元善VS善
「……か、はッ!?」
倉敷壱は粒子ごと、氷魔術で押し潰される。
鋭利な先端を潰すことにより、貫かれることは避けられたがしかし、ビルの層をぶち抜き階下へと落とされる。
さながら、それは隕石。
圧倒的な質量で壱を押し潰そうとする凶器だ。
両手で氷を押し返し、投げ返す。
「ちっ!」
舌打ちし、時雨の気配を察しようとし――ぞくりと、第六感が危険が告げる。
真上。
まるで、ボールでも蹴るかのような体勢で居た時雨は何の躊躇も見せず、実行する。
壱の自動防御が働く。
しかし、そんなのは三下しか通じない。
七大魔術師である彼に何度も通じる防御手段ではない。
粒子を衝撃魔術と手で押し退け、がら空きになった顎を蹴り飛ばす。
景色が飛び、顎を通して頭へと激痛が走る。
人体の急所。
化け物でも何でもない彼の身体は、だからこそ、素直に反応する。
一瞬、意識が飛び、身体の感覚が痺れたようにわからなくなる。
「が、あ……ああああああああああああ!!?」
直後、激痛と共に視界に映る主柱を見て叫び声を上げた。
肩がぬらりと赤く光っている主柱に貫かれていた。
赤くぬめっているのは勿論、自分の血。
真後ろから伸びた主柱に気づかなかった。
後ろは壁。
上も下も氷魔術のせいで開放的なぶち抜き空間となっている。
主柱と粒子だけが今の壱を支える材料となっていた。
「これが、お前の善の限界だ。とっととそこの女の守りを解いたらどうだ?」
女――凛は壱からは見えない。
けれど、そこらへんに居るのだろう。
瓦礫の中にでも潜っているのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
粒子で居場所は分かる。
探るべきか……。
「お前は粒子の何パーセントかを奴にやっている。加えてお前の魔力は最初から限界値じゃなかった」
時雨は目の前で重力魔術でも使っているのかふわふわと浮きながら壱に言う。
「お前は切り捨てるべきだ! コイツを。他人を」
時雨は感情的に、壱にくってかかる。
「切り、捨てる……?」
壱は少し驚きながらも柱を粒子で破壊しながら、肩から抜く。
「お前だって分かってるだろ。このままじゃテメエの大事な者を守れねえってことぐらい!!」
時雨は苛立ちを露にしながら叫ぶ。
まるでそれは壱のことを気遣っているようでいて、違和感を感じる。
「何だよ……お前はいったい何が言いてえんだよ?」
違和感を掘り起こすように壱は訊く。
戦わずに済む方法、そんな夢のような方法を掘り起こせるかもしれない。
「もしかして、俺のこと、アイツのことを心配してくれてんのか……? 何か、理由が――」
言い切る前に時雨はその台詞を中傷するかのようにあざ嗤う。
「はっ! テメエは何だ? 自分が本当に何でも救っちまうヒーローにでもなったつもりか? 前の戦いでテメエは何を失った!?」
壱は無様に表情を歪めた。
「ああ、そうだ! テメエはヒーローでも何でもねえ! 俺と同じ、犠牲なしじゃ誰も救えねえんだよ!! だったら役立たずは切り捨てろ! 偽善に走れよおおおおおおお!!」
時雨は壱へと向かい、空中であるにも関わらずロケットのような速さで向かってきた。
けれど、所詮はロケット止まり。
拳を受け流そうとし――刹那、罠だということに気づく。
しかし、遅い。
拳を受け流そうとした掌を空気のように受け流し、顔面へと拳がヒットする。
(存在、確立……ッ!!?)
「……!!」
息を吸うような痛みの声に時雨は更に拳を振るってくる。
そこには今までのような敵意はない。
ただ、執念のようなものを感じる。
壱は無様に転げるように逃げ続けるしかない。




