時雨登場
「光……?」
暗闇の中、当てもなく歩き続けること三分。
光が見えた。
光は扉の形を成しており、精神が高揚する。
「よし、行くぞ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ぐいっと、凛に腕を引っ張られ、前へ進めない。
「何だよ?」
「もうちょっと京みたいに罠かもしれないとか考えなさいよ!」
光の恩恵で顔がはっきりと分かるようになっていたので、凛の表情が良くわかる。
呆れていた。
「うーん、罠、ねえ……でもどうすん」
腕を組み、見上げながら呟いた壱だったが名案を思いついたようにぱっと顔色が明るくなった。
「上から脱出すりゃいいじゃん」
「あ……」
瞬間。
男が光の扉から壱の目の前に現れた。
かつて倉敷壱を苦しめた相手。
七大魔術師。
壱に絶望を与えた男。
「時雨……ッ!!」
「え? 誰? 敵なの?」
凛の台詞に壱は軽く頷く。
あの時は運よく勝てただけで、今回も勝てるとは思わない。
恐怖で思わず、後ずさりそうになる。
否、実際、二歩ほど後ずさっていた。
身体に染み付いた恐怖。
未だに離れないトラウマ。
クレアの為に戦った。
けど、今回は――。
「戦う必要なんざねえ……ッ」
撒いて、逃げてクレアを助ける。
確実に助ける方法を模索する。
勝つ事が至上命題じゃない。
凛を抱え、上へと飛ぶ。
「逃げるなよォ!!」
時雨が一気に距離を詰める。
壱は体中から脂汗が一気に吹き出る。
速い。
天井を壊す。
もう少し。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
上へと手を伸ばす。
下から圧倒的なまでの水が壱を襲った。
まるで津波。
上へと叩き上げられる。
凛を抱きしめ、粒子で護る。
しかし、それでも恐怖は存在する。
「きゃあああああああ!!?」
壱は背中から天井へと激突し――真横。
時雨が拳を振るう。
時雨は追撃の手を緩めない。
なぜなら壱の腕の中に居る『護るべき者』がある限り『ヒーロー』は全力で戦えないのだから。
しかし。
それは間違い。
壱は凛を切り捨てた。
音速を超える速度で凛を投げたのだ。
「な……っ!?」
時雨が驚愕に手を緩めた。
「おおおおおおおおおッ!!」
一気に決める。
壱は拳に魔力を込め、時雨の顔面へと打ち込む。
更に打ち込む。
合計数百発。時間にして千分の一秒。
時雨は宙から地面へと隕石のごとく落ちていく。
落ちた先の地面を貫き、更に落ちていく。
「ちょっと何するのよ!?」
地面で叫ぶ凛。
「一応粒子でガードしてたんだし、大丈夫だったろ?」
「脚……」
脚? と凛の脚を見ると何か駄目な具合に赤かった。
「あーマジでごめん……」
壱は素直に頭を下げ、しかし凛に言う。
「でも、今はんな事話してる場合じゃねーんだよ! さっさとここから逃げ……」
後ろから、気配。
時雨……ッ!!
「……そうか。テメエのはそう言えば粒子があったな。いつ見ても嫉妬するぐれえな性能だな」
壱の全身がこれから始まるであろう死闘へと恐怖とそれを乗り越えようとする本能で震える。
「「おおおおおおおおおおおおッッッ!!」」
地面を砕き、空気を切り裂き二人が激突する。




