元善VS善2
「逃げてばっかじゃ、相手は殺せねえんだぜクソ野郎があああああ!!」
透明の紐がまるで、殺意を秘めた蛇のように壱へと向かう。
しかし、壱は透明の紐を粒子で察し、粒子をブレードのように扱い斬り飛ばした。
「誰が、殺すかよ……」
ぽつりと、呟く。
「何……?」
信じられないものでも見たかのように瞳孔を開き、壱を見る。
「誰が、テメエを殺すかって言ったんだ」
今まで普通の暮らしを営んできた壱にとっては完全なる正論。
けれど、闇に身をやつし、数々の人を殺めてきた彼にとってはもはや論理ですらない。
「ふざけたこと、言ってるんじゃねえぞ……」
「ふざけてねえよ。俺は誰も、殺さねえ……」
「星陵学園の連中だって海田やそこに転がってる奴だって裏世界の連中を殺してる! お前は誰も殺さずに済まそうってのか!?」
「当たり前だ。アイツは自分の命よりも他人が気になるような奴なんだよ。だから、俺はアイツのことを助けてえんだ!!」
壱は自分の胸の奥にあるもの全てを吐き出すように言う。
「テメエを殺したってあいつは悲しむんだ! アイツと一緒に笑えねえ未来がそこにあるって分かってんのに誰が後味悪いことするかよ!」
時雨はその台詞を全て聞いたうえで、こう言う。
「お前は、その全てを投げ打ってでもクレアを助けたいんだろうが……なら、することはひとつだろうが……」
押し殺すような声に壱は怯みそうになるが、ここで怯むわけにはいかない。絶対に。
「時雨……ふざけるな。俺はアイツと一緒に笑って暮らしていたいんだ。その為に、俺の――テメエの言う善行の為に殺すわけにはいかねえんだよ!! 俺の答えはずっとかわらねえ!!」
壱は言う。
「そうか……テメエはやっぱり俺に似てる」
ふと、言葉を零す。