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「似て、る……? 俺とお前が?」

 壱は呆けた顔で時雨を見やる。

 時雨にも昔、護るべき大事なヒロインが居た。

 自分が主人公だと疑ってもなかったあの時。

 ただただ、襲われていたのだあの子は。

 日本の研究機関から、大和製鉄から、海外の機関やカルトもどきから。

 まだ、十五ほどだった自分は力もなく――他の人間ですら守ってやると思い上がり少女を守れなかった。

「お前にわかるか……? あの時、他を切り捨ててれば俺はアイツを助けれたかもしれないのに!!」

 肩を震わせ、未だ後悔の念から抜けだせていないことを表していた。

 だから、壱は叫ぶ。

「……だったら何でお前はその時の敵みてえな真似してんだよ!? おかしいだろそんなの!?」

 時雨は本当に下らなさそうに笑う。

「お前にはわからねえか……もう、俺は守るものなんざねえんだよ。アイツの好きだった平和ってのを実現してやろうかと思っただけだよ」

「お前がやってることのどこに平和があんだよ!!」

 どこに? 時雨は本当に、過去の自分に語りかけるように呟く。

「先にだよ。クレアを手に入れ、お前を研究して大和製鉄を今より強くする。この国を支配したら、次は世界だ。お前の力とクレアの力が合わされば世界だって手に入れれる……だろ? そしたら、争いだって消えて失せるさ」

「お前は、ちょっと舐めてるよ。海田だって自分よりも強い奴と戦ったことがあるはずだ。それでも仲間を護るために諦めなかったはずだ。遊星だって怖かった筈だ。でも、クリスのためにここまで来たんだ」

 壱は、語りかけるかのように言う。

 彼は昔の姿を壱に見ていた。

 なら、確かに存在していたはずだ。

 微かな善意が。

 分かっているはずだ。

 そういう人々が居ることを。

 そういう人たちの為に巨大な敵と戦う人が居ることを。

「クレアだってそうだ! 俺を助けるためにテメエみたいな巨大な敵に身体を張ってくれた!! お前はそういう奴らも、他の国に居るそんな奴らもふざけた平和のために犠牲にするってことなんだぞ!? 何でそんなことができんだよ!?」

「お前は、偽善だな。そんな奴に俺の目標は譲れねえ……ッ!! お前は彼女のために殺す」

 時雨は決意を声にのせるかのように言う。

 けれど、それは。

 壱は、本気で脳の血管が切れるかと思った。

「テメエのわがままに、その子を巻き込むんじゃねえ!! 平和が好きな女の子そんな過程を望むと思ってんのか!?」

「お前に分かるのか……? 大事な女が居なくなった奴の気持ちが!!」

 壱は時雨の怒声を受け入れるように聴く。

 それは、分かる。

「俺も分かる。俺の目の前で『死んだ』からな。けど、俺はテメエを殺そうとは思わねえ。本気でむかついてるし、殺してやりてえけどな」

 深海のように静かな声に時雨が怯む。

「何で……?」

「だから言ってんだろ? 俺は善を好むし、あいつが悲しむからだよ。テメエは私怨で世界を壊そうとしてるだけだ!! 七大魔術師のお前の心ひとつで両腕の範囲分は世界が変わる筈なんだ!! それだけの力をお前は持ってるはずだ!!」

 壱は真っ直ぐ前へと飛び出す。

 拳を握る。

「ふざ、けるな!! 俺は善なんて信じねえ! 俺が助けようとした奴が……裏切ったんだ! テメエだってそいつのせいで弱ってる! 俺は善でも悪でもねえ!! 目標のために、結果だけのためにただ、走る!!」

 時雨は不安定な沼地を走るかのように突っ走ってくる。

 まるで、壱に昔の自分を重ね、呼応するかのようだ。

「……本当に思ってんのか?」

 二人は互いに拳を亜光速でぶつけあう。

 蹴りを避け、顎を蹴り飛ばす。

「それは善が悪いんじゃねえだろ!! お前までソイツらに踊らされて勝手に自滅しやがって! 善も悪も関係ない? だったら何でお前は彼女の目指す『結果』だけを求めてんだよ!! それが彼女の好きなはずの『善』じゃないと思ってるからじゃねえのか!?」

「うる、せえええええええええええええええ!!!」

 獣のような咆哮を撒き散らしながら、壱の喉元へと手を伸ばし、掻き切る。

「善善善ってうるせえんだよ!! 善なんざ、悪もいいところだ!」

 腹部を蹴り飛ばし、魔の手から脱出する。

 血が吹き出て、叫びそうになるが、それを懸命に声に出し、叫ぶ。

 魔力が少ない壱は圧倒的に不利だ。

 拳と拳をぶつけ合った結果、血が噴く。

 骨がひび割れる。

 けれど、戦う。

「善が悪い? どんな哲学だそりゃあ!? ふざけんな善は善いから善だって言うんだよ!!」

 それに、と壱は呟く。

「俺はそれでどれだけの人に助けてもらったと思ってんだ!」

 時雨が驚愕の表情を浮かべる。

 それはきっと思ってみなかったことなのだろう。

 彼は自分の善行で相手を助けてことはあっても助けれたことはない。

 善は巡り巡って帰ってくる。

 そんな事も経験したことがないのだろう。

 時雨の拳を初めて、殴り飛ばした。

 競り勝ったのだ。

「何を、した!?」

 時雨が驚き、怒声を上げる。

「役立たず? よくもまあ、言ってくれたもんだ……なあ!?」

「ワタシの力……魔力操作で壱の魔力を回復させたのよ!!」

 突如、飛び出した凛に時雨は唇を噛み締める。

「俺だって知らなかったさ――けどさ、こうなった!」

 壱は連続で時雨を殴る、殴る、殴る!!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

 記憶喪失の恨みを込めて、殴る!!

「終わりだ」

 殴った衝撃で吹き飛んだ時雨を粒子が囲んだ。

 周りへとゆっくりと浸透させた粒子だ。

「ま、さか……ッ!!?」

 時雨が壱へと叫ぶ。

「お前はまだまだ救いの余地があるよ」

 時雨の大切な人が語りかけてくるような気がした。

 クレアの笑みが思い浮かぶ。

「ああ……アイツを止めりゃいいんだろ?」

 だからこそのこの作戦でもあるのだ。

「お前は目標以外を全部諦めたようだけどさ」

 掌をゆっくりと閉める。

「この作戦を気づかなかった――それが答えだ!!」

 粒子は時雨を押しつぶす球体となり、押し潰した。

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