


「ああ、そいや冴木もいたな」


「どうやら冴木君もアリバイ成立でいいみたいね。すると残りはこの2人だけど……」


 詩織先輩が天道さんと高橋に目を向ける。確かに三井と冴木は以前も先生に呼び出されていたのは俺も知ってるし、先生に確認すればバレるようなアリバイを言うとは到底思えない。


「ちょいちょい、うちとめぐみんがあんなんやるわけないじゃん。ね? めぐみん?」


「うん」


 高橋が慌てて天道さんに確認を取る。──ん?三井と冴木のアリバイがあるということは……


「とりあえずアリバイを聞きましょう。あなたたちのうち先に登校したのはどちら?」


「うちら家が近所だから毎日一緒に登校してるんで、リアルうちらじゃ無理」


「はい、確かに今日も麗奈と一緒に登校しました」


「2人で協力した、って考えられないかな?」


 高橋と天道さんの話に桃香が遠慮がちに切り込んだ。どうやら桃香も千春が酷いことをされたのには少なからず腹を立てているらしい。


「ももっちはうちらが2人でやったとでも言いたいワケ?」


「京さん、私達2人が共犯を疑うのは早いですよ。暇だったからSNSで麗奈も私もずっとつぶやいてましたから。履歴を見れば犯行をするのは不可能だってわかりますよ」


 天道さんが桃香にスマートフォンの画面を見せながら言う。桃香はそれを聞いて慌てて謝っていた。そう、天道さんが言った通り犯人はその2人じゃない。

 ──わかったぞ、犯人が。


「先輩、犯人がわかりました」


「本当かしら、悠真君」


 詩織先輩が疑いの眼差しを向けてくる。しかし俺は自分で言うのもなんだが、勉強はそんなにできなくとも頭は回る方だ。


「この4人についてですが、最初から天道さんと高橋には犯行は不可能です。俺が思うに、2人のその爪の長さじゃあの量の教科書を破るのは不可能、たとえ出来たとしてもマニキュアが剥がれてしまうはずです」


 みんなが天道さんと高橋の爪を見る。俺が言った通り、2人の爪はいかにも女子高生といったような長い爪で、天道さんには控えめな色の、高橋は派手な色のマニキュアが塗られている。もちろん、どちらも色が剥げていない。


「それで残るは三井と冴木ですが、この2人が犯人ならば確認がすぐ取れるようなアリバイは言わないでしょう。ですから犯人はこの4人じゃありません」


「はぁ、悠真君、あなたが最初に言ったのよ?自分より早く登校していた人じゃないと無理だって」


 詩織先輩はすかさず突っ込んでくる。そう、俺たちは前提条件から間違えていたんだ。


「いるじゃないですか、1人だけ。誰にもバレずに犯行を行える人が」


「そんな人いるわけ……ってまさか…………」



「──犯人は神代祐理さん、あなたですね?」



「私はやっていません」


「でもこの4人のアリバイは証明されました。この状況であんなことをできるのは神代さんだけなんです」


「……証拠が無いですよね?それに放課後私が鍵を閉めるまでの間に他の人がやったのかもしれませんよ?」


「そうだよ悠真君、真面目な神代さんがそんなことやるわけないし、証拠も無いよ!」


 神代さんも桃香も否定してくる。だけど、もう決定打はあるんだよ。


「証拠はあります。神代さんがさっき言ったんですよ。《私が確認したときは異変は無かった》ってね」


「それは……たぶん本当はちゃんと確認できてなかったからで……」


「そんなことないでしょ? 俺が朝見たときはどの机もピッシリ椅子まで綺麗な列になってましたから。それに千春はいつも椅子をしまわずに帰ります。その椅子が朝にちゃんとしまわれていたということは確実に神代さんがチェックしたはずです!」


「…………」


「やったのは神代さんですね?」


「……ヒッ」


「?」


「……イヒヒヒヒ!」


 神代さんが不気味な声で笑い出す。ようやく真面目キャラの化けの皮が剥がれたな?


「か、神代さん……なんで……」


 千春が神代さんに問う。俺もそこが謎なのだ。どうして神代さんが千春に嫌がらせをする必要があったのか。


「九条の実力を測るためだよ」


「は? 俺の力?」


「ヒヒヒ、とぼけんなよ異能使い! 俺はお前が異能無しでどのくらいの実力があるのか測るために造られたんだよ!」


「まさか……お前も異能使いか!!」


「気付くのおせェよ九条! 京の力を一時的に封じたのも! 物の心をぶっ壊してやったのも私なんだよ!!」


「…………! だから物の声が聞こえなかったのか……理由も無く心を壊すなんて! というか今能力を2種類─」


「そう、私は神によって造られし使者であり、異能使い。ダブルホルダーと言われる2種類の異能持ちなんだよ!!」


「神……? ダブルホルダーだと?」


「物の心を壊す力と一時的に異能使いの力を無効化する力だ! まぁこれでお前の実力はわかった。そんじゃ帰らせてもらうぜ?」


「待て! お前は一体─」


「イヒヒヒヒヒィッッ! どけぇ!!」


 神代さんが少人数教室から素早い動きで逃げ出す。だけど逃がすわけにはいかないぞ!

 俺はすぐに神代さんを全力で追いかける。


「来るんじゃねぇ! お前に捕まったらマズイんだよ! 神に殺されんだろうが!」


「何言ってんだ?! 殺されるってなんだ!」


「うるせぇ!とにかく来んな……ってうぉっ!?」


 ズサァァア!


 神代さんは何かに滑って盛大に転んだ。


「クソぉぉぉ!なんでこんなとこが濡れてんだよォ!」


「よし!捕まえたぞ!」


「なッッ……やめろ!!」


 俺は神代さんを押さえつけるが、彼女は本気で暴れてくる。何がそんなにまずいのだろうか。


「ほ、本気でやめ──」


 神代さんが何か言いかけた途端に、空間が歪みはじめて……


「なんだよこの扉!」


 謎の扉が現れ、その扉の内側から何本もの太い鎖が飛び出し、神代さんに絡みついた。そしてズルズルと彼女は扉の向こう側に引きずられていく。


「あぁあぁぁぁあ!!」


 神代さんは大声で叫ぶが、その鎖はどんどん彼女に絡みつき、引きずりこむ。やがて完全に彼女が向こう側に行ったとき、ギギギ……と音を立てて扉は締まり、消えた。


「い、今のは一体……」


 ……俺はそれをただただ見ていることしかできなかった。


 ※ ※ ※


「結局、神代さんの行方わからなくなっちゃったのね?」


「ああ……ゴメン千春」


「あんたが謝ることじゃないわよ。事情はよくわからないけど、私を恨んでやったわけじゃないならいいわ」


 あの後俺はみんなに一部始終を話して解散した。今は千春と一緒に帰宅途中である。


「ホントに今日はありがとね、私のために必死になってくれて」


「なんだよ急に。お前らしくもない」


「らしくないってなによ!まぁいいわ、許してあげる」


──チュッ


 感じたのは唇の感触。

 俺は千春に頬にキスをされていた。


「これは今日のお礼!それじゃまた明日!」


 千春は顔を赤くして自宅に走っていく。俺は一瞬何をされたのかわからなくて呆然としていたが、段々顔が熱くなるのがわかる。


「千春の唇……柔らかかった…………」



「お兄ちゃん!!!!!」


「み、深月ィィ?!?!」


 しまった、ここは俺の家の前だった!きっと深月は外を見ながら俺の帰りを待っていたに違いない!!


「お兄ちゃん!!千春さんにデレデレしちゃって!」


「す、すまん!!!」


 奉仕探偵部の、二回目にして今までで最大の事件を解決したあと、俺は妹の機嫌を直すためにひたすら謝っていたのだった。

いやぁ、疲れました。

なんか自分の中ではこの四話はかなり厳しい戦いとなりました。


昨日はバレンタインデーだったし……

バレンタインデーの短編でも書こうかな……

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